愛の結晶?
「暗殺を試みた罪は、愛の感動だけでは拭えませんわ」と、王妃様が意外にも (あるいは恐ろしく)冷静な判断を下したことで、モルガン侯爵は「愛の伝道師」となる前に幽閉されてしまった。
侯爵は一切抵抗する事なく、とても穏やかに判決を受け入れていた。
王妃様が彼の私兵を先に捕らえていたから、大事にならずに済んだのかもしれない。王妃様に感謝しなけれ……。
「お二人の愛は、もはやお二人だけのものではありません。この『奇跡の血脈』を、次世代へと受け継がねばなりませんわ!」
王妃様が満面の笑みで、私たちの前に一人の少年を連れてきました。
透き通るような銀髪に、すべてを射抜くような鋭い瞳。どこか別の国の王族を思わせる高貴な佇まいの少年、テオ。
「この子は、とある事情で身寄りをなくした高貴な血筋の孤児。お二人のような『愛の極致』を知る夫婦こそ、この子を育てるに相応しいと考えましたの」
((……えっ!?))
「育児」という名の、24時間監視付きの新たな拷問。
しかも、この少年テオは、挨拶もそこそこに、私とアルフォンスを品定めするように見つめ、鼻で笑う。
「……ふん。あなたが、巷で噂の『聖夫婦』? ……見たところ、お互いの首筋ばかり狙っている、ただの狂犬夫婦にしか見えないけれど」
(……このガキ、見どころがあるじゃないの)
私は、思わず少年の「本質を見抜く力」に感心。
しかし、アルフォンスは面白くなさそうに少年の髪を乱暴に撫で回す。
「(生意気なガキだ) ……エルゼ、丁度いいじゃないか。私たちの『殺意の英才教育』を施して、最強の暗殺者に仕立て上げよう。そうすれば、いつか君を私より先に葬ってくれるかもしれない」
「あら、名案ですわね。……でも、この子が最初に狙うのは、あなたのその無駄に高い鼻かもしれませんわよ?」
ところが、心酔王妃様にはこの光景すら「理想的な家族像」に見えてしまっていたようで。
「まあ! 公爵様がさっそく父親らしいスキンシップを! 奥様も、少年の将来を頼もしく見守って……! これこそ、愛によって結ばれた『聖家族』の誕生ですわ!」
こうして、私たちの殺伐とした屋敷に、最強の「毒舌養子」が追加された。
テオは、私たちが食事に毒を盛ろうとすれば「……それ、さっき反対側の人が何か入れてたよ」と冷めた声で指摘し、寝室に罠を仕掛ければ「……ドアの上に落下ナイフを置くのは、古典的すぎてあくびが出るね」と一蹴。
「……なあ、エルザ。……この子、もしかして私たちの天敵じゃないか?」
「……ええ。……でも、この子が私たちの『演技』を冷笑するたびに、私の殺意は、あなたではなくこの子を黙らせる方に向かいそうですわ」
私たちは、予期せぬ「第三者の介入」により、殺し合いを一時休戦し、三人で食卓を囲むという奇妙な、そして誰よりも「健全に見えてしまう」生活を余儀なくされる。
「……おい、テオ。野菜を残すな。……エルゼ、君もだ。子供の前で好き嫌いを見せるなよ」
「……うるさいわね、アルフォンス。……テオ、そんなにパパ(仮)が怖いなら、ママ(仮)が後で彼のクローゼットに蛇を放り込んであげましょうか?」
「……勝手にやってよ。……本当、変な夫婦」
テオが呆れたように溜息を吐き、私たちは不本意ながらも「教育熱心な両親」という新たな仮面を被らされることになった。
王妃様には借りができたばかり、しばらくは様子見でいくしかない……。




