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知勇の士達  作者: Yuri
第四章 開かれた運命のページ(地球編)

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21、異世界への入り口

 夏美は、母親から彷徨の行方不明の電話を受けてから部屋に戻ると、すぐに梓にメールを打った。


 今から、うちに来れる?

 彷徨が、ウィルデアルヌスへ行ってしまった。


 するとすぐに、返事が返ってくる。


 行ける。待ってて。


 二人は短い文章を交わした。言いたいことも聞きたいことも沢山ある。しかしそれは二人が会ってから話した方がいい。

「こんにちは」

 メールのやり取りをしてから一時間後、梓は旅行鞄を持って訪ねて来た。

 だが、夏美はそのことには触れずに、梓をすぐに部屋に上がらせた。

「うん。上がって」

 二人はいつもと同じような会話をした。春道は何か察しているかもしれないが、夏美が梓に「ハリスの日記」や「月夜の散歩」を話した、ということは知らない。そのため、それを勘づかれないように梓は偶々このタイミングで遊びに来た、という風に装っていた。

 夏美と梓がパタパタと部屋に入ると、早速と言った様子で梓が切り出した。

「メールのこと、ホント?」

「うん」

 二人は声を潜めて話す。部屋にはエアコンが入っており、ドアも閉めてあるが念のためである。

「彷徨君が、異世界に行ったって話」

「私はそう思ってる」

「何で分かったの?本人から今から行くって言われた?」

 夏美は固い表情のまま、首を横に振った。

「ううん。実は梓が来る前に、私のお母さんから電話があった。彷徨が行方不明になったって。居場所を知らないか聞かれた。だから、異世界に行ったんだと私は思った」

 梓は顎に手を当て頷くと、妙に納得した様子だった。

「成程ね。だけど、彷徨君も、何か適当に嘘ついておけば良かったんじゃないのかな」

「バレると思ったんだと思う。異世界に行ったら、連絡もつかなくなると思うし」

「そう言われたら、そうかもね。それで?夏美はお母さんに、彷徨君の居場所についてなんて答えたの?」

「……京都に行った、って言った」

 梓は目を丸くした。

「よくとっさにそんな嘘出たね」

「言ったのは私じゃなくて、おじいちゃんだけどね」

 夏美は肩を竦めた。

「春道さんが?」

 夏美は頷いた。梓は「月夜の散歩」を読んでから、夏美の祖父のことは名前で呼んでいる。

「途中で電話代わってくれたの。私、お母さんと口でやり合うと勝敗は五分五分なんだよね。本当のことを言うならかなわないこともないんだけど、嘘つくとなると何となく分が悪いっていうか。まあ、おじいちゃんに代わってもらって良かったよ」

 梓は、おずおずと聞きたいことを口にした。

「あのさ、春道さんは、彷徨君がいなくなったことに対して何か言ってた?」

 夏美はふっと笑った。

「何か言ってた、というか…おじいちゃんは、彷徨が異世界に行ったことを知ってる。確信があるみたい。それで心配なら夏美も行ったらいいよ、って言われた」

「……」

「私はどうしたらいいか分からないし、色々整理したくて梓にメールした」

 先程から困った様子の夏美に、梓は笑ってみせた。

「そっか。でも、私を頼ってくれたのは嬉しいな。ありがとう」

「お礼を言うのは私の方だよ。梓の顔見て、ほっとした」

 夏美は梓の言葉に救われた。ようやく微笑する。

「でも、どうして春道さんは夏美に、心配なら行ったらいいよって言ったんだろうか…」

「分からない。でも、行こうと思えば行けるんだよね?」

「異世界があるならね」

「……」

 夏美は目をぱちくりさせた。それを見て、梓はいたずらっぽい笑みをみせる。

「夏美の真似。ちょっとは信じてみる気になった?」

 彷徨のことがあった。母と祖父のことがあった。

 だから、夏美は異世界・ウィルデアルヌスについて信じてみることにしていた。

「うん。まあね」

「そう来なくっちゃ」

 梓は不敵な笑みを浮かべた。

「それで夏美が言った通り、行こうと思えば行けるよ。月夜の散歩に行き方は書いてある」

「頼もしいね、梓」

「ここ一週間、テスト期間だというのに月夜の散歩を読み込んでいたからね」

「ふーん…」

「今夜行ってみる?」

 梓の提案に、夏美はドキッとする。

「こ、今夜?」

 戸惑う夏美に、梓は窓に近づくとエアコンが効いているにもかかわらず、がらりと開けた。もやっとした外気が入りこみながらも、梓は少し身を乗り出して空を仰いだ。日が傾いてきているというのに、じりじりと体が焼かれそうな日差しはまだ衰えない。

「今日は多分天気がいいから、月も出るよ。ウィルデアルヌスに行くには、月夜の散歩に書いてある道順を通らなくちゃ行けないけど、もう一つ条件があるの」

「条件って?」

 梓がくるっと体の向きを変え、にっと笑った。

「月夜、であること」

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