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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
現実的なハーレムの終わり方
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健全な関係への戻り方

「少しは貴方も教養を身に着けるべきよ。でも何事もステップアップが重要だわ。まずは不良の出ない漫画を読むことからスタートしてはどうかしら」

「偏見だろそれ……別に『!?』を多用する漫画ばかり読んでるわけじゃねーぞ……」

「!?」


 意味不明なアドバイスをするために別のクラスに来る彼女を眺めながら、このカップルうぜえな……と脳内で爆発する呪いをかける。教室で惚気る? カップルがこれほどまでにうざいものだとは思わなかった。今まで俺とロコはこんな茶番をクラスの皆にお届けしていたのかと思うと何だか申し訳なくなってしまう。


「ロコ、これからはもう少し落ち着いた付き合いをしような」

「急にどうしたのさ……」


 放課後、ロコと共に歩いて帰りながら学生カップルの正しい付き合い方を説くが困惑されてしまう。そもそも俺達は別に教室でガンガン惚気るタイプでも無かったなと反省。家の前で彼女と別れて我が家に入ると、ラスボス……ではなく四重がリビングのソファーで教科書を眺めながら頭に?を浮かべていた。


「あ、お兄ちゃん。宿題教えて?」

「お兄ちゃんは一年前の授業を覚えているほど記憶容量が無いんだ」


 例え馬鹿でも優しい兄でいたいから、隣に座って一緒に悪戦苦闘してやる。そんな中、四重が寂しそうにポツリと呟いた。


「最近、皆遊びに来なくなったね」

「まぁ、なかなか都合がな」

「やっぱり一緒の学校じゃないとダメかぁ……ま、私はお兄ちゃんと一緒の家だからいいか」


 二人がかりで問題と睨めっこしても三人寄らなければ効果は無いのか、『明日友達のを写す』と問題発言をかましながら四重が部屋へと戻っていく。取り残された俺は頭を抱えた。あの二人はうまくいった。ご都合主義だと笑われてもいい、俺のやった方法は間違っていなかったと胸を張って言える。けれども四重はどうすればいい。どう向き合えばいい。気の合いそうな男友達を紹介するなんて手が通じるのは二度で限界だ。そもそも俺と四重は一緒に暮らしてるんだ。両親に反発してまで貫いた愛を壊して、これから俺はどうやって彼女と接していけばいいんだ。


「……皆水草さんカップルの方が先にヤると賭けてるけどね、私から言わせて貰えばそれは素人考えだよ。思うにオタクってのはね、やっぱり二次元の世界でチョメチョメしてようと、リアルの恋には理想を抱くっていうか、割とムードとかを大事にするタイプだと思うんだよね。まあ見てなよ。一ヶ月後にはケースケが真っ赤になって教室に入ってきて『女って……柔らかいんだな……』とか言い出してクラス中にドン引きされるからさ。……聞いてる?」


 翌日の登校中。『最近結成された二つのカップルのうち、どちらが先にヤるかについてクラスの女子で賭けをしている』なんてあまり聞きたくなかったガールズトークの内容をペラペラと喋るロコ。その表情からは今後の不安や心配なんて全く読み取れない。彼女はひょっとしたら妹と別れるのが一番簡単だと思っているのかもしれない。だってそれが当たり前の関係だから。だとしたら分かっていない。俺がどんなに昨日の布団の中で悩んだと思っているのか。


「……二人なら、付き合えるかなぁ」


 彼女の話題を遮って呟く。四人は無理だった。体力的にも、精神的にも限界だった。趣味も性格もバラバラな女の子達を波風立てずに同時に愛することは、情熱を追い続けるだけの少年には無理だった。だが二人なら。気の合うロコと、可愛い妹なら。イケるんじゃないか。既に二人別れた状態でこんな事を考えてしまうのは失礼な話か、それとも男の、人の性か。


「君と四重ちゃんがそれでいいなら好きにすればいいさ。男に惚れた女ってのは、愛人が一人いようがそれが実の妹だろうが気にせずに大和撫子を演じるのさ」


 そんな俺の何度目かの敗北宣言とも言える情けないヘタれ発言を、優しい顔で受け止めるロコ。内心怒り狂っているかもしれないが、俺も弱い人間だ、虚勢だとしても甘えさせて貰おうと、ありがとうとだけ呟いて、その日の夜、四重と二人でリビングでテレビを眺めている最中に切り出した。



「実はさ、水草さんと神狩さんとは別れたんだ」

「えっ」

「流石に四人同時ってのは、俺もきつくてさ。あの二人も『今まで恋愛を敬遠してたけどしてみたら意外と面白いから普通に男作るわ』的な感じになって」


 他の彼女と別れた、なんて普通に言ってしまえば、いや、そもそもがおかしいセリフなのだが、『つまり私とも別れるってことだよね』という反応をされてしまうのが自然な流れだ。だから本人達がもうこの家に来ないであろうことを悪用し、勝手に別れた経緯の捏造を行う。俺達の幸せな恋人生活の維持のためだ、甘んじて悪名を被ってくれたまえ。


「そうなんだ。寂しくなるね」

「そうだな。だが、これからはその分お前に構ってやるからな。土曜日、街に行かないか」

「うん」


 いいんだ。これでいいんだ。四人と付き合って最終的に二人になるなんて、中途半端な終わり方だとしても。現実とは、ダラダラと続くものなのだ。そう自分に言い聞かせ、週末に妹と共に都会へ向かう。改札を抜けるなり、俺のダメージジーンズと言い張るにはちょっとダサいかもしれない、膝に穴が開いたジーパンをジロジロ眺める彼女。


「お兄ちゃん、そのズボンそろそろ古いんじゃない? いい機会だし新しいの買ったら?」


 駅前で人もそれなりにいるというのに、平然とお兄ちゃんと呼ぶ彼女。それを聞いた周囲の人達はどう思っているだろうか。『近所の年下の子と付き合ってるのかな』『そういうプレイなんだろうか』と月並な想像力を働かせているのだろうか。否、俺達は実の兄妹である。世間の奇異な目に打ち勝った二人がいかに自然で美しいカップルかを、連中に少しだけしか表現することができないのは残念でならない。


「そうだな……ああ、そういえば駅前にジーパンの店あったな。あそこにするか」

「あそこはダメだよお兄ちゃん、専門店だよ」

「専門店ならジーパンしか売ってないんだしコストダウンが可能だろ」

「ブランド物だから高いんだよ。店員に言われるままに試着して、値段見たらびっくりするよ」


 服の専門店を牛丼しか売っていない牛丼屋と同じように考えている馬鹿な男を咎めながら、誰でも知っているようなチェーン店を指さす彼女。やはり男と女は一緒にいないとうまくいかないな、と恋愛の素晴らしさを実感しながらデートを堪能する。服を買ったり、ご飯を食べたり、平凡ながらも、一緒に何かをしているだけで幸せと感じるような日常がこれからも続くのだ。


「うんうん、やっぱりズボンはピシっとした方がカッコいいよ。ダメージジーンズがカッコいいと思ってるのなんて男だけだよ。ささ、デートはまだ終わってないよ、座って座って」


 家に戻るが同じ家に暮らす二人からしてみれば、常にデートをしているようなものだ。言われるがままに買ってしまってお小遣いに大ダメージを与えてしまった服に着替えてリビングで妹の賞賛を受けた後、ポンポンと叩かれたソファーに座る。ニコニコと笑顔を浮かべていた彼女の瞳には、薄っすらと涙が流れていた。


「……お兄ちゃんは、嘘が下手だよね。限界感じて、別れた後のケアもして二人と円満に別れたんでしょ。それくらい理解できるよ、馬鹿な妹でも。何年妹やってると思ってるの」

「……」


 簡単に嘘がばれてしまい、恥ずかしさと情けなさで隣にいる彼女を直視することができない俺。どうしていつもこうなんだ。友達を連れてきたと言っても、全員お兄ちゃんの彼女なんだよねと悟られて、今だって別れ方すら悟られる。人は自分が思っているよりも、誰かに見られているものだ。嘘をつくときの癖だとか、自分でも気づかない何かを知られているものだ。彼女は俺より俺に詳しい部分があるのに、俺は彼女より詳しい部分を知らない。だから俺達の関係はうまくいかなかったのだろうか?


「お兄ちゃん優しいもんね。私を捨てることができなかったんだよね。でも、駄目だよ。シスコンは卒業しなきゃ」

「ロコは別に構わないって言ってるし、俺だってロコと四重の二人なら問題ない。お前さえよければ」

「じゃあ私から言うね。私、ブラコン卒業するよ。お兄ちゃん大好き一緒にデートするなんてもうおしまい。だからお兄ちゃんも、妹のためだなんて予防線、もう張っちゃだめだよ」


 全てを察して俺から離れようとする彼女を引き留めようとする俺だが、それはロコとも四重ともいちゃいちゃしたいという、純粋な男の欲望からなのか、一人に戻された彼女がやっていけるのか不安だからなのか、迫りくる罪悪感から逃れているだけなのか、それすらはっきりとわからなかった。自分の気持ちすら安定しない馬鹿な男を諭す彼女。


「私はお兄ちゃんが思っているより弱くないよ。ううん、お兄ちゃんが私を強くしてくれたんだよ。だから私にとってはそれで十分。明日からは私達は普通の兄妹。周りよりは少しだけ仲のいい兄妹。ロコさんを大事にしてね」

「……完敗だよ。そこまではっきりと言われたら、引き止める気も起きないよ。俺が下らない夢に情熱を注いで少年のままでいるうちに、すっかり成長したんだな」

「ふふ、女の子は恋をすると成長するんだよ。ああ、最後に」


 必死で泣くのを堪えながら受け答えをする俺。対照的に既に涙は無く、いい笑顔になっていた四重はこちらに顔を近づけると、ほっぺにそっとキスをした。


「はい、これでおしまい。キスで魔法は解けたってことで。それじゃあね、お兄ちゃん。おやすみ」

「……」


 自分の部屋へと戻っていく彼女を見送りながら、キスをされた頬を手で撫でる。悪い魔法は解けたのか、罪悪感から解放されたからか、赦されたからか、その日はぐっすりと眠ることができた。


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