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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第7章

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第7章 第24話

「………………んぁ?」


翌朝目覚めた修也に待っていたのは不自然な温かさと柔らかさに体を拘束されたような感覚、そして頬に感じる圧迫感だった。


(……あれ、今これどういう状況? 目覚めてすぐは動けないのはいつものことだけど、今日はまた別の何か原因が……)


幸い目は動くので修也は目だけで辺りを見回してみる。

修也の目に映ったのはいつもの自分の部屋とは違う光景だった。

部屋のつくりは大体一緒だが青系の家具や小物が多い気がする。


(あ、そうか昨日……)


少しずつ頭が覚醒してきた修也は昨日のことを思い出す。

翌日が土曜で学校が休みだということでいつもより遅くまで勉強しようと蒼芽が提案した。

そして日が変わる辺りで蒼芽が寝落ちしたので、勉強会はそこで終わり蒼芽を部屋まで運んだ。

そこまでは良かったのだが寝てるはずの蒼芽の腕に拘束され放してくれず、結局修也も蒼芽の部屋で寝ることになった。


(そしてこうなるわけか……)


寝ている間に蒼芽は両手両足を使って修也をがっちりホールドする体勢になったらしい。

更に自分の頬を修也の頬にくっつけていた。

限界まで修也に密着しているような形だ。


(……もう夏なのに暑くねぇのかね?)


修也はそう疑問に思うのだが、修也自身別に不快ではなかったりする。

暑さがどうのこうのなど、可愛い女の子に抱きつかれているという事実の前には正直どうでも良いのだ。

修也もその辺りは同年代の男と変わらない。

それよりも今の体勢だと顔が非常に近いことの方が修也は気になる。

さっきから蒼芽の寝息が耳に直接かかってくすぐったい。


「…………蒼芽ちゃーん、そろそろ目覚ましてくれねぇかなー……」


起きて少し時間が経ち体が動くようになってきた。

しかし相変わらず蒼芽にがっちりと密着されているせいで修也は腕を動かすことしかできない。

なので修也は蒼芽の背中を優しく叩きながら蒼芽に呼びかけてみる。


「…………ぅんー…………」


修也の呼びかけたからかどうかは分からないが、蒼芽に少し反応があった。


「…………んふぅ」


しかし蒼芽は目を覚まさず、むしろ修也にしがみつく力が若干強くなっただけだった。


「あ、蒼芽さーん? マジでそろそろ起きた方が良いんじゃないですかねー? 見えないけど多分パジャマはだけてますよー? それに色々当たってますからー」


下手に手を出したらセクハラになりかねない。

この状況では今更感も漂うが敢えて状況を悪化させる必要も無いので修也は少し狼狽えつつもさっきよりも強めに声をかける。

何故か敬語で。


「…………ぅん…………?」


その甲斐あったのかさっきよりも反応があった。


「そうそう起きてー。そして現状を確認してー」

「……………………」


修也の言葉に反応したのかどうかは分からないが、蒼芽はもぞもぞと動く。


「…………う、うわわわわ、わぁっ!?」


そして少し間を置き大慌てで修也を拘束していた手足を解き後ずさった結果、ベッドから転げ落ちるのであった。


「だ、大丈夫か蒼芽ちゃん……?」

「い、いたたたた……はっ!? あ、あのっ……どどどうして修也さんが、私の部屋で一緒に寝てたんですか……!?」


ベッドから落ちてはだけたパジャマを直しつつ蒼芽が顔を赤くさせながらベッドに戻り尋ねてくる。


「えーっと……先に言っておくけど疚しいことは一切してないからな?」

「あ……してないんですね……」


修也の言葉に何故かちょっと残念そうなニュアンスを含めて呟く蒼芽。

そんな蒼芽に少し疑問を抱いた修也だが、掘り下げても良いことは何も無さそうなのでそのまま流すことにする。


「そもそも蒼芽ちゃん、昨日はいつ寝たか覚えてるか?」

「え? ………………そう言えばいつでしたっけ?」


修也に指摘され蒼芽は考え込むが、答えが出ずに首を傾げる。


「今日が土曜日だからとことん勉強する、今夜は寝かせないって意気込んでたけど日が変わる辺りで寝落ちしちゃったんだよ」

「あ、そうだったんですね。それでベッドに入った記憶が無いんですね……あれ? じゃあどうして自分の部屋のベッドで……」

「まぁ無理に起こすのも可哀想だったから俺がそっと蒼芽ちゃんを抱えて部屋に運んだって寸法だ」

「あ、それで……すみません、修也さんのお手を煩わせて」

「いや、それは別に大したことじゃないから良い。……それにそこに関しては俺も謝らないといけないことがある」


頭を下げて謝る蒼芽に対し、修也はそう切り返す。


「え、何でしょう?」

「蒼芽ちゃんを運ぶ際に抱え上げたわけだが……そのためにはどうしても蒼芽ちゃんに触れる必要がある。俺は超能力者…………ではあるけど念動力なんて無いからな」

「ええ、それは当然のことですね」

「で、その…………抱え上げるという体勢の関係上どうしてもお尻に手を当てないといけなくて」

「はぁ……つまり修也さんは私のお尻を触ったことを謝らなきゃならないと思ってる、と」

「まぁ端的に言うと……そういうことに、なる」


蒼芽の言葉に修也は歯切れ悪く答える。

それを聞いて蒼芽は少し考えて……


「……別にそれ、どこにも謝るところ無いと思うんですけど?」

「えっ?」


そう返した。

予想外の蒼芽の反応に修也は驚いて聞き返す。


「修也さんは勉強中に寝落ちしてしまった私を運んでくれた。その際体勢の関係上私のお尻に触れることになった。これのどこに修也さんを責める要素があるんですか?」

「いや……どんな理由があろうとも許可無く女の子のお尻に触れるとか重罪ものだろ」

「いやいや少なくとも私はその程度では怒りませんよ。正当な理由があったんですから。寝ていた私に許可を取るのも無理な話ですし」

「そういうもんなの……?」

「でも他の子は分かりませんので気を付けてくださいね? やるなら私だけにしてください」

「そもそもやらないよそんなこと。今回もやむを得ずだな……」

「私も修也さん以外だったら普通にセクハラで訴えてますので」

「そ、そうか……でもそれだけじゃなくて……えーっと、その……これまた体勢の関係上……胸にも当たっちゃってさ……」


先程よりもさらに歯切れ悪く打ち明ける修也。


「えっ? 当たるほど私の胸ありました!? やったぁ!」

「気にすんのそこ!? え、てか何でそんなちょっと嬉しそうなの!?」


しかしさらに予想外の反応をする蒼芽に修也は今度は突っ込まざるを得なくなる。


「いやぁ私も年頃の女の子なのでそういうのは気になっちゃうんですよね」

「そういうもんなのか……?」

「由衣ちゃんは大きくなったって言ってくれましたけど、世の中上には上がいますから。それに知ってますか修也さん? 可愛い服って大体はある程度胸が大きくないと着ても似合わないんですよ」

「あー……俺としてはリアクションに困るからあまり深く掘り下げないでくれると助かるかなー……」


まさか胸に当たったことを打ち明けて喜ばれるとは思わなかったが、とにかくこの件に関して蒼芽は全く怒ってないことが分かっただけでも良かった。

修也はそう思いホッと胸を撫で下ろす。


「じゃあ話を戻しまして……とりあえず今の時点では修也さんが私のベッドで寝ていた理由は出て来てませんね?」

「それなんだが……まぁ無事部屋に運んでベッドに降ろしたんだが、蒼芽ちゃんががっちり腕を回してて放してくれなくてな」

「え」


修也がそう言うと同時に蒼芽が硬直する。


「呼びかけてみたけど全く起きる様子が無いし抜けることもできなかったもんで他に手も思いつかず」

「…………」


修也の説明が進むにつれて蒼芽は表情が引きつりダラダラと冷や汗をかいていく。


「で、どうにもできず結局添い寝する形でベッドに入った途端両手足で俺の体をがっちりホールドし、仕舞いにゃ寝息を耳に吹きかけて頬まで密着させてきたと」

「す、すみませんでしたああああぁぁぁぁ!!」


そして一通り説明が終わると蒼芽は勢いよく土下座の姿勢になって修也に謝る。


「え? 蒼芽ちゃんが謝るの? 何で?」

「修也さんのお手を煩わせただけでなく無意識とはいえ手を放さずベッドに引きずり込むような真似をして、何とお詫びすれば良いのか……」

「そんな大げさな」

「もう胸でもお尻でも気の済むまで触ってもらって良いですから! それでお詫びになるかは分かりませんが、どうか……どうか許してくださぁぁい!」

「ちょっ、落ち着けぇ! 自分の体を安売りするもんじゃありません!!」


テンパっておかしなことを言いだした蒼芽を修也は諫める。


「というか許すも何も怒ってないから!」

「え? でもそういうのって通報事案のような……」

「それは見も知らずの関係性で合意の無い場合だろ。あと基本的に男女の立場が逆!」

「でもたとえ逆でも事案は成立するわけですし……」

「そもそも前にも一緒に寝るくらいはやってるんだから通報も何も無いっつの」

「ですが……」

「それにハラスメントってのは相手が不快になったらアウトなの。この件で別に俺は不快に思ってないから問題無し! むしろちょっと役得」

「あ、だったら私も全く不快ではなかったから大丈夫ですね。これだけ熟睡できたのは生まれて初めてかもしれません」

「だからもうお互い様ということで片をつけようぜ。この件はお互い言いっこ無しだ」

「…………分かりました。修也さんがそう言うなら……」


修也の言うことに渋々ではあるが蒼芽は頷いた。


「よし、それじゃあ俺は着替えてくる」

「あ、私も着替えないと」

「じゃ、また後でな」


そう言って修也は蒼芽の部屋を後にした。


「………………修也さんが添い寝してくれてたのに熟睡してたとか……もったいないことしたなぁ……でも修也さんが添い寝してくれてたからこそ熟睡できたってのもあるだろうし……」


修也が部屋を出た後蒼芽がそんなことをぽつりとつぶやいていたということに修也が気づくことは無く、慌ただしい朝の時間は過ぎていくのであった。


●


「おはようございます修也さん、蒼芽」

「おはようございます紅音さん」

「おはようお母さん」


着替え終えた修也と蒼芽は揃ってリビングに入る。

キッチンでは紅音がいつもと同じように朝食の支度をしてくれていた。


「最近は週末でも蒼芽が早起きするようになったから朝の準備が楽になったわ」

「人間何かきっかけがあれば変われるってことだね」

「確かになぁ……俺もここに引っ越してきて人生変わったよ」


蒼芽の言葉を受けしみじみと呟く修也。

厄介者の爪弾き人生から超が付くほどの人気者になるなど誰が想像できただろうか。


「修也さんがこの町に来て良かったと思ってもらえたなら私も嬉しいです」

「まぁ確実に暮らしやすくはなったな。人気者とはいえある程度は周りも気を遣ってくれているし」


問答無用で囲まれて動きがとれないとかなら厄介だったが、誰かが一緒にいればその限りではない。

そして大概は蒼芽かクラスメートがそばにいるので日常生活にそこまで影響は無い。


「ふふ、修也さんが平和な学校生活を送れているようで何よりです。ところで……」


修也の様子を見て微笑んでいた紅音が朝食を食卓に並べながら話題を変える。


「今朝は随分賑やかでしたけど、何かありましたか?」

「えっ!?」


紅音の問いに蒼芽が表情を引きつらせる。

あれだけ大騒ぎすれば階下の紅音にも聞こえるのは当然だろう。

しかし蒼芽としては紅音に今朝の騒動を詳しく知られるのは避けたい。

ほぼ確実にイジりのネタにされるだろうからだ。


「あぁいや……今日が休みってことで昨日はいつもより遅くまでテスト勉強してたんですよ。でも途中で蒼芽ちゃんが寝落ちしちゃいましてね、それで俺が蒼芽ちゃんを部屋まで運んだんですけどそのことで大層謝られまして」

「! そ、そうなのよ修也さんのお手を煩わせちゃって……本当にすみませんでした修也さん」


それに対し修也はスラスラと理由を述べる。

嘘は言っていない……が、真実を全て話した訳でもない。

修也としても全てを話すのは良くない気がしたのでそういう形を取ったのだ。

そしてそれを察した蒼芽は修也の説明に便乗する。


「あらまぁ、それは……修也さん、よく無事に戻ってこれましたね?」

「いや私のことを何だと思ってるのお母さん」

「もし修也さんの身に何かあったとしたら、お預かりしている身としてご両親に何と申し立てすれば良いか分かりませんので」

「それ普通逆じゃないですかね? 前にも言いましたけど俺が気遣われる側なんですか?」

「今は立場が逆転するのも珍しい話じゃありませんよ? 女性側が男性側に迫るパターンがあっても良いでしょう」

「いやいや……蒼芽ちゃんを焚きつけようとしないでくださいよ。仮にも自分の娘でしょうに」

「自分の娘だからこそ、ですよ。蒼芽、ここは前にも言った通り既成事実を……」

「お母さん!」


顔を赤くさせながら紅音の言葉を遮る蒼芽。


「というかさっき俺の身に何かあったらどうのこうのと言ってませんでしたか?」

「それはそれ、これはこれですよ修也さん」

「えぇ…………」


軽やかにエグいことを言われたような気がして修也はげんなりする。


「あの、修也さん……お願いですから幻滅しないでくださいね? 私はそんなこと微塵も考えてませんから」

「うん、大丈夫。分かってるから。そんなガチに真剣な表情で詰め寄ってこなくていいから」

「あ、だからと言って邪険に扱うつもりなんて更に無いですからね?」

「うん、大丈夫大丈夫。蒼芽ちゃんが普段から俺に良くしてくれてるのはホントに分かってるから。だからほら、さっさと朝食食おうぜ」


このままではいつまで経っても状況が進まないと思った修也は、強引に話を打ち切ることにしたのであった。

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