01.異形重機アジダハーカ
巨躯が駆ける。
山を越えて、街に迫る。
巨大なイノシシだ。身の丈は、5m、二階建ての建物程度。
怪獣と呼ぶには小さいが、人が抗える大きさではない。
立ち塞がる『物』が居る。いや、重機がある。
それは異形だった。まず、目に付くのが、どこかヒロイックな竜の頭の意匠の操縦席。
そして、左右異なる腕を前方に伸ばしている。その腕は無機質な顎の様ですらあった。
幅4mで道を占有するそれを、竜だとするなら履帯の腹部と、腕と同じだけの尾を持っていた。
全高5m、全長15m。既存の大型重機より、一回り大きい。
「テイルアンカー、オン!」
『了解。テイルアンカー起動。以降、履帯移動不可、ご注意ください』
俺は、音声コマンドで機体を固定。
機械的な返答を聞きながら、巨躯と対峙する。
「来いよ、化け物!」
『訂正。巨大災害です。形状は『獣型』。これまで行動からイノシシに似た特徴を持っていると推測されます』
「細かいことはいいんだよ!ノリだノリ!」
『警告。足踏みをしています。突撃の予兆だと思われます』
「オッケー!警告サンキュー!」
目の前の相手に、伝わるか分からなかったが、突撃がその答えらしい。
声も上げずに一直線に飛び込んでくる。
固定化した機体は避けることは出来ない。
いや、そもそもその必要はない。
衝撃が来る、城門をこじ開けようとする破城槌のような頭蓋の一撃は、容易く受け止められた。
胴体部に装着された巨大バゲットは、対衝撃性だ。
想定では、同じ速度で同じ大きさ岩の衝撃にも耐えられる。
「左アーム、フォーククローを使う!」
『了解。左フォーククロー、稼働に問題ありません』
フォーククロー、それはまるで爪のような重機のアタッチメントだ。
建物解体にも使うそれを、突進してきたイノシシを押さえ込むのに使う。
当然暴れるイノシシ、アンカーが無ければ振りほどかれたかもしれない。
しかし、しっかり地面に固定された今、重量、大きさ、パワーでさえ、この機体が勝る。
「ゼロ距離エコー!解析開始!」
『…解析完了。コア発見。モニターに表示します』
接触したから、フォーククローに取り付けられた走査機関からの情報が来た。
モニターの一つに立体映像が投影される。
赤い塊が、イノシシの頭頂部に映し出されている。
「やっぱり脳天か!右アーム、超油圧ブレーカを使う!」
『準備完了。コアの大きさから、誤差許容範囲30cm以内です』
「ドンピシャで行く!」
押さえつけたまま、振り下ろすのは、杭打ち機の様なアタッチメント、ブレーカ。
岩盤を粉砕するそれを、暴れるイノシシの頭部へ振り下ろす。
打撃音、寸鉄で脳天を殴られたに等しい獣は暴れる身体を止める。
『操縦席完全気密、ヨシ。コア中心からズレ、なし。音声コマンドをお願いします』
「ドライビングステーク!」
声と共に、杭が打ち込まれる。衝撃音と衝撃波は辺りを揺らす。
ガラスが割れるような高い音も同時に辺りに広がる。
これはコアを砕いた時特有の音だ。外部集音機がそれを拾った。
『コアの完全破砕確認。ハザードマテリアル、流出なし』
操縦席で力を抜く、いつもの事ながらリアルさと緊張感から汗をかいていることに気付いた。
『結果を発表します。周辺被害、なし。周辺汚染、なし。機体被害、軽微。クリアランクS。シミュレーションを終了します。お疲れ様でした。オペレーター』
「そっちこそお疲れ。サブオペレーターさん」
ヘッドギアを外す。
飛び込んでくるの光景は、シミュレーター内部の操作盤と、操縦席。
振動再現あり、音声は立体音響で、映像は超高画質、操作は複雑だがゲーセンにあったら、長蛇の列を作るだろう。
再現度もバッチリだそうだ。
一度も実戦配備されてないので、あくまでシミュレーターが出力した想定内で、という注釈は付くが。
汗で濡れた服が肌に張り付く不快感と、Sランククリアという達成感を感じながら操縦席を出る。
操縦席は様々な機械に繋がれ、コードは別室に伸びている。
そして、こちらに向かって歩いてくる女性が一人。
紺色縁の眼鏡の奥でにこやかな笑みを浮かべながら、どこか芝居じみた仕草でこちらに手を差し出す。
「やあ、ガズくん。今日も素晴らしい成果だね。いいデータも取れて、ワタシは嬉しい!」
「お疲れ様です。黒鉄・ニワ博士。ご足労頂き、ありがとうございます」
俺はその場で、頭を下げる。
目の前の女性はまたも大仰に驚いたように言葉を続ける。
「堅い!堅いなぁ!それにいつも言っているだろう、君も黒鉄だ。それに博士も要らないよ!ワタシのことは、親しみを込めてニワさん、なんならニワ姉と呼んでもいいのだよ!」
「勘弁してくださいよ、ニワさん」
「…というか、シミュレーション中と性格が違うね」
「それは、なんというか、つい…」
「分かるとも!ロボット操縦はロマンだからね!テンションも上がるさ!無論、そのままで構わないよ。むしろ、ありのままの君でいたまえ!…実際、その方がいいデータが取れるからね」
「恐縮です」
俺の名前は、黒鉄・ガズ。
世界的企業、黒鉄重工の経営の孤児院出身の22歳。
現在、黒鉄重工先端重機開発室、唯一の専属オペレーター。
そして、シミュレーターで乗っていた機体は対巨大災害双腕重無限起動機。
Anti
Giant Hazard
Double Arm
Heavy
Caterpillar
頭文字をとりAGDHC。
アジダハーカ。それがあの異形の重機の名前だ。




