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守護異能力者の日常新生活記  作者: ソーマ
第6章

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第6章 第10話

「えーっと…………由衣ちゃんはどこにいるんだ?」


例によってしばらく時間を置いた後、修也は蒼芽と一緒に試着室まで来ていた。

試着室のいくつかはカーテンが閉められており、当然ではあるが中を確認することはできない。


「由衣ちゃーん、どこにいるの?」

「あっ! ここだよーおにーさんおねーさん!」


蒼芽の呼びかけに対し、一番左の試着室から声が返ってきた。


「どう? サイズとか大丈夫?」

「うんっ! ぴったりだよー!」


そう言うと同時に試着室のカーテンが開けられた。

中から出てきた由衣は先程持っていた水着を身に着けていた。

蒼芽程ではないものの上下に分かれているだけあってスクール水着よりは露出がある。

それでも由衣の性格もあってか、色気よりも快活さが表に出てくる印象だ。


「蒼芽ちゃんのと違って上がタンクトップみたいになってんだな」

「いわゆるタンキニってやつですね」

「タン……キニ?」


蒼芽の口から出た聞き覚えのない単語に首をひねる修也。


「『タンクトップ』と『ビキニ』を混ぜ合わせた造語ですよ。ビキニよりも露出が少なくて、ワンピースよりも可愛いデザインが多いので割と人気なんですよ?」

「ふーん……そんなのがあるんだなぁ」

「ねーねーどうかなーおにーさんおねーさん。似合うー?」


蒼芽の解説に修也が相槌を打っている間、そう言って体をひねったり回ったりして水着姿を見せる由衣。


「ああ、似合ってるぞ。何と言うか……とても由衣ちゃんっぽい」

「そうですね。うん、とても可愛いよ由衣ちゃん」

「えへへー」


修也と蒼芽にそう言われ、由衣は表情を綻ばせる。


「んー……でもやっぱりおねーさんみたいにはなれないなー……」


だがすぐに不満そうに頬を膨らませる由衣。


「ん? どういうこと?」

「おねーさんみたいな水着は私にはまだまだ似合わなさそうだしー」

「え? 蒼芽ちゃんの水着も大体同じ形じゃなかったか? 上下分かれてたし」

「私のはセパレートですね。タンキニより露出は多いけどビキニよりは少ないんです」

「……全っ然違いが分かんねぇ……」


未知の世界の話に段々修也は頭が痛くなってくる。

修也には今挙げられた水着のデザインの何が違うのかがサッパリ分からない。


「まぁとりあえず……別に無理に蒼芽ちゃんを目指す必要は無いんじゃないか? 由衣ちゃんには由衣ちゃんの良さがあるだろ」

「私の良さってー?」

「それはやっぱりいつも元気で笑顔な所だろ」

「ですね。だからこそその水着もすごく似合ってると私も修也さんも思うんだよ」

「多分蒼芽ちゃんが同じ水着着ても由衣ちゃん程は似合わないんじゃないかな」

「えー、おねーさんならどんな水着でも似合うよー」

「かもしれないけどその水着なら由衣ちゃんの方が似合うってこった」

「そっかー、えへへー」


最初は不満気だった由衣も段々とご機嫌になっていく。


「それじゃあこれにしよっかなー。でもせっかくだったら他の水着も着てみたいなー」

「着てみれば良いんじゃない? それよりももっと気に入るものがあるかもしれないよ?」

「うんっ! じゃあ一旦着替えるねー」


そう言って由衣は再びカーテンを閉めた。


「すみません修也さん、勝手に決めてしまいましたけど大丈夫でしたか?」

「うんまぁ特に予定も無いし問題ない」


蒼芽が隣にいるおかげで前回ほどアウェー感は無い。

そのことに内心安堵のため息をつきつつ修也は由衣が着替え終えるのを待つのであった。



「それじゃあちょっと見てくるねー! おねーさんこれ持っててー」


少しして試着室から出てきた由衣は、今着てた水着を蒼芽に手渡して再び水着売り場へ駆け出して行った。


「あら、ここにいたのね2人とも」


それと入れ替わりで爽香と詩歌がやってくる。

その手にはかなりの量の水着を持っていた。


「……それ全部着てみるのか?」


修也は少し眉をひそめながら尋ねる。

複数の候補を選んだ上でその中から気に入ったものを買うという気持ちは分からないでもないが、それでも多すぎる。


「いくら何でも疲れないか……?」

「あぁついでだから私も良いものがあれば買っておこうと思ってね」

「なるほど、2人分か……どうだ詩歌、気に入りそうなものはあったか?」

「え、えっと……その、可愛いなって思うものは……あったんですけど……」


修也の質問に詩歌は俯きながら答える。


「悪くは無いけどちょっと地味なのよね。気持ちは分からなくもないけど」


そう言って爽香が手に取ったのはワンピース型の水着だ。

色もデザインもそこまで派手なものではなくかなりシンプルなものだ。


「うん、そうだよな。水着って言ったらこんな感じのものが普通だ」


やっと自分のイメージする普通の水着が出てきたことに何度も頷く修也。


「あら、土神君はこういうスタンダードなものが好きなの? じゃあこれも選択の余地はあるのね」

「お、お姉ちゃん……!」

「いや別に自分が気に入ったもので良いじゃねぇか。無理に他人の好みに合わせる必要は無いと思うぞ」

「でも意外性を狙うのもたまには良いじゃない。こんな大人しい詩歌が大胆な水着を着てきた! とかインパクト絶大でしょ」

「その前に詩歌本人がぶっ倒れるわ」


真面目に考察を始めた爽香を修也は諫める。


「……でも土神君からそんな言葉が出るってことは、舞原さんはどんな水着を買ったわけ?」

「あ、私はセパレートタイプの水着です。で、由衣ちゃんがさっき試着してたのはこのタンキニなんですよ」


そう言って蒼芽は先程由衣に手渡された水着を見せる。


「……見なさい詩歌、平下さんでもああいう水着を選んでるのよ? 詩歌も試しに着るくらいならやってみても良いじゃない」

「で、でも……」

「そこまで言うなら爽香も着るんだろうな?」


詩歌に助け舟を出すつもりで修也は話の矛先を爽香に向ける。


「そうね。彰彦もいないし着てみるくらいはするつもりよ」

「ん? 何で仁敷?」


唐突に彰彦の名前が出てきたことに首を傾げる修也。


「仁敷さんに着たところを見せたい……ということなら分かりますけど、逆なんですか?」


蒼芽も疑問に思ったようで修也と同様に首を傾げる。


「そういう系が仁敷の趣味じゃないとか?」

「そうじゃないわ。あまり私が目を引く服を着て彰彦の隣に立つと霞むのよ、彰彦が」

「…………は?」


爽香の言っていることの意味が分からず修也はつい間の抜けた返事をしてしまう。


「ええとそれは……相対的に仁敷が目立たなくなるとかそういう……?」

「いいえ、物理的に霞むのよ」

「マジ!?」

「そ、そうらしいです……お姉ちゃんがあまり派手な格好をしないのは……それを避けるため、らしいです……」

「まぁシンプルに私の趣味じゃないってのもあるけどね」


にわかには信じがたいが、詩歌がそう言うのであれば本当なのだろう。


「まっ、確かに土神君の言う通り詩歌に勧めておいて自分は着ないというのは違うわよね」

「いや詩歌も着ないという選択肢は」

「無いわね」

「えぇ……」


きっぱりと言い切る爽香に修也はため息しか出ない。


「それに趣味じゃないけど興味が無いわけじゃないし」

「別に爽香の趣味や興味にどうこう言うつもりはないが、それに詩歌を巻き込まんでも」

「逆よ。詩歌の可能性というか視野を広げるのに私が付き合ってるのよ。詩歌はやる前から諦める癖があるから」

「それとこれとは何か違う気がするが……」


爽香の言い分に眉根を寄せる修也。


「それに1人だとやり辛いことでも複数人なら少しは気楽になるでしょ?」

「あーまぁそれは分かる」


人間はどうしても集団心理が働く生き物である。

1人だけ違うことをやっていると不安になる気持ちは修也も理解できる。

詩歌を不安にさせないために自分も付き合うという爽香の言うことは筋が通っているように思える。


(ん? でもそれ……立場が逆でも同じことが言えなくないか?)


だが修也の脳裏には別の仮説が浮かび上がった。

先程爽香は目を引くデザインの水着に興味はあると言った。

つまり爽香自身が着てみたいが1人だと抵抗があるから詩歌を巻き込んだと考えられなくもない。


(まぁ……別にどっちでも良いけど)


ただ実際のところどっちであろうとも修也には影響は無い。

というか修也が口をはさむ問題ではない。


「あ、やっぱり彰彦も呼びましょ」


修也がそんなことを考えているうちに唐突に爽香がそんなことを言いだした。


「え、何で急に」

「さっき言ったでしょ、複数人なら少しは気楽になるって」

「いや別に仁敷が水着着るわけじゃねぇんだから……」

「それに何だかんだ言って詩歌の緊張を一番解せるのは彰彦なのよ」


確かに先日ボウリングに行ったとき、詩歌自身が彰彦となら普通に話せると言っていた。

修也は『怖くない』だけであり、普通に話せるかはまた別問題なのである。


「それに実際に証明したいし。私が目を引く服を着たら彰彦が霞んで見えることを」

「……それ実際にそう見えたら見えたでなんか複雑だぞ」

「……あ、もしもし彰彦? 今モールにいるんだけどちょっと来てくれないかしら」


呻くような修也の呟きを無視して彰彦に電話をかける爽香であった。



十数分後。


「……何かスマン、仁敷」

「土神が謝ることじゃねぇだろ。爽香の急な呼び出しはもう慣れっこだよ。何年幼馴染やってると思ってんだ」


モールにやってきた彰彦に謝る修也。

それに対して彰彦は嫌そうな顔を全くさせずに修也を諫める。


「で、何だってんだ?」

「この夏いつもの面子で海とかに行くかもしれないから水着を買おうって話になったのよ」

「土神や舞原さんも?」

「いや、俺たちはもう買ってる。今日買うのは由衣ちゃんと詩歌と爽香だ」

「……何で俺呼ばれたの? いなくても問題無くね?」

「あー……んー……」


彰彦の当然の疑問に修也は口ごもる。

まさか爽香の言うことが本当かどうかを検証するために呼ばれたなどと言うわけにはいかない。

何でも正直に言えば良いというわけではないのだ。


「…………まぁアレだ。爽香の水着姿を彼氏であるお前より先に見るのもどうよって話で……」


なので修也は適当に思いついたそれっぽい理由を彰彦に耳打ちすることにした。


「いや別にそんな気を遣ってもらわなくても良いんだが」

「それに俺たちよりも仁敷の方が忌憚ない意見を出せると思うし」


修也と蒼芽と由衣はそこまで言い合えるほど付き合いが長くないし、詩歌は性格上強くは言えないだろう。

となると彰彦が最適であることに違いは無い。


「でもそういうのって当日のお披露目までのお楽しみ……って考え方も無いか?」

「あー……確かにそういう考え方もあるなぁ。蒼芽ちゃん的にはどう?」

「んー、当日にお披露目したい気持ちも色々試着してみて感想を聞きたい気持ちも分かりますねぇ……詩歌は?」

「えっ? わ、私は……」


適当に持ち出した理由だが、意外と真面目に議論が始まった。

ああでもないこうでもないと意見が飛び交う。


「はいはい、もう来た以上あれこれ言っても仕方ないでしょ」


それを強引にまとめ上げる爽香。


「ただいまー! 着てみたい水着いっぱい持ってきたよー!」


そこに由衣も水着を何着か持って戻ってきた。


「あっ、仁敷おにーさんだー! こんにちはー」

「こんにちは平下さん。平下さんも水着買うのか?」

「うんっ! でもここ、可愛いのがいっぱいあるから迷うんだよねー」

「それでその数ってわけか……」


修也は由衣が持ってきた水着を見ながら呟く。


「じゃあ早速着てみるねー!」


そう言って由衣は再び試着室に戻った。


「さ、私たちも試着しましょ」

「ほ、本当にこれを着るの……?」


続いて爽香も試着室に入ろうとするが、詩歌はまだ抵抗があるようだ。


「この程度の水着で何言ってるのよ。そんなこと言ってたら何も着れなくなるわよ」

「うぅ……」


爽香にそう言われ、詩歌は顔を赤くさせて俯く。


「あー……何だったら俺席外すけど」

「ダメよ、実際にはもっといろんな人の視線を浴びるのよ? 土神君1人で躊躇してどうするのよ」

「土神先輩1人でというか……土神先輩だからというか……」


俯いたままボソボソと呟く詩歌だが、その声は小さ過ぎて誰の耳にも届かない。


「1つ目着替えたよー! 見て見ておにーさん、おねーさん!」


そうこうしているうちに由衣が入っていた試着室のカーテンが開く。


「おねーさんと同じような形にしてみたんだー、どーかなー?」


そう言ってポーズを作る由衣。

確かに蒼芽の買った水着とかなりデザインが似ている。

違いと言えば蒼芽は青と白の横ストライプだったのに対して、由衣は黄色の無地であることくらいだ。

しかしデザインが似ていても着る人が違うと印象も大分変わる。

由衣だとやはり元気で活発なイメージが表に出てくる。


「あっ良いね! 可愛いよ由衣ちゃん」

「そうだなぁ、由衣ちゃんこういう系も似合うんだな」

「えへへー」


蒼芽と修也に褒められて由衣はご機嫌だ。


「……ほら詩歌、平下さんもああいうの着れるのよ? 舞原さんも着てるみたいだし、今はあれくらいが普通なのよ」

「そ、そうなのかな……」

「普通かどうかは置いといて……周りがああいう水着なら詩歌が同じようなの着てても目立ちはしないんじゃないか?」

「そ……それは、確かに……」


詩歌にはまだ迷いが残っていたようだが、彰彦の言葉が後押しになったようだ。


「じ、じゃあ着てみるけど……変でも、笑わないでね……?」

「大丈夫、ここにはそんなことで笑うやつなんていないさ。だよな土神?」

「ああ、もちろんだ」

「もしそんな奴がいたらシメてやるわよ。土神君が」

「俺がかよ」

「そ、それじゃあ……少し、失礼します……」


そう言って詩歌は空いている試着室の1つに入ってカーテンを閉めた。


「じゃ、私も着替えてくるわね」


続いて爽香も試着室に入る。


「私は2つ目着てみよーっと!」


由衣も再び試着室へ戻った。


「……蒼芽ちゃんは良いのか? 今は仁敷もいるから1人取り残されるってことは無いぞ」

「買うつもりが無いのに試着するのはどうかと思いまして……」

「まぁそれもそうか」


蒼芽の言い分に納得して頷いた修也は、彰彦も含めた3人で由衣たちが着替え終わるのをのんびりと待つことにするのであった。

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