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【第一章完】重機王フェリドゥン ~ロボで戦う社畜、気付けばハーレムラブコメ展開になる~  作者: 沢クリム
第二章

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20/20

20.終業時間厳守

 


 その日の夕方、俺とエルさんの二人は、同じ開発室でそれぞれ歩行実験の報告書を作成していた。

 二時間程度で完成し、午前中にしたようにお互いの報告書を確認しあう。

 エルさんの報告書には、歩行実験終了後の波形異常、動揺のことなどは書いてなかった。


「ああ、それなら単純。私、高い所が怖いのよ」

「…そうなんですか?」


 ティアさんから聞いた経緯を話して、質問すれば、答えはあっさりと返って来た。

 特に言い淀むこともなく、好きな飲料の種類を聞かれた程度の軽さだった。


「と、言っても、フェリドゥンに乗ってる時は平気なのよ?

 怖かったのは、はしごっていう高さに加えて、不安定な足場ね」


 聞くところによると、高所のガラス張りの床などは平気で、ぐらつく脚立は1m未満でも怖く感じるらしい。


「正直、意外です。動揺したように見えなかったので…」

「切り替えは得意なの。…昔から、ね」


 視線は報告書に送られたままだ。だが、なんとなく声の色が暗かった。


 踏み込んでもいいのだろうか。

 そう自問した。無難な自分が、止めとけ、と答え。お節介な自分が、聞いてみよう、と提案する。

 僅かな迷いを抱いている間に、エルさんは顔を上げた。


 目と目があった。数秒、沈黙。

 場違いにも、赤みを帯びた大きな瞳が綺麗だな、なんて、つい考えた。


「…ガズくんの報告書の確認、終わったわよ。

 うん、午前中に言った点も生かしてて、分かりやすかったわ」

「ありがとうごさいます。俺も確認、続けますね」


 数秒の沈黙は、どうやらこちらの話を待っていたようだったようだ。

 気まずくなって、報告書に目を落とした。


「……あれ?」

「どうかしたかしら?」

「いえ…ちょっと、この漢字が…」

「見せて?ああ、これは私のミスね。見つけてくれてありがとう」


 姿勢制御の項目で『体勢』が『体制』となっている事を発見した。

 いわゆる同音異義語だ。自分で入力していたら、見逃していたかもしれない。

 結局、その一点が、俺が見つけた誤りだった。


 入力ソフトには、自動で誤字を検知する機能もある。だが、そこをすり抜けたのだろう。

 ミスがないように見えても、場合によっては気付かない時もあるのだ。



 確認し終えた俺達は、データの提出作業など、それぞれのPCに向き合っていた。


「もうすぐ終業時間ね。そろそろ、三人も戻ってくるかしら?

 ニワさん、就業時間には厳しいから」


 そう、ニワさんは就業時間に厳しい。

 絶対に定時で帰るという強い意志と、定時で帰らせるというリーダーシップがある。

 先月の運用実験第一回が、初の残業だったほどだ。


「あの、エルさん」

「なにかしら?」

「俺、頼り無いと思いますけど、エルさんが困った事があったら、お手伝いするんで、何でも言ってください」


 あの誤字のように、エルさんでもミスはする。完璧ではない。

 何でも無いように言っていたが、思い返せば高さに対する怖さを語る時、口数が多かった気がする。

 お世話になってる先輩に、なにか俺が出来ることがあれば、手伝いたい。そう思った。


「……それって、」


 エルさんは目が合った時より少し長い沈黙の後、何か言おうとした。

 そんな時に、自動ドアは開いた。


「やあ!ただいま戻ったよ!二人とも!

 結局我らは明日の午前も解析作業になりそうだと簡単に報告しておこう!」


「ガズさんは明日、機体の調整作業を手伝って欲しいっす」

「エルさんはサブオペレーターのシステム周りの改善案について意見を聞きたいです」


「二人の報告書も確認している。明日も頑張ろう!…時間は!?」

「終業3分前ですよ、ニワさん」

「よし!間に合った!」


 一個訂正。厳しいというより、楽しんでるな。終業時間を。クリアタイムだと思っていないだろうか。



 嵐の様な終業挨拶に、エルさんが何か言いかけたことを思い出したのは、ロッカールーム。

 ネクタイを締めた辺りだった。


「…聞きそびれたな。……まぁ、明日も会社だし…」


 いいか、と呟こうとして、携帯端末のメッセージアプリの通知音が聞こえた。手に取り、それを確認する。


『さっそくで恐縮ですが、お手伝い頂きたいことがあります。

 本日、十八時頃、お時間よろしければ、添付URLの店舗までお願いします。』


 エルさんだった。文面は報告書と同じ文体で堅い。


「分かりました。行きます。っと…」


 送信してから思ったのだが、この場合、『伺います』の方が正しいのかもしれない。

 いや、ビジネスではないのだからいいのか?


 予定も無かったので、URLの確認の前に返事をした。

 今更ながら、接続するとそれは近場の『居酒屋』の場所を示すものだった。


「……居酒屋 魚政?」


 エルさんのイメージとは違う場所に、少々戸惑った。



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