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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第7章

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第7章 第23話

その後も修也は放課後は教室でいつもの面子と勉強会、家に帰ってからは蒼芽と由衣との3人でテスト勉強を続けていた。

何度も繰り返しやっているとそのうち慣れてくるもので、皆で机を囲んで勉強するというスタイルも馴染んできた。

1人でやるよりはどうしても騒がしいが、慣れてみればどうということは無い。


「うひょおおおぉぉぉ!! 見てくだされ白峰殿! 炭素原子と水素原子が激しく入り乱れておりますぞぉぉぉ!!」

「ほああああ!? な、なんてことですの!? 炭素原子さんたちが6人でつながって正六角形状に輪を作っておきながら、水素原子さんにまで手を出すなんてえぇぇぇ!!」

「…………ひょっとしてベンゼン環の話か?」

「あの2人にかかれば原子までそういう対象になるのか」


事あるごとに白峰さんと黒沢さんが大騒ぎするのにもいい加減慣れた。

勉強の手は止めずに修也と彰彦はため息を吐く。


「あれで勉強になってるのかねぇ……?」

「あの2人にとってはあれが一番身に付くんでしょ」

「……だったら外野の俺らがあれこれ言うのは違うか」


爽香の言うことはもっともだ。

白峰さんと黒沢さんにとってそれが一番効率が良い方法だというのであれば、修也に口出しする権利は無い。


「さ、そういう特殊な方法が無い俺らは地道に勉強だ」

「詩歌だったらお料理に結び付ければ行けるんじゃない?」

「ど、どうだろ…………? 家庭科ならともかく、そんなことするくらいなら……普通に勉強した方が、早い気がするかな……?」

「先輩の場合は絵に関連付けるとか?」

「うーん……それも美術ならいけるだろうけど他は無理がありそうだねぇ。そもそも絵は趣味でやってるだけだし」

「あ……わ、分かります……自分で好きにやるなら良いけど……やらされてる感が出ると、一気にやる気が……」

「あ、詩歌ちゃんもなんだね? そうなんだよねぇ……趣味でやるんならいくらでもやれるけど、外野からやれと言われると萎えるんだよね」


お互い通ずるものがあったのか、華穂はともかくとして詩歌にしては珍しく話が弾んでいる。


「……そう考えるとあの2人はスゲェな。どんなものでも自分の趣味の領域に引き込んでテンション上げられるし」

「ある種の才能ってやつなのかな」


そう言って修也と彰彦が視線を向けた先では……


「ぬふぉおおおぉぉぉ!! な、なんとここに酸素原子も加わるというのですかな!?」

「しゅ、守備範囲が広すぎですわ炭素原子さん! 4股とかどれだけ節操が無いんですの!? とんだハーレム野郎ですわ!!」

「だがそれが良い……であるのですな?」

「えぇ……周りに色んな原子さんを侍らす炭素原子さん……想像したら涎と鼻血が止まりませんわうふふふふふ」

「…………ただ羨ましくはない」

「あ、あはは……」


美少女が台無しになりそうなにやけ面をしている2人をバッサリと切り捨てる修也。

蒼芽はそれを見て苦笑いするのであった。


●


そんな騒がしい勉強会を繰り返しているうちに週末が近づいてきた。


「…………ふむ、今日はこれくらいにしておくか」


時刻が5時ちょうどになったあたりで塔次がそう告げる。


「しかしよくよく考えてみれば水素原子さんは誰にでもすぐ靡いてしまう尻軽野郎という解釈もできますわね」

「むむ、確かに! 少しは数字のゼロ殿のように誰にも染められない芯の強いところを……」

「はいはい今日はここまで! その辺で終わっとけ」


まだよく分からない議論を続ける白峰さんと黒沢さんに修也は無理やり割って入る。


「おやもうそんな時間ですか。勉強会で時間が経つのが早いと感じるのは今回が初めてですぞ」

「私もですわ。それもこれも氷室さんの啓発のおかげ……今日も非常に有意義な時間でした」

「うん、まぁ……良い経験だったのは間違いないな」


約2名ほどがやたらと騒がしかったが、決して悪い思い出にはならないだろう。

修也はそう思う。


「うむ、そう感じたのであれば今回の勉強会は成功だな」

「…………で、一番の目的である霧生は…………」


塔次が満足気に頷く中、修也は戒の方をちらりと見やる。


「だあああぁぁぁぁーーーー…………つ、疲れた…………」


その戒は机の上に取っ伏していた。


「おお、『疲れた』で終わるあたり成長したな霧生」

「初日は魂抜けてたもんな。美穂さんの応援があっても流石に無理かと諦めかけたもんだが」

「み、美穂さんとの約束もあるけど…………お前らが俺の為に勉強会なんて開いてくれたんだから、頑張らないと……」

「おぉー、根性あるじゃねぇか。見直したぜ霧生」


絞り出すような戒の呟きを聞いて瑞音は笑いながら戒の肩を叩く。


「こんな時は何か食いながら帰るに限るな……購買ってまだやってたっけ……?」

「いや流石にもう閉まってるんじゃね? 知らんけど」

「それじゃあコンビニでも寄るか……じゃあな」


そう言って戒は立ち上がり、フラフラとした足取りで教室を出ていった。

心なしか少し瘦せたような気もする。


「まぁ……アイツにしては頑張った方か」

「それが結果として反映されるかどうかはまた別問題だがな。所詮は急ごしらえの付け焼刃だ」


教室の出口を見ながら呟く修也に塔次が答える。


「また身も蓋も無いことを……」

「努力量と結果が比例しないのは世の常だ。ただ何もしないよりか可能性は上がるのは間違いない」

「多少なりとも結果は出てほしいもんだがな……目に見える結果が出てこないとやる気も出ないだろ」

「そこに関しては問題無かろう」


戒を気遣う発言をする修也に対しそう言い切る塔次。


「それは何故? 今努力量と結果は比例しないと言ったばかりじゃねぇか」

「霧生の場合これ以上下がりようが無いからだ。比例するかは分からんが多少なりとも上がるのは間違いない」

「……そこまで酷かったのかよ、霧生のやつ……」


塔次の答えに修也は呆れるしかできないのであった。


●


「勉強って分かり始めると楽しいねー」


学校での勉強会が終わった後、修也の部屋で蒼芽と由衣との3人で再び勉強会をしている途中で由衣がそんなことを言いだした。


「そう?」

「うんっ! なぞなぞを解く感じに似てるなーって思えてきたんだよねー」

「あー確かに似てる部分はあるな」


どちらも出された問題を解くということは共通している。


「だったら今後のテスト勉強も心配無いね」

「んー……でもやっぱりおにーさんとおねーさんと一緒にやる方が楽しいなー」

「まぁそれで由衣ちゃんの成績が上がるんなら……」


勉強に対するモチベーションの上げ方は人それぞれ。

今回の学校での勉強会でそれを知った修也はこれ以上の言及は避ける。


「そー言えばおにーさんはどーやって勉強のやる気を出してるのー?」

「あ、それは気になりますね。私と由衣ちゃんは修也さんがそばにいることでしたけど」

「え? んー……蒼芽ちゃんには言ったけど俺の場合、勉強は日課になってたからなぁ……やる気も何もルーティンワークとして淡々とこなしてたよ」

「えー? それじゃーつまんないよー」


修也の答えを聞いて由衣は不満そうに口を尖らせる。


「私もそれだと3日も持たない自信があります……」

「要は慣れだよ、慣れ。それに2人とも今はちゃんと毎日勉強してるじゃないか」

「それはおにーさんがいるからだよー」

「いや俺にそんな多目的性を持たせんでも」

「でも事実ですよ。何かあればすぐ聞ける環境というものは良いものです。それに1人で自分の部屋で勉強しているとどうしても誘惑が……」

「ねー。ついつい遊びたくなっちゃうんだよー」

「あー……なるほど学習塾とかの自習スペースってそういう誘惑を断ち切る意味もあるのか」


修也としては家で勉強できるのに何故わざわざお金を払ってそんなものを利用するのかが分からなかったが、蒼芽たちの話を聞いて納得する。


「というかですね? いくら習慣化してるからと言ってもあらゆる誘惑を跳ねのける修也さんが特別なんですからね?」

「そんな人を修行僧みたいに……」

「じゃあおにーさん、今日のテスト勉強は終わりにして遊ぼーよー」

「今はテスト期間中だから、終わってからな」

「ほら、そういう所ですよ!」

「えぇ……別に間違ったこと言ってないはずなのに何で責められてんの……?」


蒼芽の謎の糾弾を受けてげんなりする修也。


「はいはい今日はあと少しなんだから頑張って」

「はーい」

「はーい」


仕切り直す修也に従って蒼芽と由衣は再び机に向かう。

修也もキリの良いところまで進めるために参考書を読み進めるのであった。


●


「それじゃーおやすみなさいおにーさんおねーさん」


時間が来たので由衣は勉強道具を片付けていつもと同じように窓から帰っていった。


「さて、それじゃあ俺たちも……」

「あ、修也さん。ちょっと良いですか? 明日は土曜で学校はお休みですし、もうちょっとテスト勉強やりませんか?」


由衣が自分の部屋に入ったのを見てから机の上を片付けようとした修也に蒼芽がそんな提案をする。


「おお……テスト勉強が苦手だって言ってた蒼芽ちゃんからそんな言葉が出るとは……」

「あはは、それは修也さんのおかげですね。修也さんと一緒なら何だってできそうな気がするんですよ」

「よーし分かった。そこまで言うならとことん付き合ったろうじゃないの」

「あっ、言いましたね? それじゃあとことん付き合ってもらいますよ。今夜は寝かせませんから」


修也の軽口に合わせ蒼芽も軽い口調で応じる。

そしてお互い気合を入れ直してテスト勉強を再開した。


●


「……………………」

「……………………ん?」


再び机に向かってテスト勉強を開始した修也だが、しばらく時間が経ってからふと蒼芽に動きが無いような気がして振り向いた。

そこでは蒼芽が勉強する姿勢のままこっくりこっくりと頭を揺らしていた。

シャーペンを握る手にも力が入っておらず動きが止まっている。


「ありゃ寝ちゃったか蒼芽ちゃん。まぁ無理も無いよな」


部屋の時計は12時近くを指している。

普段なら既に寝ている時間だろう。


「蒼芽ちゃん? おーい蒼芽ちゃーん」


席を立ち蒼芽の肩をゆすってみるが反応は無い。


「うーん……このままにしておくのは流石に可哀想だな……仕方ない」


修也は意を決して正面から寝ている蒼芽の腕を自分の肩に回し、足を持ち抱え上げた。

そして途中で落ちたりしないようにしっかりと蒼芽の体を支える。


(体勢の関係上どうしても胸が当たるしお尻に手が行ってしまうのは勘弁してもらおう……)


少々罪悪感はあるが仕方がない。

明日ちゃんと謝っておくことを心に留めて修也はその体勢のまま部屋を出る。


「すー…………すー…………」


幸いと言うか何と言うか、蒼芽が起きそうな気配は無い。

むしろ心なしかさらに深く寝入った気もする。


(よし、さっさと移動だ)


蒼芽も重くないとはいえ長時間支え続けるのは流石に腕が疲れる。

修也は急ぎながらも階下で寝ているであろう紅音の迷惑にならないように静かに隣の蒼芽の部屋まで移動した。

そしてそっとドアを開けて部屋の電気をつける。

部屋の中は女の子としては珍しく青系の色の家具がちりばめられていた。


(やっぱ青が好きなんだなぁ……あ、そういや蒼芽ちゃんの部屋に入るのってこれが初めてだな)


舞原家にやってきて結構経ったが、なかなか蒼芽の部屋に入る機会が無かったことに修也は気づく。


(何なら由衣ちゃんの部屋に入った方が先という……まぁそれはどうでも良いか)


本人の了承無くいつまでも部屋に居座るわけにもいかない。

修也はさっさと蒼芽をベッドの上まで運ぶ。


(よしこれで………………ん?)


蒼芽をベッドにそっと置き立ち去るために離れようとした修也だが、それを阻害されたことに違和感を覚える。


(あ、これ蒼芽ちゃんの腕が俺の首の後ろまで回ってる)


移動中は支えやすかったのでむしろ好都合だったのだが、今は逆に放せなくなってしまっている。


「蒼芽ちゃーん……ちょっとで良いから起きてくれー……そして放してくれー……」


修也は呼びかけてみるが蒼芽が起きる様子は無い。


「…………詰んだか? これ」


放そうにも放せない。

起こそうにも起きそうにない。

八方ふさがりである。


(…………こりゃ明日蒼芽ちゃんに謝る項目が増えたな……)


覚悟を決めた修也は蒼芽の横に寄り添うように寝る。

それを待っていたと言わんばかりに蒼芽は足も修也の体に絡みつけてきた。


「いやホントに寝てんの蒼芽ちゃん? 起きてねぇかこれ?」


望みをかけて呼びかけてみるが不自然な反応は無い。

どうやら蒼芽は本当に寝ているようだ。


「……あ、部屋の電気どうしよう……?」


ここで部屋の照明を消していないことに気づいた修也。

再び起き上がることはできそうに無いし、かと言って照明をつけたまま寝るのも電気がもったいない。


「こうなったら……できるかどうかは分からんが」


修也は『力』を使い、空気を細長い棒状に固める。

そしてそれを照明のスイッチのある所に向けて突いた。

何度かの試行の末、偶然うまくスイッチに当たり部屋の照明が消える。


「…………何でもやってみるもんだな……にしてもこんなことに『力』を使う日が来るとは」


どっと疲れが溜まった気がした修也は蒼芽の寝息が真横から聞こえる中で眠りにつくのであった。

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