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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
現実的なハーレムの終わり方
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強引なオタク娘の馴染ませ方

 この日はとても足取りが重かった。とある決断をしたからだ。決断をしたからといってはいそうですかと身体が張り切ってくれるわけもなく、俺の歩みは学校に遅刻しかねない速度に落ちていた。


「本当にいいのかい? 私以外と別れるだなんて」

「いいんだよ、俺はやるだけやったつもりだ、そして自分の限界も知った。リセットするには丁度いい塩梅だ、身勝手な話だけどな」

「君の決意はさておき、私は活発でハイテンションでもなければ、美人でもないし、上目遣いでお兄ちゃんなんて呼べないよ」

「ハーレム作る前から付き添ってくれた幼馴染を平然と捨てていいのはギャルゲーの世界だけだよ」

「そんなもんかねえ」


 ハーレムを作るために尽力した俺であったが、これからの俺はさりげなく彼女達と別れるために尽力する必要がある。全員を集めて『解散!』と言って無理矢理終わらせることも勿論可能だっただろうけど、そんなふざけた終わり方は誰も許さない。せめて最後にいい思い出を作って別れたい、というのは男の身勝手な思考だろうか。そうこうしているうちに学校へとたどり着く。


「おはようございます大丈夫ですか顔色が悪いですよ保健室で寝ていた方がいいんじゃないですかあでも駄目ですよ4時間目は私が保健室に行きますからソシャゲのイベントやらないといけないんです仮にも恋人が一緒に保健室で寝てるなんてバレたら停学止む無しですよ」

「仮にも学生がソシャゲのイベントのために仮病使ったら停学止む無しだよ」


 俺を見るなり笑顔で挨拶して心配しつつ問題発言をかます水草さん。最初のターゲットは彼女である。同じクラスの彼女から片をつけて、次は別のクラスの神狩さん、学校の違う四重と順に攻略、ではなく破局させていく。夏休みに俺が倒れてから、皆気遣ってくれているのかデートやらの頻度は自然と少なくなっている今がチャンスなのだ。


「そうだ水草さん、放課後にゲームショップ行かない? 積みゲーも大分消化してきてさ、新しいのを買おうかと思ってたんだ」

「それはあれですか挑戦状ですか受けて立ちますよ部屋中をワゴンゲーで埋め尽くしましょう」


 デートの約束を取り付けていつものように授業を受けて、お昼はこれから別れるなんて雰囲気がどこにもないほど平穏な空気の中、皆でご飯を食べて。そして日直が終業の礼をすると同時に、彼女は俺の手を引いてダッシュで教室を飛び出した。



「ここのゲームショップはオススメですよ忘れもしません正月に千円の福袋を買ったらボケステが無いと遊べないゲームしか入っていなかったんですよ今時ボケステなんて遊べるわけないでしょう挙句の果てにはわくわくヒーローズですよ」

「それは酷いね」


 ゲームショップに着くなりぺらぺらと解説をする彼女だが、彼女が何を言っているのか全くわからない。少しは彼女の趣味を理解するために勉強はしたつもりだったが、結局いつもこんな感じでわかっているつもりで相槌を打つことばかり。今になって思えば根本的に合っていなかったのかもしれないとは言い訳でしかないのだろう。


「ギャルゲーとかも買い足すかなぁ……あ、これとか絵柄が好みかな」

「ああそれやめた方がいいですよ最終的に別れちゃうんで後味悪いです」

「……」

「……?」

「あー、それはやめた方がいいね」


 それでもギリギリまで自然を装いたくて、陳列されていた美少女ゲームを手に取るが瞬時に彼女に突っ込みを入れられてしまう。それも最終的に別れるだなんて俺達の今後を暗示している気まずいワードと共に。言葉に詰まってしまい、きょとんと首をかしげる彼女に焦りながらも対応する。二時間に及ぶぎくしゃくしたゲーム漁りを終え、数千円分のゲームを抱えて店を出る俺達。


「ありがとう水草さん。これでしばらくは困らないよ」

「思い出にそれ全部くれませんか?」

「へ?」


 店を出るや否や、強引に俺の抱えていたゲーム袋を奪い取る彼女。そしてそのまま上目遣いで、悲しそうな目をして俺を見つめた。


「私空気読まないキャラであって空気読めないキャラじゃありませんからわかってますよもう負担に感じているんですよねというか7割くらいは私のせいですよね今までありがとうございましたごめんなさい」

「ちょ、ちょっと待てよ!」

「いいんですよ私はそこまでギャルゲ脳じゃありませんからむしろどこかで解散みたいな流れになるんだろうなとは思っていましたから明日からはただの話しかけるとやかましいクラスメイトAです」


 そのままあまりにもあっけなく、俺がこれからやろうとしていたことを理解して、納得する彼女。言い訳をする間も与えず、謝罪をする間も与えず、そのまま何処へと走り去ってしまう彼女を俺は追うことができなかったし、追ったところで彼女には追い付けないのだった。




「……」


 俺の前から去ってしまった彼女に二度と会えないなんてことは勿論ない。翌日になれば、学校に行けば、当たり前のように彼女は自分の机に座って本を読んでいた。昨日の流れは、彼女の方から察して別れを告げた、ということなのだろう。彼女の言う通り俺達は今やただのクラスメイトの関係でしかないということなのだろう。いやぁ察しのいい彼女で助かった、さあ次は神狩さんだ、と切り替えることができるほど、俺は図太い人間ではない。こんな終わり方、俺は望んでいない。時間だけが流れて、お昼の時間になる。いつも皆で食事を楽しむ場所に、彼女はやって来なかった。


「あら、うるさい子はどうしたの」

「何かソシャゲのイベントに集中したいらしくてカロリンメイト片手に走っていったよ。しばらくは来ないみたい」

「何しに学校に来ているのかしらね……?」


 彼女の姿がいないことに疑問を抱く神狩さんに適当に考えた理由を述べる。当の本人なら今頃教室でクラスメイトがワイワイガヤガヤしながらお弁当を食べている中、一人で机に座ってスマホ片手に食事を楽しんでいることだろう。昼食を終えて神狩さんと別れ、自分のクラスに戻る途中ロコが口を開く。


「その表情だと、円満に別れることが出来なかったって感じ?」

「ああそうだよ! 関係は確かに清算したけど! だからって全てが元に戻るなんてあってたまるかよ! せめて、せめて何か、彼女のためになるようなことをしなくちゃ……」


 彼女の問い掛けに、悔しさからキレながら返答する俺。そして何かしなければと思い立った俺は、教室に戻ると恋人なんていりません友達なんていりませんとばかりに鼻歌混じりにスマホをポチポチしていた彼女の机をバンと叩いた。


「クラスに馴染もう! 水草さん!」

「は?」


 彼女に必要なものの本質は恋人ではなく、むしろ趣味の合う友人だ。恋人関係を築き続けることができなかった罪は、彼女の友達作りを手伝おうだなんていう、大昔にロコに笑われた作戦で清算する。そんな俺の決意であったが、コンマ1秒で鼻で笑われてしまった。


「俺と付き合ってわかっただろう、水草さんはやればできる子なんだ、その気になればオタサーの姫になれるんだ」

「オタサーの姫にはあんまりなりたくないですねというか過大評価しすぎですよ蛟さんが菩薩のように寛大な心をもしくは形だけでもハーレムを作りたいだなんていう野望を持っていたから私の相手が出来ただけですよ」

「だったら練習しよう。正直に言うと、最初は自分に依存して欲しくて対人能力を上げさせようとしなかったんだ。けれど水草さんのいう通りもうただのクラスメイトの関係なら、孤独な少女をクラスに馴染ませるために奮闘するカッコいいクラスメイトがいたっていいだろう?」

「元カレにコミュニケーションの練習相手になってもらうってのはどうにもだらだらしてて気が引けますね」

「それなら……おいロゼッタ、ちょっとこっち来い」


 友達を作りたい、対人能力をどうにかしたいという思いはあるようだが俺の厄介にはなりたくないらしい彼女。だったら丁度いい相手がいると、あいつら何やってんだとばかりに呆れた目でこっちを見ていたロゼッタを呼び寄せた。


「俺? 何、唐突に、ドッタノ」

「彼女のコミュ力を鍛えるのを手伝ってやれ。お前も発音滅茶苦茶だったり意味不明なスラング言ったり、お世辞にもまともに喋ってるとは言い難いだろう、一石二鳥だな」

「エー……ヨーするに飽きたからこいつやるわ、後よろしくなってコト? 確かに昔、飽きたら回してくれヨナーとは言ったけど、流石にそれは酷いヨー、俺水草さんの事ほとんど知らないし、相性いいとは思えないシ」

「そうですよ確かにハーフだし中二心はくすぐりますがこの人ヤンキーですよね金とか暴力とか言ってそうですよね私みたいなオタクの敵ですよ」


 友人として、恋人としてこの二人と接してきた俺としては、テンションがおかしい同士うまく行くんじゃないかと思っていたのだが、当の二人はお互いをあまり知らないこともあり賛同してはくれない。仕方がない、仲人になろうじゃないかと、記憶を手繰って二人に共通する趣味が無いかと思い出す。そして出た答えが、


「水草さん、鬼畜ゲーに最近興味が湧いたんだけどオススメある?」

「もー年頃ですねえ私のオススメはとわおつでしょうか最初ははじおつを買おうと思ったんですけど間違えてこれ買っちゃったんですよねそれでやってみたらグロくてビビりましたけど気づいたら最後までやってました今思えばそもそもはじおつみたいなゲームを買おうとしたのも小さな女の子とチョメチョメするなんていう背徳心を味わいたかったのかもしれませんねそう考えると小さな女の子をぐちょぐちょするゲームでも興奮するというのは至極当然なのかもしれません」


 アダルトゲームの話を彼女にさせて親近感を持たせるという鬼畜の所業であった。男は皆エロが好き。特にハーフのロゼッタは洋モノだったりと過激なジャンルも嗜んでいる。彼女の止められないパトスを受け止めるのはまさしく彼が相応しいはずなのだ。満足そうに言い終えた彼女は我に返ってきょろきょろと辺りを見渡し、がばっと机に突っ伏した。


「うええんもう教室にいられません責任とってくださいよ退学しますよ飛び降りますよ」

「大丈夫だよ、男子の好感度は上がったし女子はそもそも何言ってるかわかってないよ」

「……何か話が合いそうな気がしてキタ! ステーィプのゲームとかやってル?」

「やりますよええやりますともよくわからない洋ゲー買って2時間くらい延々とゾンビを狩ってクソゲーだって叫びながらゴミ箱にポイしますよ」

「あーわかるヨあそこは魔窟だもんねよかったらセールで買ったゴミみたいなゲームあげるよ」


 茹蛸のようになった彼女に、親近感を覚えて饒舌に話しかけるロゼッタ。この流れならすぐに仲良くなってくれるだろうと確信する俺。何だこの酷いオチはとでも言わんばかりの視線をため息をつきながら送る、傍観者のロコとケースケであった。



「おはよう、ございます」

「! み、水草さんの喋りに間が入っただと!?」

「酷いですねここ数日、ロゼッタさんと心行くまで語り合ったら喉が枯れたんですよ蛟さんみたいに相槌するだけじゃないからついつい喋りすぎました」

「いいじゃないか、その感覚を大事にするんだ」

「俺の方が重症だヨ……」

「ロゼッタも少しは発音マシになったんじゃないか?」

「疲れてテンションが下がってるからネ……そうそう、女子高生とエロゲの話がしたいなんていう馬鹿なナードはクラスに何人かいたらしいよ、名前は伏せるけどネ」


 数日後。少しではあるがマシな喋りになった二人を前に勝手に感動してやり切った感を出す俺。到底真っ当な交友関係とは言えないが、これで彼女の今後の学園生活も充実したものになるだろうと、胸のつかえが取れるのであった。




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