↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢レティシア、二人になりました  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
194/208

第4場面「笑っている」


午後。


令嬢レティシアは、村の中を歩く悪役レティシアの後ろをついて歩いていた。


朝からずっと。


水路。


魔道具。


書類。


鉱山。


次から次へと仕事が舞い込んでくる。


それなのに。


悪役レティシアは、嫌そうな顔をしながらも、一つずつ片付けていた。


「レティシア様!」


村人の声が飛んでくる。


「どうしたの?」


「すみません、またちょっと……」


「また?」


「はい……」


悪役レティシアが眉をひそめる。


「今度は何よ」


村人が困ったように頭を掻いた。


「昨日教えていただいた通りにやったんですが……」


「見せて」


「はい」


二人で作業場所へ向かう。


令嬢レティシアも、その後ろからついていく。


そこには。


昨日修理したばかりの簡単な魔道具が置かれていた。


「……」


悪役レティシアが、それを見る。


そして。


「だから言ったでしょう!」


「ひっ」


村人が肩を跳ねさせる。


「魔力を流す方向を逆にしないでって!」


「す、すみません!」


「これじゃ動くものも動かないわよ!」


「申し訳ありません!」


「まったく……」


悪役レティシアは、呆れたように額を押さえた。


令嬢レティシアは、思わず苦笑する。


相変わらず。


口が悪い。


けれど。


悪役レティシアは怒鳴り続けることはしなかった。


「……貸して」


「え?」


「私がやるわ」


「ですが……」


「いいから」


悪役レティシアは魔道具を手に取った。


壊れた箇所を確認する。


魔力の流れを見て。


部品を一つ外す。


そして。


少しだけ調整する。


「ここね」


カチリ。


小さな音がした。


魔道具が淡く光る。


「……動いた!」


村人が声を上げる。


悪役レティシアは、ふう、と息を吐いた。


「ほら」


「ありがとうございます!」


「……まあ、次から気をつけなさい」


「はい!」


村人は嬉しそうに頭を下げる。


「本当にありがとうございます、レティシア様!」


「いいわよ」


悪役レティシアは、手を振った。


その瞬間だった。


ふっと。


その顔が緩んだ。


ほんの一瞬。


「……」


令嬢レティシアは、目を見開いた。


悪役レティシアが。


笑っている。


本当に。


ほんの一瞬だった。


村人が去っていくと。


悪役レティシアは、もういつもの顔に戻っている。


「次はちゃんと説明を聞いてもらわないとね」


そう言いながら。


また歩き始める。


令嬢レティシアは、その場に少しだけ立ち止まった。


(……笑っていますわ)


胸の奥が。


小さく揺れた。


王都にいた頃。


自分のほうが、ずっと多くの人に好かれていた。


笑えば。


「レティシア様は素敵ですね」


優しくすれば。


「さすが侯爵令嬢です」


困っている人に手を差し伸べれば。


「本当にお優しい方です」


そう言われた。


たくさんの人が、自分に笑いかけてくれた。


自分も笑い返した。


嫌われないように。


相手を傷つけないように。


場の空気を壊さないように。


誰もが気持ちよく過ごせるように。


だから。


笑っていた。


いつも。


けれど。


今、目の前にいた悪役レティシアは。


誰かに好かれるために笑ったわけではない。


「ありがとう」と言われたからでもない。


褒められたからでもない。


ただ。


自分が手を動かして。


自分が考えて。


自分が問題を解決して。


その結果が、目の前に現れた。


それが嬉しかった。


だから。


笑った。


「……」


令嬢レティシアは、胸元に手を当てる。


(同じ……では、ありませんわ)


自分も。


この人も。


人の役に立つことを嬉しいと思う。


誰かが困っていれば、放っておけない。


けれど。


その先にあるものが、違う。


自分は。


誰かに喜んでもらうことを、大切にしていた。


この人は。


自分が何かを成し遂げることを、大切にしている。


「……不思議ですわ」


「何が?」


先を歩いていた悪役レティシアが振り返る。


「……いえ」


令嬢レティシアは、首を横に振った。


まだ。


上手く言葉にできない。


ただ。


一つだけ。


分かったことがある。


王都で、たくさんの人に好かれていた自分より。


今。


目の前で泥だらけになっている彼女のほうが。


少しだけ――。


楽しそうに見える。


そして。


そのことが。


令嬢レティシアには、少しだけ不思議だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。