海の幸と、来客。
下拵えをしておいた小アジみたいなお魚は、南蛮漬けにするために塩コショウと片栗粉をふって馴染ませておいて、その間に南蛮漬けのたれを作る。お酢とお砂糖、みりんに顆粒だしにおしょうゆ、種を取った鷹の爪を合わせて味見。うん、美味しい。
買っておいた人参、玉ねぎ、レタス、きゅうりをそれぞれ細切りにして合わせ酢にドボン。
小アジをたっぷりの油で外側がかりかりになるまで揚げて、すぐに合わせ酢の中に放り込むと、じゅうっといい音で小アジが浸る。これまた買っておいた氷をいくつかドボンさせておく。冷蔵庫が無いから、こういう時不便だねぇ。
マグリルは一口大に切って、軽く塩コショウして揉み込んで、片栗粉をまぶす。これも外側がカリッとするまでサッと揚げてフライパンに移して、油は引かないままニンニクのみじんを加えて炒める。そこにマヨネーズと少量のおしょうゆに少量のめんつゆを入れてマグリルさんに絡めると出来上がり。ニバラを敷き詰めたお皿の上にあけて、見た目もきれい。
『葉っぱがいっぱいでおいしそうだねぇ~!』
『(葉は要らぬのだがな。しかしいい匂いがしている、腹が減った……)』
【イオリ様のご飯は、本当に美味しいですよね。楽しみです】
料理している後ろで、三人がわちゃわちゃとお喋りしている。私のご飯を心待ちにしていてくれるひとがいるのは嬉しいものだな。
クラーケンの子供と、シャラスナップとシャコ貝さんは全て一口大にして、塩コショウして小麦粉、たまご、パン粉の衣をつけて揚げる! ひたすら揚げる!! イカはイカフライ、シャラスナップさんはエビっぽかったからエビフライもどき、シャコ貝さんは中身が牡蠣っぽかったから牡蠣フライなのです!!
延々と揚げながら、空いた手でゲソとお大根を煮る。味付けは甘めに。だし昆布を入れて和食にね。
お汁物が欲しかったから、こっちもだし昆布とお魚のあらで出汁を取って、お味噌と顆粒だしを溶く。具はニバラとシャコ貝さん。んんっ、いい出汁が出てるな~染み込む~。
全ての揚げ物が終わるまでに、5回も油を入れ替えたよ……。ううう腕がふるふるするよぅ……。
「さ、皆ーご飯出来たよー!」
私の声に、風のような速さで集まる。お腹空いていたんだね。それでは……
「『(『【いただきますっ!】』)』」
お味噌汁が美味しい。お出汁がちゃあんと出てる。シャコ貝さんは見た目が牡蠣だから牡蠣汁みたいだ。くにくにプリッとしていて磯の匂いが広がる。
【イオリ様? この酸っぱい汁に浸っているものは何というものですか? とっても美味しいです! 特に、この赤い小さなものがぴりりとして味が引き締まっています!】
「南蛮漬けっていうんだよ。お魚も骨まで柔らかくなって食べやすいでしょう? 赤いのは鷹の爪っていう香辛料だよ」
【ナンバンヅケ……】
手に持っている小アジをまじまじと眺めながら、スミちゃんは目を三日月のように細めて食べている。気に入ったのなら良かった。
一心不乱に食べている、ルビーとエンリル……。見た限り、ルビーはマグリルのマヨ炒めがお気に入りの模様。あ、こらっ、エンリル! 南蛮漬けのお野菜ばかり食べるんじゃないのっ!
びくっとしてこちらを向くエンリル。くちばしの先からレタスがはみ出てるよ。
『(む……。イオリ、来客だ)』
は? 来客?
何を言っているのかすぐには理解出来なくて、ぽかんとしてルビーを見つめる。
「あらぁ~! 紅竜じゃない! 久しぶりね~!?」
砂煙をまといながら現れたのは、シャラシャラと音の鳴る装飾品を沢山つけて、真っ赤な絹のような滑らかさのある布をまとった褐色の肌に金色の髪がまぶしい……男の人だった。
『(久しいな。息災か? ソルト)』
この人がソルト……。私、ルビーからソルトさんの話を聞いた時に、勝手に女の人で想像しちゃってたよ……。




