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8 『開始』

 ルチルとレグルスの後について行く。今俺達が歩いているのは街の大きな一本道だ。この道の先――俺達のずっと前には豪奢な城が建っている。何でもこの国の王が住む城らしく、丁度国の真ん中に位置するらしい。


「さっきから一定の間隔で内のギルドと似たような建物があるけど、あれってもしかして――」

「そうだ。他所のギルドだよ」

「て事はシルフィアも」


 という事はシルフィアは既にこの街に来ているのか。ランキング戦以外でも会えるかもしれない。


「残念だけどシルフィアさんのいる『鉄の心』はこの街の担当では無い。もっとより城に近い所にギルドを構えているよ。でも安心しろ、もうすぐ『鉄の心』のある街に着くよ」


 ルチルの説明によると、この『ペーティウス王国』というのは全部で5箇所に別れるという。中心部の王国街とそれを取り囲む城下町が四つだ。その王国街を担当しているギルドの一つが『鉄の心』そして城下町でも一番危険な区域を担当しているのが俺達『鉄血の砦』だ。


 そして俺達は王国街へと足を踏み入れる。王国街の雰囲気は独特で、今までの街と全く違う。煌びやかな装飾が施された家が多く、裏路地などを見ても整っていて綺麗だ。これが城下になると貧民達が潜んでいて怖いし汚い。


「ここはいつ来ても慣れないな」


 ルチルも眉間にしわを寄せていた。正直言って俺もこういう雰囲気はあまり好きでは無い。優雅な礼服を纏った貴族のような人達が、俺達を遠くから眺めていた。彼らは侮辱的な視線を俺達に送ってくる。


「気にするな、貴族は私たちが怖いだけだ」


 ルチルはそう言って誤魔化しているが、そうとは思えない。隣を歩くレグルスが妙に苦しそうな顔をしているのが印象に残った。ルチルはそれを見ていたが、彼に触れる事は無い。暗黙の了解というやつだろう。


 そのまま俺達はしばらく中心部に向かって歩いた。歩いて行くに連れ、豪華絢爛な雰囲気は色濃くなって行く。


「おお、ルチルさん。お久しぶりです」


 そんな中不意に声をかけられた。慌てて後ろを振り向くとそこには五人の男達がいた。声を掛けられるまで全く気がつかなかった。装いからして貴族では無い。貴族では無いのにこの場にいるという事は、騎士。


「久しぶりだなロナウド。新人の教育はしっかりやっているか?」

「ええ、勿論です。今年のはかなり出来が良い。スキルが少し頼りなかったのですが、彼は強くなりますよ」


 ロナウドは連れていた少年の背中を叩く。少年は満足気に笑った。彼らと共にランキング会場まで進んで行く。しばらく歩いた所で、貴族街でも一際目立つ。大きな円形闘技場を見つけた。その入り口に人だかりが出来ている。


 全員騎士ギルドのメンバーだ。ルチルやレグルスは彼らの元まで歩いて行き、笑顔で会話をしている。


「よおルチル! レグルスさん!」


 その中でも、一際目立っていた青年が俺達に声を掛けてきた。そして彼の後ろには――


「久しぶりだねアレン君」


 シルフィアがいた。胸が高鳴る。彼女の顔や、声、果ては美しい銀色の髪。これらをたかだか一ヶ月見なかっただけでここまで恋しく思うとは思わなかった。


「君が例のアレン君か! シルフィアから話は沢山聞いてたぞ、今日は宜しくな! まあ内のシルフィアは負けんがね!」


 俺とシルフィアの雰囲気を、彼はぶち壊す。


「おい、アルミラ。勝つのは内のアレンだ。ランクSは譲らん」


 そんな俺とアルミラの間にルチルは割って入った。ルチルとアルミラはバチバチと火花を散らし睨み合う。


 アルミラ・レイバトン――彼の話はルチルから散々聞いた。『鉄の心』の団長にしてルチルの最大のライバル。茶色い髪を目にかかるくらいまで伸ばしている軽薄な男。だがその実力は本物で、ルチルでも負けた事があるらしい。


 未だにいがみ合っている二人を見て、シルフィアは苦笑い。シルフィアがこちらに目を向けて来たので俺も苦笑い。


 だけどお互い闘志を燃やしている。きっと俺とシルフィアの間にもバチバチと火花が飛んでいる事だろう。少なくとも俺はそういう視線を送っている。


「ふん。今の内に大口を叩いておけ。後で後悔するからな」

「それはこっちのセリフだバーカ」


 ルチルとアルミラはお互い一歩も譲らない。その言い合いの責任を俺とシルフィアが取るという事も考えて欲しい。


「おっとルチル。いがみ合うのもここまでのようだぜ」

「ああ、お出ましだ」


 闘技場の入り口から四、五人の人達が出て来た。青年が先頭に立ち、その後ろには老人がいる。


「彼らは……後ろにいるのが国のお偉いさん。凄いスキルを持ってる癖に戦わない裕福な奴らさ。んで、前にいるのが三大ギルドの一つ――『明日への翼』の団長だ。貴族ギルドだよ」

「それってメンバーが全員貴族――」

「そう。だから桁違いに強いぞ奴らは。俺とルチルがいがみ合ってる理由も分かるだろ?」


 団員全員が貴族のギルド。考えるだけで恐ろしい。だけど、それと肩を並べられる『鉄血の砦』や『鉄の心』の方が恐ろしい。ルチルが本気を出したらいったいどうなるんだろうか。


「全ギルド揃ったようだな。順に中に入って貰おう」


『明日への翼』の団長はマントを翻し、闘技場の中へと戻って行った。それに習って周りの人が進む。


「どうも私はいつまで経っても奴は苦手だ」

「気に食わねえよな」


 ルチルとアルミラはブツブツと文句を垂れながら入り口に生まれた列に並んだ。


 中に入ると二階に通され、観客席に座らされる。暫く待っていると、闘技場にさっきの団長がやって来た。後ろにいた貴族達は既にこの闘技場の最上階にある特等席に座っている。


「今日は記念すべきランキング戦だ。新人達が競い合い己の実力を知る良い機会だ。本日――ここに新たな騎士が誕生する事だろう。英雄に祝福を!!」


 団長は手を天に突き上げ、叫んだ。沸き起こる歓声が俺の身体を震わせる。ここには強いスキルを持った逸材が何人もいる。見極めて、いつかスキルをコピーしてやろう。


「それでは第一試合を始める。『鉄の心』代表と『鉄血の砦』代表は下に降りて来い!!」


 第一試合は俺達らしい。不思議と緊張していない。お互い強くなったとはいえ、戦い慣れたシルフィアとの決闘だからだろうか。


「頑張れよアレン。負けたら……分かってるな?」

「殺されるんだよな」

「良し行って来い!!」


 ルチルに背中を叩かれ、俺は席を立つ。同じようなやり取りをしていたシルフィアも席を立つところだった。お互いの瞳をしっかりと見据える。今回は俺が勝ってやる。己にそう誓う。


 俺達は直ぐ近くに座っていたのに、別々の階段を使って一階へと降りた。闘技場の入り口が目の前にある。俺は持って来た剣を握り締める。


 シルフィアと戦績を並べなくてはならない。俺の負けが一個多くてはいけないんだ。そう心に決め、俺は一歩前へと歩みを進めた。

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