鷹の爪は、銀色に輝く。
ライグルの村長、ポムさんには全てを説明した上で、快く承諾を得られた。
私が異世界から来た事も、エンリルの声が聞こえる事も全て話すとポムさんは、そうかそうかと頷いて、ただ聞いてくれた。詮索もせず、問い詰める事もなく。
そしてエンリルに、「主を守っておやり」と言って、頭を撫でた。
リュート君は、大きくなったエンリルを見てとっても驚いていたけれど、嬉しそうに頭を撫でてくれていた。再び旅に出る事を話すと、ポムさんと同じように「主を守るんだよ」とエンリルに声をかけていた。
村を後にしてモロクへ戻ると、町中のひとの、エンリルに向けられる視線が更に強くなったように感じた。
いつもの宿屋のベッドに腰をかけると、やっと気が抜けた。
『(疲れているな)』
そりゃあね。エンリルの角が目立つから、どうしても周りを気にしちゃうよ。
『ごめんなさい』
エンリルのせいじゃないよ。私が気にしすぎなんだよ。
『(目立つのなら、隠せばいいのではないか?)』
どうやって……あ!
『(イオリ、我は何のためにレオパルの姿を模しているのだ)』
そうだよ! コート使えばいいんだ! あったまいい、ルビー様!
『こーと?』
エンリル、私のスキルでエンリルの姿を変えても構わないかな?
『ぼくの姿が変わったら、主は疲れなくなる? それならいいよ!』
エンリルってば……! 可愛いんだから……!
ルビーは長く生きているから大抵の事じゃ動じなかったけれど、エンリルはいきなりレオパルにしちゃったらパニクりそうだなぁ。うーむ……。
『(翼を持つ、もう少し小さなものにすれば我も守りやすいのだが)』
そうだね、よし! 決めた!
“コートを使用しますか?”
「はい!」
私の思い描いたのは、鷹の姿。立派な鉤爪を持っていて、翼を広げたら私の身長ほどになる鷹。
ポフンと音を立てて、エンリルの姿が変わった。
『(ほう、アムホークか)』
『どお? ぼくかっこいい??』
またか、アムホークって何だ? ホークだから見た目は鷹なんだよね、多分。
ばさばさと翼を動かすエンリル。角も消えて、ちゃんと鉤爪もある……けれど……。
鷹にしては可愛すぎるパチクリおめめ……!
鉤爪も銀色に輝いちゃってるし……!
ちょこちょこライグルの名残があるけれど、パッと見は鷹だから良しとしよう。
とっても格好いいよ。私の世界の鷹っていう生き物なんだよ。勇敢で強くて、風をきって飛ぶ姿は素敵なんだから!
『ぼくも飛ぶよー! 強くなるよー!』
ばっさばっさと羽ばたかせるエンリル。サイズダウンしたから、いい感じかもしれない!
『(アムホークは穏やかで人と暮らすものも居ると言うからな。丁度よいのではないか?さて、エンリルの問題も解決したことだ。腹が減った)』
そうだね! 私もお腹空いちゃったよ! 何か食べたいものある? 作るよ!
『ぼく、主が食べてたサクサクで中が白いふわふわのやつ食べたい!』
白身魚のフライの事かな? 了解! ルビーは?
『(肉が喰いたい)』
りょ、了解。アバウトだね……。
ワンクルーに頼もうかと思ったんだけれど、買わなきゃいけないものが沢山あるから今日はお店をまわるね、とワンクルーに伝えるとしょんぼりしてお店を開いてくれた。
『(これは……広いな……!)』
そういえばイ○ンレベルまで大きくなってるんだった。こんなに広いのに、宿屋の部屋や家具に干渉しないって不思議。どうなっているんだろう。こんなスキルが使えちゃう時点でだいぶファンタジーだし、考えてどうにかなるものでもないか、と考えるのはあきらめた。
『主のスキルなの?』と、ビビりながらも私の腕に止まって一緒に店内に入るエンリル。ちゃんと爪が腕に喰い込まないように加減してくれている。優しい子だなぁ。
食料品売り場をカートを押しながら歩いてまわっていると、ルビーがトマトと桃を咥えてきた。
「桃だ、私も大好きだよ。赤くないけれど、ルビーのお眼鏡にかなったの?」
『何とも甘く芳しい香りがしていたから食べてみたいのだ』
「今日の晩ご飯が終わったら食べようね」
尻尾が揺れていて、とっても機嫌が良さそう。
『主、ぼくこれがほしい』
「首輪? これが欲しいの?」
エンリルが欲しがったのは、ペットコーナーにあった首輪だった。白地にスカイブルーの刺繍が施してある、猫用の物。
『ぼくと、お空みたい』
「本当だね。いいよ、買おう。でも、どこに付けようか?」
『その大きさならば首に入るのではないか?』
あ、入りそうだね。
買い物を済ませて部屋に戻ってから、エンリルの首に、買った首輪を通してみた。
チリンと可愛らしい音がする小さな鈴がついている。
首の根本の所で丁度止まった。
『かっこいい?』
とっても格好いいよ、よく似合ってる。
ご飯作りの前に、ルビーに字を習って、首輪にエンリルと名前を書いた。




