誤発注
「いらっしゃいませ」
「今日も今日とてこんにちはー。案の定だけど、『店内での孵化お断り』の貼り紙が増えたんだね」
「何回もあんなことがあっては堪らないですから。まったく誰が持ち込んだのやら」
「ところで、肝心のピィちゃんはどうなったの?」
「隣のダンジョンの魔王がペットとして欲しがったので、引き取ってもらいましたよ」
「ええっピースフルワールド・フォーエヴァーが?!」
「そういやそんな名前でしたね。そして下唇を噛むの腹立つ」
「ピィちゃんって結局、魔物だったのかぁ。あ、でも、隣のダンジョンに行けば会えるってことだよね」
「終焉を告げる暁天の災厄鳥ピィロシュカ・ヴァル・アストレア」
「なんて?」
「終焉を告げる暁天の災厄鳥ピィロシュカ・ヴァル・アストレア。隣の魔王による命名です。本人はすっかり、自分の名前をピィちゃんと認識しているそうで」
「覚えられないから俺はピィちゃんと呼ぶよ」
「それがいいでしょうね。今日の探索は順調でしたか」
「それがさー、地下三階でコボルトの群れに追いかけられちゃって」
「そういう体質だったと諦めるしかないですね」
「爆モテだった。ピィちゃんといい、俺ってもしかして魔物に懐かれるのかな?!」
「だとしたら、勇者としてはどうかと思いますが」
「あ、そういえば、テンちゃんがおすすめしてくれた新発売のサラダチキンおいしかったよ」
「良かったです」
「うまいはうまいんだけどさ、開ける時に汁が零れがちなのが難点だよな。今日もズボンにかかった」
「世界一くだらない伏線回収でしたね」
「……で、店の中に入ってからずっと気になってたんだけど」
「はい」
「なんか今日、やけにハイポ多くない?」
「あら、気づきましたか」
「いやさすがに気づくよ! めちゃくちゃ山積みにされてるけど?!」
「桁が一つ多かっただけですよ。どうってことありませんあはは」
「発注ミス……」
「お弁当を買ったら一本無料のキャンペーン中です。暑い時期であれば、シロップ代わりにして、回復カキ氷として売り捌くんですがね」
「あいにくと時期が悪いね。かといって、ポーション鍋やシチューは不味そうだし」
「そうですね。おいしくなかったです」
「既にやってた」
「ポーション炊き込みごはんも微妙でした」
「手軽さゼロだ」
「腐るものではないのが救いですが。次月の『月刊ダンジョン』は、特集を『回復レシピ百選』にしてもらったうえで、付録を計量カップにするよう手配中です」
「権限すごいな。いや店長がすごいコネを持っていたりするのか? どちらにしろ、売れるといいね……」
「ありがとうございます。それでも追いつかないでしょうから、ハイポーション風呂でもつくって、友達に振る舞おうかと考えていたところです」
「風呂?! そんな贅沢、貴族の消費方法だな。飲まなくても効くものなのか?」
「試したことがないのでわかりませんが、きっと塗り薬と同じようなものではないかと」
「へえ、興味深い」
「私の家に設置する予定なので、お客様がいらっしゃるのは難しいかもしれませんね」
「テンちゃんの家って、もしかしてお金持ち?」
「どうでしょう。無駄に広くはありますが」
「……今からでも連絡先を交換する気は?」
「クシャクシャ、ポイ!」
「ああっ!」




