第193話 王都への道 ⑤
「えーっと、ですね、細工物の金属素材としましては、金、銀、銅、鉄に白金くらいが無難だと思います」
申し訳なさそうにジャネットが楽太郎に告げる。
「え? 魔銀もアウト?」
「できれば?」
「ダメってことかぁ・・・」
「う~ん。本当に少量なら問題ないと思いますが、これまでラク、ラークさんの作った作品の使用量ではほぼアウトですね。なんとかギリギリで大丈夫なのは朝見せて頂いたエメラルドの指輪とルビーのペンダント位でしょうか。
素材だけでも凄い金額になると思いますが、そのデザイン性も含めると一体幾らになるのか・・・想像も出来ません」
「そうなると昨日作ったのも没にした方が無難ですね。
宝石はそのまま他の作品に流用するとして、金属部品は鋳潰すか・・・」
「絶対ダメです!」
「え?」
楽太郎はガックリと肩を落としたが、すぐさまジャネットが否定する。
「鋳潰すなんてとんでもない!」
「でも、今回の件には使えませんよね?」
「ぐ・・、た、確かにそうなんですが、でも、でも、でも、あ、あまりにも勿体ないんです!
とても一晩で作られたとは思えない程の芸術品を鋳潰すなんて、そんな冒涜的なことさせられません!
楽太郎様以外がこのレベルの作品を作ろうとしたら、一体どれ程の技術と時間を要するのか・・・」
「そ、そうですか?」
ガックリ来ていた楽太郎だったが、褒められれば悪い気はしない。
素直に照れ笑いを浮かべ喜色を浮かべる。
「えぇ、そうです。
ですから鋳潰すなんて言わずに保管しておきましょう。
あ、黒蒼鋼を使ったブローチも鋳潰さないでくださいね!」
そう言って念押しするジャネットに楽太郎はあれもなの?と思いつつ頷いた。
そんなやり取りをしていた馬車内ではあったが、話が終わったと踏んだミーネが楽太郎に声を掛ける。
「先セ、お、お兄ちゃん。
お話は終わったの?」
その話し方に楽太郎はなんとも羞痒ゆい違和感を覚えるが肉体年齢では16歳、ミーネは10歳なので兄弟設定にはそれほど違和感はない。
そうは思っても中身は35のおっさんである。
どうしたって親子程も年が離れている違和感は拭えない。
「あ、あぁ、終わりまし・・終わったよ」
返事の途中で兄弟設定だったことを思い出し言い直す。
「じゃぁ、今度はお話して」
「お話ですか? ふむ、確かに馬車の中だと暇なのはわかりますが、エロイーズ達もいますよね?」
そう言ってエロイーズ達を見るが、彼女達も難しい顔をする。
「私達もお話はしましたが、既に尽きてしまいまして、それに旦那様がお仕事の話をしていらっしゃると言うのにそれを邪魔するようなことは・・・」
つまり俺の所為で雑談や手遊びなんかは控えて大人しくしていたと言う事か。
「そうでしたか、申し訳ない。
それではどんなお話をしようか? ミネア」
そう聞くとミーネは笑顔で「知らない物語を聞かせて欲しい」と言うので楽太郎は幾つかの童話を話し始める。
「それでは『歌う骸骨』と言うお話から話させてもらいますかね」
多少の誇張とアレンジを加えて幾つかの怖い童話を話したらミーネ以外にもドン引きされた。
カチカチ山(原作版)はよく考えると確かに怖いかもな。
そんなこんなで日が傾き辺りが暗くなってきた頃、急に馬車が止まった。
俺は[気配察知]で周辺を探ると前方の街道脇の左右それぞれに3つの敵性反応があった。
それ以外にも少し離れた街道の奥にも10個ほど敵性反応があった。
魔物にしては配置が作為的過ぎるから盗賊だな。
俺達が奥の敵性反応の手前辺りに来たら挟み撃ちにする気だったんだろうけど、うちの護衛には通じなかったようだ。
うちの従業員も中々やるじゃないか。
そう思っていると御者台にいるサロメから扉が叩かれる。
「旦那、前方から怪しい気配がします。
多分盗賊だと思いますが、どうします?」
「ふむ、丁度良いですね。
少し身体を動かしたかったんで私がやりますよ」
「いやいやいや、旦那が出たら私達護衛の意味が無くなっちゃいますよ!
旦那に聞きたかったのは先に仕掛けるか、それとも仕掛けさせるかのかってのと、殺すか捕らえるかの判断です」
「そ、そうですか・・・」
「そうなんです! それで改めまして、どうします?」
「そうですね、最低2、3人は生かしておいてください。
他は極力生かす方向でお願いします。
お話できる状態なら手足が無くてもかまいません」
「わかりました」
そう言うとサロメはようやく腕試しが出来ると息巻く。
「あ、一応伝えておきますが、右側の岩の陰に多分3人、左の木陰に3人隠れてます。
あと、街道の先には10人隠れているようです。
他にもいるかもしれませんのでくれぐれも油断なくお願いしますね」
そう念押しすると少し驚いた顔でサロメが返事をしてメリザンドとセルマを連れて駆け出す。
俺はミーネの面倒をエロイーズに任せてエリーとリゼルに各馬車の御者台に移動するよう促し、何時でも動けるように態勢を整え、自身も馬車から降りようとするとジャネットが手伝いを申し出て来たので一緒に降りて辺りを警戒する。
「エリク、状況は?」
「メリザンド達は嬉々として襲いに行きましたよ。
一応、罠であることも考えて私が馬車周辺を警戒しています」
そう返答しつつも両手にはしっかりと弓矢が握られ、矢筒も背負っており、臨戦態勢を整えている。
「そうですか、私とジャネットさんも警戒に当たりますね」
そう言いながら俺も天秤棒を取り出し、手頃な石を数個拾う。
ジャネットの方を見ると彼女は丸い盾と戦鎚を取り出し構えていた。
その様が楽太郎の考える戦う神官のイメージにぴったり合っている所為か、ついつい眺めてしまう。
「な、なにか?」
その視線に気付いたジャネットに問われ楽太郎は一瞬身体を硬直させてしまった。
「い、いえ、何か様になっていると言いますか、よく似合っていると言いますか、戦う神官のイメージにピッタリな気がします」
「そ、そうですか・・・どうも」
そんなやり取りをしている間も一応警戒は続けていたのだが、暫くするとサロメが駆け戻り賊の討伐が終わったことを告げられた。




