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5/16日の20:00より、地辻夜行さんの朗読会でこの作品が読まれることとなりました。

もしよければその朗読会にも足を運んでみてください。


地辻夜行さんの朗読会↓

https://twitcasting.tv/wfvo74avdmkejn1


地辻さんはほかにも様々な作品の朗読をしていらっしゃるのでそちらもよければ聞いてみましょう

「レンツさん、この花を知ってるんですか?」


 クルトはぎこちない動きでレンツの顔を見る。

 それに対しレンツは深く目を伏せて顎に手を当てたまま動かない。


「......知っている」


 暫し黙考した後、レンツは険しい顔をしながらそう言った。

 ふと、ステラの方を見ればまたどこか思案気な表情を浮かべている。


 クルトとフィーネには二人が何故ここまで厳しい表情をするのか皆目見当もつかず、内心首を傾げながらその場で待つ。


「この花を見つけて......いや、とってきたのはクルトなのか」


 苦虫でも嚙みつぶしたような渋い顔をつくりながら、レンツはまた目線を落とす。

 彼の脳内では、先ほどステラのしていた葛藤がそのまま繰り返されていた。

 話すべきか、黙っておくべきか。


「僕の力じゃない。フィーネさんがいたからこの花は取れて、僕も死なずに済んだんだ」


 そのクルトの言葉にレンツは初めてクルトの後ろに立つフィーネの姿を目に留めた。

 クルトと同じく汚れた服装をしている彼女。だが、レンツは一切そのことに触れず、フィーネの瞳の奥に眠る何かを注視する。


「彼女が、か。ふむ......」


 フィーネは見つめあった瞬間、何かを悟ったのかクルトの横の椅子を引き、静かに腰を下ろした。

 翡翠色の瞳が綺麗に輝き、正面に座る二人を見据える。


「私はこれでも多少の戦闘経験はありますよ?」


 不機嫌そうな眼付きでフィーネがレンツを睨む。初対面、ということもあってかフィーネはレンツに対し、感情を抑えようともしていなかった。

 フィーネから負のオーラが流れ始めたところでレンツが言葉を繋ぐ。


「いや、そういうわけじゃないんだ。てっきりクルトが嫁を見つけてきたのかと思ったんだ。許してくれ」


 嫁というたった一単語に、クルトは過剰なまでに反応する。頬だけでなくみみまで真っ赤に染まったクルトは外れ過ぎた話をレール上に戻そうとするが、フィーネの一言がさらにそれを邪魔する。


「私はクルトの嫁になるつもりなんてないですよ」


 的確にクルトの心を抉り、フィーネは何気ないままに机上の花を持ち上げる。

 血潮が流れるかのように花弁の中を流体が流れていくのを見ながらフィーネはその花のてっぺん。頭のような部分を触った。


「さて、話を戻すが、この花を見つけて取ってきたのは私とクルトだ。

 先ほどからの二人の様子を見ているとどうもこの花に何かがあるように見えてならない」


 フィーネは薔薇以上に紅い花を正面に座るレンツに向け、目を細める。

 そのフィーネの行動をどうとったのか、レンツはクルトをチラリとみるとフィーネの手からその花を受け取り、机上に戻した。

 二者の間を窓から流れ込んできた夜風が通る。さらさらと風に揺られ、その花はさらに輝きを増す。


「その花は、クルトも知っての通り迷宮内の花園から生まれる」


深く深呼吸した後に、レンツは固く閉ざしていた花に関する情報を打ち明けることを決意した。

これを話すことでどんな未来が現れるのか、それを心のどこかで確信しながら。


「まあ、クルト達は残念ながらその花の初めての発見者じゃないってことだ」


慎ましく落ち込むクルトの頭を軽くさすり、レンツは言葉を繋ぐ。


「発見された当初は冒険者ギルドいや、世界が震撼した。それもそうだ。魔物、魔獣などから生れ出づる花など一度として前例のない事態だからだ。

そして、各国から研究者が集められ、大々的にその花の調査が始まった」


クルトは、その話に疑問を抱いた。それはフィーネも同様。二人は勢いよく顔を見合わせ、息の合った動きで口を動かす。


「「もう調べ尽くされてるってこと!?」」


 クルトは目の前が真っ暗になったかのように落ち込む。フィーネはクルトのように落ち込みはしなかったが、それでもそれなりのショックを受けたようだった。

 その様子を見てレンツは軽く笑う。


「安心しろ。まだ調べられてはいない」


 そういった途端にクルトの瞳に希望が宿る。

 表情をコロコロと変化させるクルトを面白く思いながら見ていたレンツは突然顔を引き締めた。


「さっき調べられていないと言ったが、あれは正確には調べられていないが正しいんだ。

 その花を調べた研究者、冒険者、いろんな人物がその花に携わってきた。けれども、誰一人として調査の結果を提出したものはいない。

何故か。全員、死んだからだ」


クルトの背中が粟立つ。

──僕達は、そんな危険なことをしようとしているのか。

帰還者ゼロの過酷な調査。それを二人でやろうと言っていた自分が、それだけ無知だったのか。それをクルトは実感する。

意見を求めるようにクルトは隣を見る。フィーネは一切驚いた雰囲気を出さず、澄ました顔で紅い花を見ていた。


「わかるか。クルト、そしてフィーネ。

お前たちは過酷なんて言葉じゃ生温いほどに苦しい世界に、たった二人で飛び込もうとしているんだぞ」


食卓の間に静寂が生まれた。レンツはクルトとフィーネの結論を待ち、クルトはフィーネの意見を待ち、フィーネは何を考えているのかわからない表情でステラを見て、ステラは小さく唇を噛んでいる。


一瞬、クルトとフィーネの視線が絡む。が、それも一瞬のことフィーネはすぐにステラの方に向き直った。

だが、クルトにとってのその一瞬は行動を決意させるに充分足り得るものだった。


「危険なのはわかった......でも、僕達は行く 」


 いつもの優しそうなクルトの瞳から、謎の凄味が溢れ出す。その圧に気圧され、レンツは理由を聞いていないにもかかわらずクルトの意志を尊重することを決意した。

 終始無言だったステラも、クルトのいつもと違う雰囲気に()の色を変える。


「そうか。母さん、クルトはこう言ってるよ」


 隣に座るステラへ、最終決定権を譲渡するレンツ。レンツのなかには出た答えが一緒だという確信があった。

 少しの間を置き、ステラが口を開く。


「クルト、何があっても、私より先に死ぬことは許さないからね」


 緊張な面持ちでステラの言葉を待っていたクルトの顔に驚きと嬉しさが混在する。

 思わず振り向いた隣の席で、フィーネが口角を上げ、静かに微笑んでいた。


「そういうことだ。死なない程度に全力で、旅を、調査を、楽しんで来い」

「ありがとう。レンツさん、ステラさん」


 クルトはそう言ってフィーネの手を取り、自室へと駆け戻っていった。

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