17話 奴隷は主人の所有
玄関を飛び出してしまった。お兄様は追いかけてこない。
ああ、どうしよう。謝らないといけないのに。
でもお兄様と目を合わせてしまったら、嫌な言葉を口走ってしまいそう。
混乱している自分が恨めしい。
私ってこんなに幼くて分別つかないんだ。
少しだけ時間が欲しい、頭を冷やすだけの。でもこの世界に知り合いは……。
ああそうだ。リリファさんとランキスさんがいた。
ちょうど道路を挟んで向かいの家に2人は住んでる。
呼び鈴とかはないみたい。門をくぐり、お兄様の家と同じくらいに広くて綺麗な庭園を抜ける。
玄関には金具の輪っかが取り付けられてた。
TVで見たことあるから使い方は分かるけど、夜に大きな音を出すのは迷惑かな。
コンコンと、そっとドアをノックした。
あんまり音は響かなかったけど気付いてくれたみたいで足音が近づいてくる。
ガチャリって鍵が開く音。
リリファさんが、ドアの隙間から顔を覗かせてる。
お昼に買出しに行ったときの服装と違って、薄手の白いパーカーみたいなのを羽織ってる。
ペットに洋服着せてるみたいに不格好な私と違って、リリファさんみたいに可愛い女の子は、どんな服を着てても似合う。
「どうしたのアリス。こんな時間に何しに来たの」
リリファさんの表情がちょっと険しくなる。きっとボーっと立ったまま、私が何にも喋らないからかな。
どうしよう。
お兄様の、どんな話をすればいいんだろう。
ずっと黙りこくったままの私を眺めてるリリファさんはきっと、凄くイライラしてるだろう。
何を喋ればいいんだろう。どうしよう、また頭が真っ白になっちゃって。
「リリファ来たの誰だ、ってラズんとこの奴隷じゃねぇか」
ランキスさんだ。
そうだよね。リリファさんがいるんだからランキスさんがいて当然だよね。
奴隷って言葉の響き、やっぱりどうしても慣れないな。
「だりーな。リリファ、適当に相手してやれ。あーでも適当は駄目か、ラズ怒らせたら面倒臭いし。紅茶と茶菓子とか適当に出しとけ、じゃ俺寝るから」
欠伸混じりにランキスさんはどこかの部屋へと帰っていった。
「いらっしゃい」
リリファさんは私の手を取って案内してくれてる。
どれくらい歩くのだろう。ここはお兄様の屋敷と同じくらいに広い。
ランキスさんの許可が出たから案内してくれた、ってことなんだよね。
「奴隷は主人の所有物。私の全てはランキス様のものなのよ」
奴隷って。リリファさんはずっとスタンスが変わらないな。なんで自分が奴隷なのかって、一欠片もおかしいって思わないのかな。
「それで、こんな時間にどうしたの」
反論の言葉が思い付かない内にリリファさんは、いや反論しに来たんじゃないのに、相談しないと。お兄様と、その。
「ラズウェル様がどうしたの」
リリファさんにとってお兄様はラズウェル様なんだ。主人であるランキスさんの仲間っていう。
先に結論から話した方がいいのかな。
実はお兄様と喧嘩しちゃって、そのことで相談したくて来たんだ。こんな時間にごめんなさい。
「喧嘩?」
声のトーンが一段低くなった。
どうしちゃったんだろ急に。もしかして言葉が足りなかったかな。違う意味で伝わっちゃったかも。
慌てて訂正する。お兄様は悪くないの、悪いのは私だから。
「それは当然。奴隷は、ご主人様の所有物。ましてや奴隷ならばご主人様の快楽について常に考えるべき。貴女には奴隷としての自覚が全く足りていない」
来て。
そう言ってリリファさんは背を向けて、どんどんと歩いていってしまう。
怒っているの?
怒らせちゃうような発言、しちゃったかな。
向かいにあるお兄様の家くらい長い廊下を抜けた先に、リリファさんの部屋があった。
あまり家具とか置いていない。ベッドと机と物入れがあるだけの、なんか質素な部屋。
ガチャリって音。リリファさんが内側から鍵を掛けてた。
「じゃあ服を脱いで」
服を脱ぐ?
私が質問するより早く、リリファさんは優雅に脱ぎ、するりと床に落とした。
「何してるの、早く脱いで」
棒立ちしている私にリリファさんは叱責した。
脱ぐ、の。混乱しながら私はボタンを1つずつ外していく。
お互い下着姿になった。
相変わらずフンドシ姿の私。対してリリファさんのは、淫靡な刺繍が施された、上下お揃いの白くて綺麗なブラとショーツ。
その格好で静かに佇む。まるで奴隷であることにプライドを持っているかのように。
肌が白い。肌の面積が増えると更に実感する。
シミ1つない、とても綺麗な肌。手足も長くて美しくて。
リリファさんは完璧だった。美少女の要素を全て満たしている。
初対面の時から思い知らされてたけど、私とリリファさんの間には、月とスッポンの差があるんだろうなあ。
凄く緊張する。ちょっと相談したかっただけのつもりだったのに。
ベッドの縁に座らされて。するとリリファさんは私の正面にしゃがんだ。
「貴女がかつて、どういう身分だったのかは知らない。だけど今の貴女は紛れも無い奴隷。奴隷なのだから、こんなこと位で紅くならないで」
鋭い口調が、伏字の許されない部屋内に響く。
従わなくちゃいけない雰囲気。雌、はともかく奴隷の先輩なんだって強く認識させられた。
「男性がどうすれば悦ぶかを教えてあげる。それから応用も」
お、うよう?
反応する前に、リリファさんは私をベッドに押し倒した。




