灰の星より出づる
暗黒の宇宙という名の海を渡る数隻の船があった。乗船者たちは皆窓から一つの惑星を見つめていた。
地球型惑星地表には、惑星を幾度も滅ぼすことができるだけの兵器が存在しており、今まさにそれらが全て使用されていた。いくつもの国々が爆炎に飲まれ人も物も焦土に変わり、海はどす黒く染め上げられていく。
誰かがその星をソドムと呼んだ。入植した人類たちが惑星全土に渡る戦争を繰り広げ、銀河連盟の介入もむなしく滅びゆく惑星を、神の怒りを買った都市の名で呼んだ。
「なあ、お前さ、今どんな気持ちでいる?」
一人の商人が、ソドムから逃れた少年に問いかけた。
太陽のように赤い髪に、灰の瞳を持つ少年だった。その表情も、瞳に映る感情も、ぴんと張り詰めてすこしも揺らがない。故郷の惑星が最悪の形で滅びる様を肉眼で見ているのに、たった十四歳の子どもなのに、彼はわずかにも取り乱さない。
「滅んでよかったと、そう思う」
すげなく言って、少年は口を閉ざした。
商人はせき込み、やがて嘔吐した。船内ではほかの乗組員も同様の症状に見舞われていた。滅亡寸前のソドムの汚れ切った大地に降り立ったせいだった。
床に倒れこんだ商人は、吐しゃ物に交じった血を見て、自らの死期を悟っていた。船は予定外の長期惑星滞在によって物資が不足しており、地球に戻るころには手遅れだった。こうなることは予測されていたが、船団は滅びに瀕したソドムの人々を見捨てることができず、急遽降り立ったのだ。
「ああ、クソ、最悪だ……」
商人は悪態を吐いたが、少年は一瞥もくれなかった。
少年は汚染された大地でも生きられるよう遺伝子改変と発現誘導を受けた人間だった。また、戦争の引き金を引いた帝国軍人の一人でもあって、他人が傷ついても苦しんでいても感情が動くようにはできていなかった。
商人は吐き気が落ち着くと、よろめきながらも立ち上がった。床を掃除ロボットが走っていき、吐しゃ物はすぐに回収された。
爆発の止まない惑星も、少しずつ遠ざかって肉眼では見えなくなっていた。
「地球に戻ったら継承戦の開始を宣言しないといけないな。悪かったな、クソガキ。連れてきて早々また戦争だ」
「地球でも戦争があるのか?」
「ああ、これから起こるのさ。商会の後継者はお前の他に六人、全員が殺し合って一人だけを残す。勝った者が後継者だ。お前はもう戦いなんてうんざりか?」
「問題ない、全員殺せば終わるんだろう」
商人は笑った。あまねく銀河の星々に商品を届けるアクラシエル商会の長になるに相応しい度胸と落ち着きだったからだ。
少年は商人を見上げた。
餓える狼の灰の瞳の奥に、商人は探していた運命の糸を見た。その糸は底の抜けた欲望の闇の中に続いていた。




