ルビーの背中はふわっふわ。
『(気持ち悪いな……)』
えっ? どうした? 吐きそうなの?
『(違う。気配探知をしたら我らの後方に誰か居るのに気付いたのだが、距離が縮まらないのだ。こちらをうかがっているような感じがする)』
それは……尾行されているってこと?
『(そのようだ)』
何で? あっ、まさかエンリルを狙って?!
『(わからぬ)』
ルビーは尻尾をぴんと立てて、後方をジッと睨む。
念のためにエンリルの姿、変えておいた方がいいかもしれないね。
『ぼくね、小さいのがいいな! 主の肩に乗れるくらいの!』
『(そうだな、フェニクスは個体数も少ないはずだ。小ぶりな方が姿も隠しやすい)』
じゃあ前のと同じ姿で、少し小さめのサイズでコート使っておこう。
『わーい!』
エンリルの姿を変えると、嬉しそうに羽ばたいて私の肩に乗った。
『(よし。乗れ、イオリ。つけてくる奴を引き離すぞ)』
ルビーの背に乗り、落ちないように毛束を結んでしっかりと握る。
『(腹の部分にも巻いておけ。落ちないようにな)』
うん? まぁ落ちたら困るもんね。お腹の毛を自分の腰のあたりにまわして結ぶと、ルビーは滅多に開かない翼を目一杯広げた。
『(行くぞ)』
まさか!! とっ、飛ぶ気なのー!?
「ちょ、ま……まっ……!」
バサッと翼をはためかせて、上空へと飛び上がるルビー。私の声は聞こえていないみたいだった。いや、ルビーの事だから聞こえないフリかもしれない!
『(あぁ、姿が見えた。教会の奴だ)』
遥か上空でルビーが下を見やって言う。確かに、私達の居た場所から後ろの方に、見覚えのある聖衣が見えた。
『(鬱陶しい奴だ。面倒だ、このまま飛んで行くぞ。イオリ、落ちるなよ)』
そのままイレイドの谷まで飛んで行くと? 着く頃には私、筋肉痛になるかもしれない。
『(我の背に伏せておけ。多少は怖さも紛れるだろう。それに、伏せてしがみついている方が落ちにくい)』
愉快そうにクックッとのどを鳴らして笑うルビーの背に、悔しいけれど言われた通りに伏せてしがみつくと、ふわふわで気持ち良くて、怖いのはかなり紛れた。肩口からはエンリルが話しかけてくれる。しばらくはこのふわふわ空中散歩を楽しくはないけれど、楽しむことにした。




