正体ばれたり。
ルビーが開いた門を抜け、こわごわとその先にある分厚い木の扉を開ける。
日本時間の体感で言えば夜の21時くらいだと思うんだけれど、クランの中は静まり返っていた。
「す、すみません……」
しんと静かなクラン内に自分の声が響く。打ちっぱなしのような内装に、大きなカウンターがあって、フロア内にはテーブルと椅子が何席分か置かれている。
もう一度声を掛けてしばらく待っていると、パタパタと軽い足音をたてて可愛らしい女の子が出てきてくれた。
「マスターは只今外出中ですの!」
ふわふわした栗色の長い髪の毛をカチューシャで上げ、吸い込まれそうな空色の瞳に、白いブラウスとオレンジ色のエプロンを着てメイドみたいな服装の女の子は鈴のなるような声でそう言った。
「えっと、登録証への従伴の追加印字と素材の買い取りをお願いしたいのですが」
女の子は私達をじっと見つめると、こちらへ、とカウンターの一角へと促す。
「私はサブマスターのカナンですの。遅くなってごめんなさい、それでは印字致しますので登録証を」
構えておいた登録証を手渡すと、スミちゃんの名前が新たに彫られていく。カナンさんは首を傾げてエンリルを見る。
「この子は育成を頼まれているだけなので、私の従伴ではないのです」
「そうなんですの? 従伴でなくとも印字しておく事は可能ですのよ? 町やダンジョンに入る時に一々説明するのも面倒でしょう?」
そうなんだ。ついでだからエンリルもしておいてもらおうかな。迷子になった時にも安心だし。
カナンさんは黙々と彫り込んでいき、出来上がった登録証を返されて増えた名前を確認する。ルビー、スミ、エンリルと名前がちゃんと載っている。
「町中でコートは解かないで下さいまし。こんな所で紅竜やフェニクスが現れたら大騒動になってしまいますの」
「……!」
『(この娘、鬼族か)』
「鬼族?! 普通の女の子に見えるんだけれど……」
「はい。マスターが人間族に見えるようにしていなさいと言うから仕方なくですのよ?」
カナンさんがカチューシャを外して、髪の毛に埋まった角を見せてくれる。ついでにあーんと口を開けて、人間ではあり得ない立派な牙も確認させてくれた。
「え、でも何でルビー達が紅竜って解ったんですか? コートはしっかり掛けてあるはずなのに……」
ニヤッと笑ってカナンさんが私を見つめ、空色の大きな瞳が赤く染まる。
『千里眼か。鬼族のみに受け継がれる血繋承継だな』
「けっけいしょうけい?」
「永く生きているだけありますのね。我が一族の一部のみに受け継がれるスキルですの」
千里眼ってことはあれかな、全てを見通す的なやつ。クランにこんな特殊スキル持ってるひとが居れば危険が少なくて済むんだろうな。
『どちらの鬼族だ? 長はスヴェンか?』
ルビーさん、鬼族にも知り合いがいらっしゃるんですか。
「曾祖父様をご存知ですの? 曾祖父様はもう引退して今は父様のブリグが長ですの」
ルビーの知っている鬼族さんが曾祖父様って、今まであんまり気にしていなかったけれど、ルビーって一体何歳なんだろう……。
『久しくスヴェンにも会っていないな。村の場所は変わっていないか?』
「私が生まれてからはずっと同じ、パジですのよ。とは言っても、まだ数百年しか経っていませんけど」
『そうか。また会いに行ってみるとしよう』
ぱじってどこなの……。アウェイ感凄まじい。そしてカナンさんが何百歳っていうのにも驚愕だよ。
『パジはエラリア大陸の東側にある小さな島だ。鬼族のみが生きる孤島だ』
島なんだね。近くを通る事があれば行ってみようか。
「話がそれてしまいましたの。マスターは仕事で明日戻りますの。買い取り等は明日でもよろしいですの?」
「はい、明日で構いません。あと、ここのクランにも宿屋ってありますか?」
「ありますのよ。従伴も一緒に泊まる事も可能ですの。4人分の宿賃をいただければ従伴もお部屋で泊まって構いませんの」
良かった! 獣舎で泊まってなんて言った日にはルビー達から凄まじいブーイングがあがりそうだもんね。
「それじゃあ、4人分の宿賃を払うのでお部屋でお願いします」
「毎度! ですの。4人分で2Gですの」
アイテムインベントリのお財布らしき所から支払いを済ませて、部屋へと案内してもらった。




