実は凄いルビー。
石畳で出来たような階段を登りきると、一階よりほんの少し薄暗かった。そして、森と言うよりは背の高い葦のような草がしげっていて、足元が見えない。
『(ふむ、道も無いか。イオリが歩きやすいように、ちと拓くとするか)』
拓くって、どうするの?
『(イオリとエンリルは少し下がっていろ)』
言われた通りにエンリルと一緒に階段のあたりまで下がる。
それを確認すると気配探知をして、魔物しかいないな、と呟きルビーは思いっきり息を吸い込んで、そして口を開けた。
目の前のルビーが真っ赤な炎に包まれたと思ったら、凄い熱気と風圧と共に轟音が鳴り響いた。思わず目をつむり、次に目を開けた時には、遥かむこうの方までまっすぐに道が出来ていた。
人が三人ほど並んで歩ける幅の、道のふちにある葦は焦げていて、ぷすぷすと煙がたっている。
「ルビーすごいね!!」
エンリルは初めて見るルビーの力に驚いているようで、口……もとい、くちばしがポカーンとあけたまま固まっている。
『(炎路だ。名の通り、まっすぐに炎を吹き出す魔導で、我に並ぶ火力を出せるものは中々おらぬだろうな)』
ルビーさん、ドヤ顔。
でもさすが紅竜だよね。火の扱いさせたら天下一品だよ、ほんと。
『(褒めても何も出ぬぞ)』
って言いながらも、嬉しいんだろうね。尻尾が全てを物語っている……!
『ルビーすごい!! すごーい!! ぼくも火を吹けるようになりたい!!』
興奮して、ばさばさと羽ばたきながらルビーのそばへと駆け寄るエンリル。
『(エンリルはライグルだからな。火は苦手ではないか? 風の魔導なら比較的簡単に会得出来るはずだ、今度教えてやろう)』
『絶対だよ!!』
うん、何というか、師匠と弟子だね。それか、父親と息子って感じ。ほほえましいけれど、話している内容はとっても物騒。
『(進むとするか)』
ルビーの先導で、道を歩いて行く。所々にドロップ品と思われる物が落ちていて、多分ルビーの炎路で燃やされた魔物のドロップ品だろうということで、拾って進んだ。もちろん、一階で見た触角のドロップはスルーして。
それを見たエンリルが、私の目を盗んで落ちてた触角をパクッと食べちゃったのはルビーしか知らないのであった。
……………………
「二階広くない!?」
しばらくまっすぐに歩いたが、中々向こう側に着かない。しかも、向こうに行き着いたとしても、階段があるようには見えない!
『(確かに広いな)』
『主ーこれ食べていいー?』
さっき捕まえたのか、アゲハ蝶のようなものを咥えてきたエンリル。羽根が黒と紫で、本当にアゲハ蝶みたい。
「何でもかんでも食べちゃだめでしょ。ルビーに見てもらって、大丈夫なら食べていいよ」
蝶くらいならね。Gを食べられるより、ずっといい。
『ルビー? これ、食べられる?』
くちばしの先にいる蝶をルビーに見せる。
それを見たルビーの顔つきが変わった。
『(それは幻術を使うレイドバタフリーだ。喰うのはやめておけ。そうか……迷わされていたのだな)』
「え、まさかこの広い二階は幻なの?! まっすぐの道で迷わされるなんて、ある!? あっ、エンリル! ペッしなさい!」
『はーい……』
渋々ペッしたエンリル。よたよたと羽ばたいていくレイドバタフリー。
「どうすればいいの? 幻術って解けるの?」
『(我を惑わすとは、いい度胸だ……!)』
オコ。ルビーさん、オコね。
『(二人共、我にしがみつけ! 何があろうと離すでないぞ!!)』
オコなルビーさんの怒号に、エンリルとふたりでしがみつく。
『(風の神よ! 我に力を貸せ!)』
そう叫ぶと、ルビーの周りを竜巻のような風が巻き起こり、そして広がっていく。私達は飛ばされないように必死だ。すると、吹き飛ばされるように周りの景色が変わっていった。
『(フン。レイドバタフリーは鱗粉を撒いて幻術を使うのだ。これで幻術は解けただろう)』
ルビーって、実はとっても凄いんじゃないかと、あらためて思った。
そして、怒らせちゃだめだなと、再認識したのであった……。




