第6話 Six Feet Under⑥
「ったく……あんなに笑うことねぇじゃねえかよ」
「あれはライが悪いわよ」
「俺が悪いって……っつーかフィーも笑い過ぎなんだよ」
「はあ? あたし悪くないし。ライアンが乙女心を分かってないのが悪い」
「なっ……」
明日の旅立ちに向け、スラムの人々に貰った物を整理しながらそんな会話を交わす。外からは虫の鳴き声が優しく響いていて、それが少しだけ名残惜しくさせてくる。
「それにしても、本当にここの人達には色んな物を貰ったわね」
イニがずらっと床に並べられた物を仁王立ちで眺めながら言う。彼女の言う通り、本当に沢山の物を貰ったものだ。
「だな。小せえもんは持って行けるけど、流石に毛布とかは持って行けねぇだろうな。ただ、これは持って行けるだろ? これは……置いて行くか」
「えー! なんでよ!」
ライアンが置いて行くスペースに避けた鉄製のマグカップを、フィーが瞬時に戻してくる。
「おい、いらねぇって。重いし。だいたい持ってるし」
「あたしの分ないもん!」
「俺と一緒のやつ使えばいいじゃねぇか」
「そうかもだけどぉ……でも持って行きたいの!」
いやいやと駄々をこねるフィーに、ライアンはため息を吐く。イニヘ視線を向けると、彼女は面倒くさいと言いたそうなのを隠そうともしていない。
「別にいいんじゃない? それに、これは全部ライが家々を修理したり、フィーが子ども達のお世話したお礼として貰ったものでしょ? 邪険に扱うのも悪いわよ」
「そうだそうだ! イニの言う通りだ!」
「あーもう勝手にしろよ。ったく……ただ、重いもんとデカいもんは置いてくぞ。旅は極力身軽にしてぇからな」
「はーい!」
フィーは満面の笑みを浮かべながら、先日エイミーから貰った革製のバッグにマグカップをしまう。
「にしても、やっぱりバッグがあるのとないのとじゃ雲泥の差だな」
「だねー。エイミーに感謝しなきゃ」
今ライアンが荷物を詰めている肩掛けバッグもエイミーが作った物らしく、手作りにしては非常に丈夫でこれなら旅をするにも不便はなさそうだ。
さて荷物整理を再開しようかとライアンがゴーマンから貰ったオイルに手を伸ばしかけた時、コンコンと扉が叩く音がした。
「ん?」
三人がそちらへ顔を向けると、部屋の入り口にエンナを腕に抱えたエイミーが立っていた。それを見たフィーがパッと顔を輝かせる。
「エイミー!」
「ごめんなさいね、忙しい時に」
「いやいや、そんな忙しくはねぇさ。それで? 何か用か? 修理が必要なものがあんなら何でも直すよ」
ライアンの言葉に、エイミーは「違うの」と言って少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「違う?」
「えぇ、三人に渡したいものがあって」
そう言って彼女は握っていた手をそっと開いた。そこには、長さの違う革製の紐のようなものが三つ並んでいた。
「これは……?」
「革製のブレスレットよ。三人にプレゼントしたくって」
「えっ、私にもあるの?」
まさか自分にもあると思ってなかったのであろうイニが、驚きに目を丸くする。
「もちろん。イニちゃんだけは手首に巻けないけど……。あ、サイズが大きかったらすぐに調整するから言ってね」
エイミーから受け取ったそれを、さっそく手首に巻いてみる。全て革で作られているおかげで燃えにくいのは助かるなんてことを思わず考えてしまう。
「えっ凄いあたしの名前が彫られてる! あっエイミー達の名前も入ってる!」
自身の手首に巻いたブレスレットをまじまじと見ていたフィーが、部屋の明かりにそれを照らしながらそんなことを叫ぶ。
ライアンも彼女に倣うようにブレスレットを見ると、確かにライアンの文字が刻み込まれているのが分かった。その隣に小さくアルフレード、エイミーそしてエンナの名前も刻まれている。こんな物を渡されたら、ここを去ってもまたすぐに帰って来たいと思ってしまう。
「いいな、これ」
「でしょ? ただ、イニちゃんのだけごめんなさいね。ブレスレットと言うよりベルトみたいになっちゃった。それに、本当は二人と同じように入れたかったんだけど、小さくてイニちゃんの名前しか入らなかったの」
「そんなの気を使わなくてもいいのに……」
イニはそう言うと、まるで宝物を守るかのようにぎゅっとエイミーから貰ったそれを抱きしめる。
「それにしてもエイミーってすっごく手先が器用だよね。こんなの作っちゃうんだもん! わぁ宝物ができちゃった!」
「フィーの言うとおりだな。本当にすげーよ。ありがとな、大切にするよ」
「ふふっ、そんなに喜んで貰えると頑張った甲斐があるわ」
エイミーはどこか誇らしげにそう言うと、腕の中で眠るエンナへと顔を向ける。その様子を見ていると、ふとせっかくならこれを生業にすればいいのにとさえ思ってしまう。
「なあ、エイミーさんはこれを仕事にしないのか?」
「え?」
「そうだよー! エイミーって手先器用だし、こんなブレスレットやバッグまで作れるんだもん! どうせならエイミー特製の革製品とか売ったら売れるんじゃないかな?」
名案を閃いたとでも言いたげなフィーに、ライアンとイニも頷く。どうやらみんな同じ事を考えていたみたいだ。
「そうね。今はまだエンナが小さいから難しいかもしれないけど、もうちょっと大きくなったら考えてみてもいいんじゃないかしら?」
「うーん……考えてないこともないんだけど」
「何か引っ掛かることでもあるの? もちろん私達が子育ての大変さは分からないから、見当違いなことを言ってたら申し訳ないんだけど……」
エイミーは少し考えるような素振りをした後、すやすやと寝息を立てるエンナの頬を軽く撫でた。
「変な話をするわね」
「変な話?」
フィーが訊ねると、エイミーはこくりと頷く。変な話とは何だろうかとライアンも頭を巡らすが、これと言って思い当たりそうなものはない。
少し躊躇したような素振りを見せた後、やがてエイミーは何かを決意したかのように、スッと短く息を吸った。
「アルフレードを説得して欲しいの」




