第195話 王都への道 ⑦
スタートダッシュを決めた俺の後ろから制止の声が上がっていたが、俺は無視して走り続ける。
案の定、護衛役の面々では俺の速さには付いて来られない事に思わず笑みが零れた。
何故こんな独断専行をするのか?
答えは単純だ。
ここ最近の細工仕事でのフラストレーションを発散するために決まっている。
八つ当たりしても問題ない賊共が向こうからやって来たんだ。
さっきは正論で黙らされたが、今回は止められないように先手をとって動いた。
結果、俺は|溜まったフラストレーションの発散する機会を手に入れた!
天秤棒に引っ掛けた頭目は五月蠅く悲鳴を上げているのでドスを利かせた声で黙らせ強制的に道案内をさせる。
街道からは大分離れているようで次第に森の中へと進んで行く。
暫く進んで行くと獣道のような跡が見つかるが獣道にしては幅が大分広く、よく見ると馬車の轍だろう跡が幾つも見て取れる。
轍の後を指して「どっちですか?」と短く問いかければ「左の方だ」と返事が返って来る。
その言葉に従い、左へと続く轍の跡を追って行くと複数の敵性反応にそれ以外の人の気配を感知する。
これか。
俺は走るのをやめ、気配を殺してゆっくりと近付くと少し開けた場所に数台の馬車と賊の仲間らしいのが5人。
上等な衣服に身を包んだ恰幅の良いおっさんとそれを護衛するように囲んでいる男女が7人。
馬車の中にも捕まっているのが15人。
合計28人。
念の為に確認する。
「あそこで合ってますか?」
「あ、あぁ、そうだ」
短い返事に楽太郎は考える。
幸い、賊側も奴隷商側も馬車からは少し離れている。
奴隷商は生け捕り予定なので使えないが、賊側なら問題ない。
楽太郎は即断する。
「あなたはここで声を上げず、物音1つ立てずに待っていなさい」
そう命じると足元に落ちていた小石を拾い上げ、魔法を唱える。
「小型爆弾」
唱えると共に大きく振り被って賊の一人に投げつけると、即座に後を追う。
唐突な出来事に賊も奴隷商達も何が起きたのか理解できなかった。
突然賊の1人がくの字に折れ曲がったかと思ったら、腹部が爆発したのだ。
爆発の余波で他の賊4人も少なくないダメージを受け、悲鳴を上げて転げ回る。
その場に居た者達は思わず身を竦めて防御姿勢を取ったが、次の瞬間には護衛の1人が吹き飛んでいた。
突然の出来事に反射的に振り向けば天秤棒を振り被る凶悪な姿が目に入る。
「な?!」
「だ、誰だ?!」
誰が発したかもわからない誰何の声に楽太郎は嬉々とした笑顔を向け、天秤棒を無造作に振るう。
振り上げられた天秤棒を前に男は咄嗟にガードしようと両腕を上げるが楽太郎の一撃は容易く両腕を折り砕き、その勢いのまま胴を薙ぎ吹き飛ばす。
その光景に残された者は瞬時に悟る。
己の死を・・・
逃げねば、死ぬ。
彼等の選択肢に戦うなんて考えは全く浮かばなかった。
反応は2つに別れた。
あまりの出来事に、絶望に、その場にへたり込む者。
楽太郎の姿に奇声を上げ、脱兎の如く逃げ出す者。
その違いが明暗を分けた。
楽太郎は舌打ちを1つすると散って逃げ出した者の背に小石を投げて吹き飛ばす。
そうして逃げ出した者達を全員吹き飛ばすと、楽太郎は改めて奴隷商を見る。
「あなたが奴隷商人ですね?」
奴隷商は答えない。いや、正確にはあまりの出来事に思考停止している。
その様子に楽太郎は嘆息すると奴隷商の頬に張り手をかます。
「ほげェァ?!」
「さて、もう一度聞きます。
あなたが奴隷商人で間違いないですね?」
にこやかな笑顔で問う楽太郎に戦慄を憶えた奴隷商は高速で首を縦に振る。
一瞬ニヤリと笑みを溢し、「正義は我にあり」と小さく呟くと楽太郎は表情を一瞬で歪め一喝する。
「腐れ外道がぁ!」
その言葉と共に奴隷商の腹に楽太郎の拳がめり込み、奴隷商は悶え苦しむ。
他のへたり込む者達はその光景を目の当りにし、カタカタと震えるが既に腰が抜けて動けない。
そんな彼等に楽太郎は視線を移し、嗤いを浮かべると彼等の意識を順に刈り取って行った。
「はぁ、少しスッキリしました。
こいつ等も集めて逃げ出させない様にしっかりと縛ってください。
もし逃げ出された場合、わかりますよね?」
楽太郎のその言葉に頭目は引き攣った表情で必死に頷き、今自分が無事であることを感謝し、楽太郎に命令された仕事を必死に熟し続ける。
縛り上げる上で仲間であった者達の惨状をまざまざと見せ付けられ、更なる恐怖を植え付けられる。
そして頭目はそれを為した理不尽なまでの暴力が自身に及ばない事を心の中で神に祈り続けた。
こうして頭目が全員を縛り上げ、楽太郎が馬車に囚われている人々を放置したまま一息入れて暫く、ジャネット達がようやく追い付いた。




