お別れのリング。
「もう行っちゃうの~? もう少しゆっくりしていきなさいよぉ~」
ソルトさんが名残惜しげに言う。特にエンリルを凝視しながら。
『主、ぼくこのひと怖い……』
しっぽの部分の羽根を毛羽立ててエンリルがルビーの後ろに隠れる。
『(ソルトには眷属が居ないからな。隷属は沢山居るのだが)』
違いがあんまり解らないけれど、どう違うの?
『(眷属とは同等の立場で成るものだ。隷属は自分よりも魔力の劣るものを従えるのだ)』
友達と部下みたいなものかな。そんなに簡単なものではないだろうけど。
「寂しいわねぇ~。じゃあお別れの印に、いいものあげる!」
ソルトさんがそう言うと、エンリルを引き寄せて、両足の鉤爪に小さなリングをひとつずつはめた。銀色の、真ん中に赤い石がはめこまれたシンプルなリングだ。
『あ、ありがとうございます』
びくびくしながらも、きちんとお礼を言うエンリル。お利口!
細いリングだけれど、陽に照らされるとキラキラ光ってとてもきれいだ。
『(珍しいな、そんなにエンリルが気に入ったのか?)』
笑いながらルビーがソルトさんをからかう。フェニクスが珍しいからかな。ずいぶん気に入られたね。
「だってこの子、普通にフェニクスとして生まれたわけじゃないでしょう~? 特異な生まれ方をしたフェニクスってすっごくめっずらしいんだからぁ!」
目を輝かせながら、熱く語るソルトさん。確かに元々はライグルだし。一応レア種だし。珍しいんだろうけど。
「本人にその気が無いから~無理やり眷属にしたって楽しくないしぃ~……」
しょんぼりするソルトさんを、ルビーの陰からじーっと見つめるエンリル。
すると、エンリルが自分のしっぽのひとつをプチンとちぎり咥えて、ソルトさんに近づいていく。
『けんぞく? にはなれないけど、お別れのしるしに、ぼくも』
ソルトさんは差し出されたしっぽを受け取ると、自分の髪飾りのひとつに結びつけた。風になびくしっぽが燃えるように輝いている。
「大切にするわね。これであなたとワタシの縁は繋がれた。眷属とはいかないまでも、困った時には助けになるわよ」
バチーンと強烈なウィンクと共に、投げキッスまで貰ったエンリルさんは治まっていた羽根をまた毛羽立たせていた。
………………………………
ソルトさんと別れて、また暑い日差しの中をひた走る私達。エラリア大陸って、思ったよりも広いのかもしれない。
『(地続きの大陸で一番大きいのがここエラリアだからな)』
うーん、まだまだ先は長そうだなあ。
ルビーの背に揺られながら、ぼんやりと景色を見渡す。空を見上げると、やっぱり太陽はふたつ。だいぶ傾いて来ている。
今日中には辿り着けそうにないね。ルビーの行きたがってるダンジョン。
『(このスピードだと後2日はかかりそうだな。もう少し速く走ってもいいか?)』
だめ。今でも結構なスピードで走っているんだよ? これ以上なんて私が捕まっていられないもの。
フスンと鼻を鳴らしてまたルビーは前を向いた。




