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神々からの恩恵  作者: 暁 龍弥
また、異世界?!

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52/54

「世界は、答えを急かす ――それでも俺は、急がない」

その異変は、音もなく始まった。


翌朝。

学園の空は、昨日までと同じ色をしている。


雲の流れも、風の匂いも、

いつもと変わらない。


――なのに。


胸の奥が、ざわついた。


理由は分からない。

だが、“何かがズレ始めている”感覚だけは確かだった。


「……ゼロ」


(はい、マスター)


「世界、どうなってる?」


少しの沈黙。


それだけで、答えを聞く前から分かった。


(世界安定値――

 緩やかに、しかし確実に低下しています)


「原因は?」


(“選択の保留”です)


心臓が、少しだけ強く脈打つ。



世界が嫌うもの


(この世界は、

 “勇者が迷うこと”自体を否定していません)


ゼロの声は、冷静で正確だ。


(しかし――

 “答えが存在するのに、

 向き合わない状態”を

 長く保つことを許しません)


「……俺は、向き合ってる」


(はい。

 ですが――

 世界から見れば、

 “まだ答えが出ていない”)


空気が、少しだけ重くなる。


(世界は単純です。

 感情ではなく、

 “確定した未来”を好みます)


「未来を、急かしてるってことか」


(その通りです)


俺は、拳を握る。


「……ふざけるな」


低い声が、喉から漏れた。


「恋も、人生も、

 選択は“熟すまで待つ”ものだろ」


(世界にとっては、

 “熟す”という概念は

 非効率です)


「知るかよ、そんな理屈」



崩れ始める兆候


その日、学園では小さな異常が起き始めた。


・魔力制御の授業で、

 生徒の魔法が一斉に暴発する


・結界装置の出力が不安定になる


・遠方の魔物が、

 本来あり得ないルートで移動を始める


どれも、致命的ではない。


だが――

“世界の歯車が噛み合っていない”兆候だった。


ゼロが解析を続ける。


(“恋による世界安定”が、

 現在、分散状態にあります)


(ローゼリア様、アルティナ様、

 ルナ様、リュミエラ様――)


(四名それぞれが、

 独立した安定因子となっています)


「それって……」


(はい。

 “中心”が存在しない状態です)


中心。


つまり――

“選ばれた相手”。


世界は、

それを欲しがっている。



四人、それぞれの異変


ローゼリア


相談室に、

いつもより多くの人が集まっていた。


だが、

彼女の顔色は少し悪い。


「……最近、

 人の感情が、

 少し重く感じるんです」


彼女は、俺にだけそう打ち明けた。


「優しさが……

 “受け止めきれない”感じがして」


それは、

彼女が“世界安定因子”として

無意識に負荷を受け始めている証拠だった。


アルティナ


闘技場で、

剣を振るたびに

地面が震える。


「……おかしい」


彼女自身も、違和感に気づいていた。


「力が……

 “余ってる”」


戦う理由を失った力は、

行き場を探して暴れる。


ルナ


未来視が、

断続的に暴走し始めた。


「……見たくない未来まで、

 勝手に流れ込んでくる」


未来を見ないと決めた彼女にとって、

これは最大のストレスだ。


「未来が……

 私を引き戻そうとしてる」


リュミエラ


王城での交渉中、

彼女の発言が

過剰な“影響力”を持ち始めていた。


「……言葉が、

 国を動かしすぎている」


それは、

王女としてではなく、

“世界安定因子”として

作用し始めている証だった。



ゼロの警告


その夜。


ゼロは、

今までで一番低い声で告げた。


(マスター。

 このまま選択が行われない場合――)


一拍。


(四人は、

 “世界を支える柱”として

 固定されます)


「……それの何が問題だ」


(“人として生きられなくなる”

 という問題です)


言葉が、重く落ちた。


(感情が、

 役割に置き換えられます)


(恋は、

 “世界維持機能”になります)


(彼女たちは――

 “選ばれなかった存在”ではなく、

 “選ばれる必要のない存在”へと

 変質します)


俺は、歯を食いしばった。


「……そんなの、

 幸せじゃない」


(はい)


(マスターは、

 それを理解しているからこそ、

 世界は“決断”を求めています)



真の問い


俺は、ベッドに腰を下ろした。


恋か、世界か。


そんな二択じゃない。


「……世界は、

 “答え”が欲しいんじゃない」


ゼロが反応する。


(では、何を?)


「“責任”だ」


顔を上げる。


「俺が選んだ結果を、

 引き受ける覚悟があるかどうか」


世界は、

それを試している。


選ぶこと自体よりも――

“選んだ後に逃げないか”。


それが、

この世界の“最後の条件”。



ブランデーの宣言


「ゼロ」


(はい)


「もう、逃げない」


深く息を吸う。


「世界が壊れるから選ぶんじゃない。

 誰かが道具になるから選ぶんでもない」


拳を握る。


「俺が――

 一人の人間として、

 誰かを愛すると決めるから、選ぶ」


(……確認します)


ゼロの声が、

少しだけ柔らかくなった。


(最終選択を行う場合、

 “戻る”ことはできません)


「それでいい」


(選択後、

 他の三名は――

 “選ばれなかった人生”を

 歩むことになります)


「……それでも」


俺は、

はっきり言った。


「彼女たちが“人でいられる未来”を、

 俺は信じる」


長い沈黙。


そして――


(了解しました、マスター)


(世界は、

 あなたの選択を

 待機状態に移行します)


(期限は――

 “次の満月”)


窓の外。


夜空に、

半分欠けた月が浮かんでいた。


あと、数日。


それまでに――

俺は、決める。

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