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ロックス、スキルを知る


「あなた、今日は息子のロックスのスキル鑑定の日よ」


「そうだ。僕達の息子のロックスは、10歳になったからスキルを鑑定してもらえるんだ。今日はその記念すべき日になるんだ」



辺境の小さな村──名を、マヨネーズ村。

マヨネーズの起源を主張する村の一角に、一家は暮らしている。

裕福ではないがそれなりに幸せな夫婦と、一人息子の三人家族である。



「教会でスキル鑑定が始まるのは9時からよ。そろそろ家を出なきゃいけないのに、あの子ったら起きてこないわ」


「なんだって!?9時からスキル鑑定が始まるなら、今すぐ起きて朝ご飯を食べて家を出なくちゃあ間に合わないじゃないか!」


「ロックス!そろそろ起きてきなさい!」



ブロンドの髪の女性、オリビアが息子の部屋に向かって呼びかける。

……返事は無い。



「……返事がないわ。スキル鑑定が楽しみで、浮き足立って夜更かししたからに違いないわ」


「……返事がないな。スキル鑑定を控えた子供は、浮き足立って夜更かし寝坊するのが世の常なんだ」


「ああ、どうしましょうあなた!」



息子の未来を憂い涙を浮かべる妻を、夫のローガンは優しく抱きしめる。



「このままではロックスは大事なスキル鑑定の日に寝坊して遅刻して失敗体験を積んで、トラウマになってしまうわ!」


「そうだ。このままではロックスは大事なスキル鑑定の日に寝坊して遅刻する失敗体験を積んでしまう!今すぐ叩き起さなくては」


「でも起こしたら、大事なスキル鑑定の日に寝坊しても起こしてもらえる、歪んだ成功体験を植え付けてしまうわ!」


「そうだ!起こしてしまっては、大事なスキル鑑定の日に寝坊しても起こしてもらえる、歪んだ成功体験を植え付けてしまう!親として敢えて起こさないのも愛なんだ!」



慌てるオリビアと、意見が二転三転するローガン。

彼は人の心に寄り添うのが得意で、その一点で妻の心を射止めた成功体験を持つ。



「やっぱり起こしましょ。ロックス!今すぐ起きないと朝ご飯抜きよ!⠀いい加減起きなさい!」



ローガンの寄り添いが功を成したのか、流石に遅刻させるわけにはいかないと、オリビアは息子を呼びながら部屋に向かっていった。


一人になったリビングで、ローガンは呟く。



「まったく。ロックスの寝坊癖は困ったものだ。一体誰に似たんだか……」



ロックスの寝坊癖は父親似である。



「ただいまなのだ!」



ドアが開くと共に、明るく間の抜けた、能天気な声。

息子のロックスが帰宅した。

ブロンズヘアーも父親似である。



「ロックス!?どうしてここに!?部屋で寝ていたんじゃないのか!?」


「あら、部屋にいないと思ったら外にいたのね。早く準備しないとスキル鑑定に遅刻するわよ。もう8時半なのよ」


「そうだ。お前は遅刻しない為に、急いで準備してスキル鑑定に行かなくてはならないんだ。既に8時20分なのだからな」



息子の声を聞き、オリビアも戻ってきた。

数秒前まで取り乱していたのも何のその、ローガンは冷静に息子を急かしつつ時間を訂正。

それが父の威厳というものなのだ。



「パパもママも何を言ってるのだ?スキル鑑定に遅刻しないように、昨晩は村長の家に泊まったのだ!スキル鑑定ももう終わったのだ!」


「そういえば言ってたわね」


「そういえば言ってたな」



……たしかに昨晩言ってたな、と思い出す両親。



「あとその時計は壊れてるのだ。アテにできないのだ」


「あら、すっかり忘れてたわ」


「すっかり忘れてたな。つまりロックス。お前のスキルをはもう終わったんだな?」


「そうなのだ!」



家の時計は二時間ほどズレてしまっている。

時計の仕組みが分かるものが村にいない為、商人が来たら買い換えようと思って放置していた。



「恥ずかしいわ。ロックスが村長の家に泊まってたのも、時計が壊れてるのもすっかり頭から抜け落ちて……浮き足立っていたのは私達だったみたいね」


「恥ずかしい事じゃないさ。子供のスキル鑑定は親にとっても大切なことなんだからね。子供のスキル鑑定に浮き足立つのが親というものなんだ」


「無事にスキル鑑定も終わったことだし、私は買い物に行ってくるわ。日曜日は買い出しをして、へそくりでお茶を嗜むのがママであり妻である私の使命よ」


「僕は二度寝でもしよう。息子のスキル鑑定の為に早起きしたけど、日曜日は八百屋と教会以外は休日なんだ。貴重な休日は休むのがパパであり夫である僕の使命なんだ」



息子のスキル鑑定が終わったならと、両親は各々のやりたいことを始めようとする。



「えー?パパもママも僕のスキルが何だったか気にならないのだ?聞いてほしいのだ!」


「そんなのいつでも聞けるでしょ?日曜日は週に一度しかないのよ」


「そうだぞロックス。日曜日は週に一度しかないけど、お前のスキルはいつでも聞けるんだ。いつでも出来る事で大人の日曜日を邪魔するんじゃない!」


「そんなぁ」



これが大人という生き物である。


ロックスのスキルは【天上天下無双の剣聖】

それは世界で類を見ない最高最強のスキルであるが、この両親の元で──あるいはこの村で生まれ育ったロックスにとって、さしたる意味のないものかもしれない。

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