叱られ魔神。
「イオリは異世界から来たのね~? 紅竜に引っ張り込まれるなんて、意外と鈍くさいわね~」
海老フライをもしゃもしゃと食べながら、ソルトさんが私を見て笑う。
確かに鈍くさいけれど、生まれて初めて竜を見たんだもの……身体も動かなくなりますよ!
「イオリの記憶の中の世界は自動機械が沢山居たわね~。賑やかで、楽しそうだったわ」
……!?
『(ソルトの思念環は、互いの情報を共有することが出来るのだが、術者に主導権があってな。相手の情報を読み取る事も出来るのだ)』
「んふふ~、だって気になるじゃない? 紅竜が主と認める人間族なんて~」
精霊魔神のソルトさんに私の情報を見られた所で、大して危機があるわけでもないから別に良いんだけれど。
『(他人と連れ添ったり、共に生きる事をしないソルトだから心配しなくていい。それに、ソルトは我には勝てぬ)』
「言ってくれるわね~。紅竜に負けたのなんて何百年前の話だと思ってるの~? 今なら負けないわよっ」
ふたりでご飯食べながらばちばち火花飛ばさないでくれないかな……。ソルトさんに至っては、腰を浮かせて今にもルビーに飛びかかりそうだ。見なさいよ、エンリルもスミちゃんも小さくなってるじゃない……。
【ルビー様もソルト様も本気では無いのですが、魔力の圧が凄くて私、飛んで行ってしまいそうです……】
エンリルがスミちゃんを翼で抱え込む。大人になったねぇ。それでも食べる事を止めない所がエンリルって感じだけれど。もう、折角の楽しい食事が台無しになっちゃうじゃない……!!
「ルビーもソルトさんも! 遊ぶのならご飯が終わってからにして!! お行儀が悪いわよ!!」
ありったけの力を込めて叫んだ。ふたりとも、目をまん丸くしてこちらを見る。
『(だ、そうだ。大人しく飯を喰おう。イオリを怒らせると本当に飯を作ってもらえなくなるからな)』
ソルトさんがぺたんと座り込んで、それからはただ黙々と完食した。作ったご飯は綺麗さっぱり、なんにも残らなかった。
………………………………
『ぼくスミちゃんと追いかけっこして遊んでくるねー!』
食後の腹ごなしなのか、エンリルとスミちゃんは楽しそうに走り回っている。前科があるので、あんまり遠くに行かないように言い聞かせておいた。
食事の後始末をしていると、ふわっとソルトさんがそばに来た。私の作業を邪魔しないようにしているのか、傍らでずっとちょろちょろしながら待っている。
『(フッ、何だソルト。先程怒られたのが堪えたのか? )』
愉快そうにルビーが肩を揺らして言う。
「何かご用ですか? ソルトさん」
食器を片付けながら、ふと振り向くと深々と頭を下げたソルトさんが居た。
「あの……楽しい食事の時間を邪魔してしまって、本当にごめんなさいね」
しょんぼりと項垂れてソルトさんはそう呟いた。ちょ、ちょちょちょ! イフリートともあろうものが、そう簡単に頭なんて下げちゃっていいの?!
「イオリが食事を振る舞う事を楽しみにしていたのは解っていたのに、つい頭に血が昇っちゃって……。悪いと思ったらワタシだって謝罪ぐらいするわよ~」
『(ソルトを叱り飛ばすなど、他のものには出来ぬからな。これでいて案外素直なのだが、魔力が強すぎるせいで皆からは恐れられているからな)』
叱られずに育った子供みたい。でも、ソルトさんが素直で良かったのかもしれない……。これがワガママボーイだったら殺されても文句は言えなかったんだよね。
『(そんな事はさせぬがな)』
目線だけをちらりと私に向けて、ルビーが笑った。
「ソルトさん、謝罪ありがとうございます。もう怒っていませんが、お食事中は暴れたり立ち上がったりしないようにしましょうね」
ぱあっとソルトさんの表情が晴れて、力強く頷いた。
『ぼくもよくご飯の時にばさばさしちゃって怒られるんだよー』
エンリルがソルトさんのそばに来て声を掛ける。
「あぁん! 慰めに来てくれたのー!? 可愛いわねぇ~! やっぱりワタシの眷属になりなさいよぉ~!! あ、こら! 待ってぇ~!」
エンリルの首根っこを、掴んで抱き寄せようとしたソルトさんを引きずりながら、エンリルは走り回っている。
『(賑やかだな。何を笑っているのだ?)』
不思議そうにルビーが私の顔を覗き込む。小さく 「賑やかで楽しい」 と呟くと、ルビーも、『我もだ』 と微笑んだ。




