第6話 Six Feet Under⑤
「――っつーことでそろそろ俺らは出て行くよ」
「……そっか」
すっかり恒例になってしまったアルフレード家族とライアン達で食卓を囲みながら、ライアンがそう告げるとエイミーが寂しそうに呟いた。その肩を、アルフレードが優しく抱きしめる。
「悪いな。こんなによくしてもらったのに」
「ううん、違うの。三人と仲よくなれたのになぁと思ったら寂しくなっちゃって」
「エイミー……」
そう呟いたフィーはその青い瞳をうるうるとさせている。どうやらその様子に気が付いたのはライアンだけではないようで、すぐ側にいたイニがそっと服の裾を引っ張った。
「ライ」
「わーってるよ。フィーはどうしたい?」
「えっあたし?」
「俺の知り合いにフィーは一人しかいねえよ」
「あ、あたしは……」
きょろきょろと、フィーは視線をさまよわせる。助けを求めるように視線がライアンへ向くも、決めるのはフィー自身なのだから、口を開くことはしない。
ライアンが何か言って、彼女の決断がブレることはしたくなかった。それはきっと、イニも同じだろう。
「あたしね、ここの人達が大好き。みんなこんな見ず知らずのあたし達を温かく受け入れてくれたでしょ。本当に感謝してる。でもね」
フィーはそこで言葉を区切ると、ライアンとイニを順番に見てやがて決意を込めた目でうんとハッキリ頷いた。
「でも、あたしはライアン達の旅に同行するって決めたから。ここでやっぱり着いて行くの辞めますって言ったらライアン怒るでしょ?」
「はあ? 別に怒んねーよ」
「え?」
「え? じゃねえ。んなもんフィーが決めたことだろうが。なら、俺もイニも文句ねぇよ」
ライアンの言葉にフィーは一瞬ポカンとしたかと思うと、不満そうに頬をぷくっと膨らませる。
「おいなんだその顔。何も間違ったこと言ってねぇだろ。なあイニ」
「間違ったことは言ってないけど、言い方ね」
「はあ? 何だよそれ」
ふふっと笑い声が聞こえてそちらへ顔を向ける。そこには無言で肩を振るわせる二人がいて、ライアンは思わず片方の眉根を上げてしまう。
「アルフレードもエイミーさんも何笑ってんだよ。今笑うとこあったか?」
ライアンが訊ねたのが合図だったかのように、二人は今度は声を上げて笑い始めてしまう。つられるように、フィーがプッと吹き出したかと思うと腹を抱えて笑い始めてしまう。
「おまっ……そんな笑うことねぇだろ!?」
「アハハハハハハッ!! ライアンくんらしいね」
「なっ! お前それどう言う意味だアルフレード!?」
アルフレードはライアンの問い掛けに答えることなく、フィーと同じように腹を抱えて笑うだけだ。隣のエイミーでさえも堪えきれないとでも言うように、机をバンバンと叩く始末。
本当に何が面白いんだか。そう思ってイニを見るも、彼女は彼女でどこか楽しそうにその様子をじっと見つめていた。
「なあイニ。俺そんな変なこと言ったか?」
「いいえ。でも、ライらしくていいんじゃない?」
「はあ?」
どいつもこいつも。味方はいないのか。そう思ってライアンがため息を吐いた時、隣の部屋からエンナの泣き声が響く。
「おっとうるさくし過ぎたか。エイミー、僕が行ってくるよ」
「ご、ごめんね。わ、わたし笑い過ぎちゃってフフ……フフフフフッ」
笑いが止まらないエイミーの背中を優しく撫で、まだ肩を震わせたままのアルフレードが部屋を後にする。
「ったく……何なんだよお前らは」
自分だけ笑われている理由が分からない苛立たしさを、パンとともに飲み込む。悪い気はしないが、それでもちょっとした悔しさのようなものはある。
「ごめんなさいね、ライアンくん。イニちゃんの言う通りライアンくんらしくて笑っちゃった」
「別にいいけど……それで? 結局フィーはどうするんだ?」
「はえぇ?」
笑い過ぎて最早泣いているフィーにもう一度訊ねてみる。ここまで来ると正直まともな回答は得られない気がしてくるが、意思は聞いておく必要があるだろう。
「言ったでしょ? あたしはライアンとイニの旅に着いて行くって」
「……さいですか」
思ってたよりもちゃんと回答が返って来たことに驚きつつ。それでも自分のことを笑ったことがなんだか許せなくて、そうぶっきらぼうに答えることしかできなかった。
そんなライアンを、イニはどこか嬉しそうな顔で眺めていた。




