12 『覚悟が決まった』
遡る事数分前――場所は闘技場内部の観客席。
「な、アレンのやつ私の銅像に抱きついて……!」
「あぁシルフィアそっちにアレンはいねえっての!」
観客席は熱気に包まれていた。闘技場のアリーナにある不思議な機械から光が透写され、ホログラムとして映像が流れていた。全部で五つの試合が放送されている。ルチルとアルミラはアレン達の試合に釘付けだ。彼らの行動一つ一つに一喜一憂している。
「やっぱり『鉄の心』と『鉄血の砦』の戦いは見ものだな」
「あいつらまだまだ強くなりそうだよな。惜しい人材を逃したな」
聞こえてくる他のギルドメンバーの声にルチルとアルミラは鼻を高くする。
そこで、二人は同時に気付いた。
「おいアルミラ。あれはシルフィアさんの技か?」
「いいや違うぞ。それにこの魔力――」
彼らの表情が曇る。それはアレン達の試合を映すホログラムに黒い雲が映し出された瞬間の出来事だった。
「「魔族の魔法か?」」
直後――雷鳴が轟き、ホログラムが消えた。見えていた映像が消え、闘技場内は騒めく。
「なんだ今のは」
「エリアからの通信が途絶えたのか?」
他のギルドメンバーはそれぞれの見解を答える。しかし、ルチルやアルミラには確信があった。
ルチルは拳を握りしめ、顔を歪めている。アルミラは額に手を当てて空を見上げていた。
「なあルチル。これどういう事だと思う?」
「知るか。確証は持てないが『魔神の手先』が動き始めたって考えるのが妥当だろうな。私のギルドが三大魔獣に接触したってのがバレたか? 人数不足だから新人を守りきれないと……そう思ってやがるのか」
――――――――――
「なあシルフィア。お前今怖いか」
上空を旋回する黒竜を見上げながら、俺は聞いた。隣でシルフィアは少し考える素振りを見せてから、口を開く。
「怖いよ。でもあの竜がここじゃなくて街に出て行く方がもっと怖い」
「うん。俺もそう思う」
怖い。確かに物凄く怖い。空を舞う黒竜の牙や爪、果ては鱗の一枚一枚から滲み出る邪気が、俺の心に恐怖を植え付ける。
足が震え、今すぐにでも逃げ出したくなってしまう。昔――こんな事があった気がする。それは俺とシルフィアが村で初めて話した日の事だった。
確か7つになるかならないかの頃だ。村の外――森の中で俺はいつもの様に剣を振るっていた。いつも見ていた。山菜を取りひ来る同い年くらいの女の子。それがシルフィアだ。
いつもお互いに見ていた気がする。互いに一人で遊ぶ変な奴だと思い合っていた。そんな生活が続いたある日の事――俺は見てしまった。盗賊達が村を襲おうと森の中に潜んでいるところを。
子どもの頃は盗賊が世界で一番強い様に感じた。そう。まるで今俺があの邪竜に抱いている様な感情だ。足が震え、一歩も動けなかった。
あの時――どうやって村を助けたかは覚えていない。シルフィアと協力して、あいつらを撃退した事だけが記憶として残っていた。あの日からシルフィアは剣に魅了され、俺はシルフィアに魅了された。
なら今回は逆にしてやろう。
俺は拳を握りしめる。隣には彼女がいた。昔を思い出す。不思議と震えは止まっていた。あの日の様に二人で協力すればなんとかなるんじゃないかと、そんな考えが頭に浮かぶ。
「最後まで足掻こう」
「もちろん。あいつを倒してここから出るためにね」
こんなところで終わっていられない。震えていられない。シルフィアが住む街にあんな邪竜を――魔族を行かせるわけには行かない。
覚悟が決まった。死ぬつもりなんてない。無傷で帰る。
真上にいる邪竜を見据える。隣にいるシルフィアも同じ様に空を仰いでいた。
彼女が何を想っていのか分からない。でも、一つだけ共通する想いが確かにある。この街を守る。互いが住むこの街を。大切な人がいるこの街を。
「じゃあ行こうか」
「そうだねアレン君」




