ついに化けの皮が剥がれた?
王宮の深奥、重厚な扉の先で待ち受けていたのは、虚無を絵に描いたような顔で天を仰ぐ国王陛下。
「……来たか。我が国の至宝、愛の体現者たちよ」
王の背後には、抜身の剣を構えた親衛隊がびっしりと控えている。この厳重すぎる警備。ついに私たちの「仮面」が剥がれ、国家転覆の容疑で処刑される時が来たのだと、私は覚悟を決めた。
椅子に座る……。
(アルフォンス、あなたのせいですわ。あなたの演技が鼻につくから、陛下に勘繰られたのです)
(エルゼ、君の殺気が漏れすぎていたんだ。道連れにしてくれるなよ)
私たちは冷や汗を流しながら、いつになく深く頭を垂れる。すると王は、震える声で意外な言葉を口にした。
「……助けてくれ。予はもう、王妃とどう接すればいいのか分からぬのだ」
……は?
顔を上げると、王は涙目で縋り付くように私たちを見つめていた。
「結婚して三十年。もはや会話は事務連絡のみ。触れ合えば静寂が包み、顔を合わせれば溜息しか出ぬ。だが、国を混乱させるわけにはいかぬのだ……! 予たちのような『冷え切った夫婦』に比べ、毒を食らい、石像になり、魔法をぶつけ合ってもなお輝くお前たちの愛……。その秘訣を、内密に伝授してほしい!」
王は、私たちの「殺し合い」を、倦怠期を打破する「情熱的な刺激」だと勘違いしていた。
混乱させたくないのは国家ではなく、自分の家庭環境だったというわけだ。
「……陛下。夫婦の秘訣、ですわね?」
私は、アルフォンスの脇腹を全力でつねりながら、慈愛に満ちたアルカイックスマイルを浮かべた。
「それは『相手を常に、今日が命日だと思わせる緊張感』を持つことですわ。……アルフォンス様、そうでしょう?」
「……ああ、その通りだ。陛下、王妃様を『守るべき花』と思うのはおやめになって下さい。……『いつ首を狙ってくるか分からない強敵』だと思えば、一挙手一投足から目が離せなくなります」
(互いに殺意があれば、倦怠期など感じる暇もありませんわ!!)
その時、タイミング悪く王妃様が部屋へ入ってきた。
「あ、あの、ですが……陛下が誰も通……」
ドアの前で見張っていた、困惑する親衛隊の兵士を押し退ける王妃様。
「あら、あなた。また公爵夫妻に無理(強制ダンスのような)言って困らせていらっしゃるの?」
王妃様の冷ややかな視線に、王はビクりと肩を揺らす。そこでアルフォンスが、陛下の腕を握り、耳元で囁いた。
「陛下、今です! 敵(王妃様)の懐に飛び込み、不意打ちで『愛の言葉(致死量の揺さぶり)』を!」
王は、ヤケクソ気味に立ち上がった。
「お、王妃! ……予は、そなたが怖い! ……だが、そなたに無視されるのは、死よりも恐ろしいのだ!」
……静寂。
王妃様は目を見開き、やがて顔を真っ赤にして扇で口元を隠した。
「……まあ。……あなた、急に何を……。そんなに私のことが……気になっていたのですか?」
二人の間に、二十年ぶりの甘酸っぱい(そして物理的な意味ではない)火花が散った。
王は「これだ! この緊張感だ!」と歓喜し、王妃様もまた、陛下の「必死な形相」に昔の情熱を思い出したらしい。
「素晴らしい! 公爵夫妻の助言通りだ! 相手を『最強の敵』と見なすことで、予の心は今、戦場に立つ戦士のように高鳴っているぞ!」
(違う、それはただの動悸よ!!)
こうして、王室の倦怠期は「夫婦ガチ対決モード」へとシフトすることで奇跡的に解決した。
私たちは「王室の危機を救った愛のカウンセラー」として、王から直筆の感謝状と、さらなる豪華な宝飾品を贈られることになった。
「……アルフォンス。……陛下、あんなアドバイスを真に受けて、本当に大丈夫かしら」
「……知るか。……だが、あの二人がやり合っている間は、こちらに矛先が向くことはないだろう」
私たちは、王都の平和と自分たちの首の皮が繋がったことを、毒入りのワインでひっそりと祝うのだった。




