「未来を知る少女は、今を選びたい」
放課後。
学園の喧騒が少しずつ遠のいていく時間帯。
校舎の影が長く伸び、空が夕焼けに染まり始める頃。
俺は、約束どおり――
ルナと二人きりで、校門前に立っていた。
「……遅くなってごめん」
「ううん。
未来では“ちょうどいい時間”だった」
ルナは相変わらず淡々としているけれど、
今日は少しだけ、いつもより緊張しているように見えた。
制服のスカートの裾を、ぎゅっと握っている。
「行こっか」
「……うん」
◇
【行き先:街外れの丘】
馬車も魔導車も使わず、
二人でゆっくり歩いていく。
沈黙が気まずくない。
むしろ、心地いい。
ルナはふいに言った。
「ねぇブランデー。
私、デートって“結果を見るもの”だと思ってた」
「結果?」
「うん。
未来でどうなるか、
その答え合わせをする行為」
俺は足を止めた。
「……それ、楽しいか?」
ルナは一瞬だけ言葉に詰まった。
「……楽しくなかった」
正直な答えだった。
◇
丘の上に着くと、
街全体が見渡せる。
夕陽が屋根に反射して、
世界が金色に染まっている。
ルナは草の上に座り、
俺にも隣に来るよう手招きした。
「ここね。
未来で……私がブランデーと一緒に来た場所」
胸が、少しだけ締めつけられる。
「未来で?」
「うん。
何度も見た未来」
ルナは空を見上げたまま続ける。
「この丘で、私はブランデーに告白する。
でも……その未来の私は、泣いてた」
「……なんで?」
ルナは唇を噛んだ。
「未来を知ってたから」
◇
【未来予知の代償】
「私の未来視はね、便利だけど……残酷」
ルナは指先で草をちぎりながら話す。
「好きになる前から、失恋する未来が見える。
幸せになる前から、終わる瞬間が見える」
風が吹いて、
彼女の銀髪が揺れた。
「だから私は、恋を“ゲーム”みたいに扱ってた。
勝率、確率、分岐……
そうしないと、心が壊れるから」
俺は黙って聞く。
「でも……ブランデーと関わるようになってから、
未来が、ブレ始めた」
ルナは初めて俺を見た。
「見えない未来が増えた。
怖かった。
でも……嬉しかった」
◇
【“見えない未来”】
「未来が見えないってことはね、
“今の選択で変わる”ってこと」
ルナは自嘲気味に笑う。
「未来予知少女としては、失格」
「一人の女の子としては?」
そう聞くと、
ルナは少し驚いた顔をして――
小さく、照れた。
「……合格、かな」
◇
しばらく二人で夕焼けを眺める。
やがて、ルナが立ち上がった。
「ねぇブランデー。
未来の話、してもいい?」
「聞きたい」
ルナは深呼吸してから言った。
「未来では……
あなたは誰か一人を選ぶ」
心臓が、きゅっと鳴る。
「その相手が誰かは……
いくつか分岐があって、確定してない」
「……そうか」
「でも、どの未来でも共通してることがある」
ルナは、まっすぐ俺を見た。
「あなたは、必ず“後悔しない選択”をする」
◇
【ルナの本音】
「だからね」
ルナは、少しだけ声を震わせた。
「今日のデートは、
勝つためじゃなくて……」
一歩、近づく。
「“今の私”を、知ってほしかった」
胸が、熱くなる。
「未来で泣いてた私じゃなくて。
計算してない私。
強がってない私」
ルナは、初めて弱い顔をした。
「……それでも、好きでいていい?」
俺は答える前に、
そっとルナの手を取った。
「未来がどうなるかは分からない」
指先が震えている。
「でも今、この瞬間――
ルナとここにいるのは、
俺の意思だ」
ルナの瞳が、大きく揺れた。
「……それ、未来に無かった言葉」
◇
【キス未満】
ルナは一歩踏み出し、
俺の胸に額を当てた。
「……未来では、ここでキスしてた」
「今日は?」
「……今日は、しない」
顔を上げて、微笑む。
「“見た未来”をなぞるのは、もうやめたいから」
俺は、彼女の髪を優しく撫でた。
「それでいい」
ルナは、安心したように目を閉じた。
その瞬間――
空気が、少しだけ揺れた。
ゼロの声が響く。
(マスター。
“未来固定率”が大幅に低下しました)
(世界はより自由な状態に移行しています)
恋が、世界を縛る未来を壊していく。
◇
【別れ際】
帰り道。
ルナは、いつもの調子に戻っていた。
「ねぇブランデー。
今日のデート、どうだった?」
「……楽しかった。
静かで、ちゃんと“今”を感じられた」
ルナは満足そうに頷く。
「うん。
それなら、このデートは成功」
校門の前で立ち止まる。
「今日は、ありがとう」
「こちらこそ」
ルナは一歩下がって、
くるっと振り返る。
そして、振り向きざまに言った。
「……次は、未来を見ないで勝つから」
小悪魔みたいな笑顔。
◇
【ラスト】
部屋に戻った俺に、ゼロが告げる。
(マスター。
本日のデートにより――)
(世界干渉値:安定上昇)
(恋が“未来を固定する力”から
“未来を解放する力”へ変化しました)
「……いい方向ってことか?」
(はい。
“幸せの形が一つじゃなくなった”という意味で)
俺はベッドに倒れ込む。
ローゼリアの優しさ。
アルティナの情熱。
リュミエラ姫の覚悟。
ルナの未来を捨てる勇気。
――重い。
でも、逃げたくない。




