表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々からの恩恵  作者: 暁 龍弥
また、異世界?!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/53

「満月前夜 ――それでも、同じ空を見ていた」

満月まで、あと一夜。


世界は、静かすぎるほど静かだった。


学園の灯りはいつも通り。

生徒たちは笑い、騒ぎ、明日の予定を語っている。


だが俺には分かる。


この静けさは――

“嵐の前”のものだ。


ゼロは、今日は何も言わない。

促しも、警告もない。


それが逆に、重かった。



ローゼリア ――「優しさの境界線」


最初に向かったのは、

学園の《心の相談室》。


夜でも、灯りがついている。


扉をノックすると、

すぐに柔らかな声が返ってきた。


「どうぞ」


ローゼリアは、

書類を整理しているところだった。


「ブランデー様……

 こんな時間に、どうしたのですか?」


俺は、椅子に腰掛ける。


「……少し、話がしたくて」


彼女はすぐに察したのだろう。

表情を変えず、静かに頷いた。


「満月、ですね」


その一言で、

逃げ場はなくなった。


「ローゼリア」


名前を呼ぶと、

彼女は背筋を伸ばした。


「もし――

 俺が誰かを選んだとしても」


言葉を選ぶ。


「君が、君でいられるか。

 それを、俺は一番心配してる」


ローゼリアは、少しだけ驚いた顔をしたあと、

小さく笑った。


「……心配しすぎです」


彼女は、自分の胸に手を当てる。


「わたしは、

 “選ばれることで存在する人間”ではありません」


視線を上げる。


「ブランデー様に恋をして、

 わたしは“自分の足で立つ強さ”を知りました」


その目は、迷っていない。


「もし選ばれなかったとしても、

 それは“終わり”ではありません」


一瞬、間を置いてから。


「……ただ、少しだけ

 泣く時間が欲しいだけです」


その正直さに、胸が詰まる。


「それで十分だ」


俺は、深く頭を下げた。


ローゼリアは慌てて立ち上がる。


「や、やめてください……

 そんなことをされると……」


少し照れたように、

でも優しく微笑んだ。


「わたしは、

 あなたを好きになれて良かったです」


それだけで、

十分すぎるほどだった。



アルティナ ――「強さを脱ぐ夜」


次に向かったのは、

闘技場の屋上。


月明かりの下、

アルティナが一人、剣を磨いていた。


「……来ると思ってた」


振り向かずに言う。


「逃げないって言ったからな」


隣に腰を下ろす。


しばらく、

金属を磨く音だけが続く。


「なぁ、アルティナ」


「……なによ」


「もし俺が、

 別の誰かを選んだら」


その瞬間、

彼女の手が止まった。


だが、剣を握り直すことはしない。


「……悔しいわよ。

 そりゃ」


本音。


「でもね」


剣を布で包み、

空を見上げる。


「私はもう、

 “勝てなかったら価値がない女”じゃない」


拳を握る。


「選ばれなくても、

 私は戦士だし、人だし、女だ」


横目で俺を見る。


「……だから、

 罪悪感で選ぶな」


胸を打ち抜く言葉。


「私を選ぶなら、

 “欲しい”から選びなさい」


「同情とか、

 責任感とかじゃなく」


彼女は笑った。


「それができないなら、

 私は負けたくない」


強くて、優しい。


「……ありがとう」


「礼はいらない」


肩を叩かれる。


「その代わり、

 どんな選択でも

 胸張って生きなさいよ」


それが、

彼女なりの愛だった。



ルナ ――「見えないから、信じられる」


三人目は、

図書塔の最上階。


ルナは、

床に座って星図を眺めていた。


「来たね」


振り向かずに言う。


「未来、見てる?」


「……今日は見てない」


彼女は、星図を畳む。


「満月前夜は、

 未来が一番ノイズだらけになるから」


俺は隣に座る。


「もし俺が、

 君を選ばなかったら」


ルナは、少しだけ肩をすくめた。


「知ってる。

 その未来、もう見た」


胸が、ひくりと痛む。


「でもね」


ルナは、静かに続ける。


「その未来の私は、

 ちゃんと笑ってた」


顔を上げる。


「ブランデーに選ばれなくても、

 私は“未来を生きる私”を

 嫌いになってなかった」


小さく微笑む。


「だから大丈夫」


だが、

次の言葉は少し震えた。


「……ただ」


指先を絡める。


「“選ばれなかった理由”を、

 自分で納得できる選択をして」


それは、

未来視を捨てた少女の

唯一の願いだった。


「分かった」


それしか言えなかった。


ルナは立ち上がり、

窓の外を見る。


「明日の満月、

 世界が揺れるよ」


「でも」


振り返って笑う。


「私は、

 その揺れを楽しみにしてる」


強くなったな、と思った。



リュミエラ ――「王女の祈り」


最後に向かったのは、

王城の庭。


噴水のそばで、

リュミエラは月を見上げていた。


「……来てくださったのですね」


ドレスではない。

王女の装いでもない。


一人の少女の姿。


「満月前夜は、

 祈りを捧げる習わしなのです」


「何を?」


彼女は、少し考えてから答えた。


「“選ばれなかった未来”が、

 不幸にならないように」


胸が、締めつけられる。


「ブランデー」


こちらを向く。


「あなたが誰を選んでも、

 国は動きます」


「でも――」


一歩近づく。


「あなたが“逃げずに選んだ”なら、

 わたくしはそれを

 誇りとして生きます」


彼女は、そっと微笑んだ。


「王女としても、

 一人の女としても」


沈黙。


月明かりが、

二人の影を重ねる。


「……ありがとう」


それしか言えなかった。


リュミエラは、

軽く首を振る。


「これは、

 あなたが背負う覚悟に対する

 敬意です」


そして、静かに告げた。


「明日、

 あなたは“選ぶ人”になります」


「その姿を、

 わたくしは最後まで見届けます」



満月前夜の独白


全てを終え、

自室に戻る。


ゼロが、静かに告げる。


(マスター。

 四名全員、

 “世界安定因子”から

 “個としての存在”へ

 移行しました)


「……よかった」


(明日、

 最終選択が行われます)


(その瞬間、

 世界は再構築されます)


ベッドに腰を下ろし、

天井を見る。


誰も、

俺を縛らなかった。


誰も、

俺にすがらなかった。


それが――

何より苦しく、

何より救いだった。


「……ゼロ」


(はい)


「俺は、

 選ばれるために生きてきたんじゃない」


息を吸う。


「誰かを選ぶために、

 生きてきたんだ」


ゼロは、少しだけ間を置いて答えた。


(それが、

 “人間の勇者”の条件です)


窓の外。


満月が、

静かに昇り始めていた。


明日。


俺は――

名前を呼ぶ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ