メリーゴーラウンドの回り方
「お兄ちゃーん、遊びに行こうよー」
夏休みも7割を過ぎていい加減宿題もしないとなと焦る頃、リビングでテレビを見る俺の肩を横にいる妹が揺さぶる。夏休みが始まった頃のデートなんて別に執着していないと言っていた彼女は一体どこへ行ったのか、一度デートに行ってしまえばこうやって暇なら遊びに行こうと強請ってくる始末。馴れ馴れしい妹も可愛いが、ツンツンした妹もたまには見たいぞお兄ちゃんは。
「そうだな。何のためのハーレムだ。よし、皆で遊園地に行こう」
「遊園地! いいね、ナタリイ? クレポ?」
「わざと言ってるだろ……」
SNSで他の子達に皆で遊園地に行かないかと誘いをかけると、『懐かしいなあオージー村』だの『みかん食べてついでに尾道ラーメン食べましょう』だの果ては『空いてる店で買い物もできるしいいわね』だの、ふざけた答えが返ってくる。『弥勒菩薩に会いに行くぞ』と消去法で行き先を決め、数日後に久々に皆が集まった。
「デートの定番とはいえ、この年になるとどうにも遊園地でテンションがあがらないわね。弥勒菩薩だし」
「しかも私と猫狩さんは既に行ってますし」
集合した後、目的地である復山へ向かうために電車に乗る。その途中、窓の外を見ながらポツリと神狩さんが呟いた。もっと都会なら大人でも楽しめそうな遊園地があるかもしれないが、残念ながら俺達の住んでいる県には遊園地らしい遊園地は他県との境目あたりに1つあるくらいだ。
「今からでも遅くないよ、青春切符買って遠出しよう。あれ確か5人まで使えたし」
「でも有名な遊園地は混んでますよ遠出して大して遊べなかったらがっかりですよその点弥勒菩薩は微妙に過疎で県内から遊園地が消える日も近いですね」
都会にある有名な遊園地に行こうと提案するロコと悲しい正論を吐く水草さん。折角有名な遊園地に行っても、アトラクションに1時間も待つなんて遊びたい盛りの俺達には地獄というものだ。俺達は現実的なハーレムなのだ、現実的に遊園地を楽しむべきだ。
「そうそう、こういうのは好きな人と行くとどこだって楽しいもんだよ」
「お前よくそんな恥ずかしい台詞言えるな」
そして惚気る四重。一番そんな台詞を吐くべきではない人にそんな事を言われると、背徳的な何かや情熱的な何かが燃え上がってくるというものだ。ともあれ電車に揺られることしばらく、県内二番目の都市なのに存在感の薄い場所に佇む遊園地へとやってきた。
「うーん、この中途半端な空き具合。やっぱり弥勒菩薩はこうでなくっちゃ」
「できるだけ多くのアトラクションに乗るためにまずは並び時間を計算しましょう」
「弥勒菩薩VS金剛力士これは見るしかありませんねうわあとっくに完結してるのに猫夜叉ともコラボしてるんですね懐かしいです」
「お土産屋で平然ともみじ餅売ってる……」
園内に入るとバラバラな感想を抱く彼女達。嫌われないために女の子に合わせるだけの恋愛はもう古い、時に男にはグイグイと引っ張っていく強引さが必要なのだ。
「5人一緒に乗れそうなアトラクションと言えば……フリーフォールだな。行くぞ、ついてこい」
「またフリーフォールか……いいよ、やってやろうじゃないの」
「実は高いの苦手なのよね。ゲロインにならないといいのだけど」
「私も成長したんです今の私は暇泉君くらい強靭なメンタルを持っています」
「最後にこういうの乗ったのいつだったかな……」
フリーフォール。席に座って上昇して落下するだけのシンプルな、ジェットコースターにおける醍醐味を濃縮したような代物。そしてジェットコースターと違ってそこまで場所を取らないので、横に5人くらい乗れる構造にしやすいというわけだ。目論見通り横に丁度5人乗れるフリーフォールの真ん中に陣取り、横に彼女達を侍らせて、ドキドキを味わうためにゆっくりと昇り始める。これが終わった時、彼女達はいい感じに心臓がバクバクして吊り橋効果でなんか凄いことになっているだろう、そして全く動じていない俺の鋼の心臓に惚れ直すことだろう。心の中で高笑いしながら、落ちる瞬間を待つのだった。
「あ、やばい、これ吐くかも、ちょっとトイレ行ってくる」
「うわ」
「情けない男ね」
「わかってないですねギャップ萌えってやつですよ」
「お兄ちゃん昔からヘタレなとこあったからね……」
現実はなかなかうまく行かない。そういえば昔家族でナタリイに行った時も、修学旅行でハンステンボスに行った時も、ジェットコースターに乗った後にフラフラしていた記憶がある。以前ロコと水草さんと来た時は絶叫系に乗っていなかったからすっかり忘れていた。かつての俺なら女の子の前ではカッコつけようと必死に耐えていたかもしれないが、それをしなかったのは彼女達との愛が本物であるからなのだろうと前向きに考え、トイレで必要無くなった鋼の心を吐き出して戻ると、彼女達の回りには男が数人。男だけで遊んでいる悲しいグループが、同じように女だけで遊んでいると思ってナンパしに来たのだろう。さてさて、どうやって撒けばいいやらと悩みながら近づくが、普通に断ったらしく俺が到着する頃には男共はターゲットを別の女性に変えていた。
「あらら、どっか行っちゃった。折角全員彼女なんだぜって言ってやりたかったのに」
「おかえり。何を馬鹿なことを。信じて貰えるわけないでしょ」
「無難に撒けるなら無難に撒くべきよ。それとも自慢するのが目的なのかしら?」
「……そうだな、悪い悪い。うし、次はお前らの行きたいとこに行こう」
あの時は両方俺の彼女だなんて言うことができなくて悔しかったが、今となってはそんな下らないアピールをする必要なんて無かったな、と悟る。俺達が幸せなら、納得しているのなら、それでいいのだ。その後は各々の希望を叶えるべく、お化け屋敷に行ったり、ヒーローショーを見たりとそれなりに遊園地を満喫し、日も暮れて来た頃最後に何に乗るかで揉め始める。
「観覧車でしょやっぱり。あ、スケルトンは無しね」
「アトラクションに乗るなんて素人の考えよ。ここはパレードを楽しむべきだわ」
「こんなしょうもない遊園地のパレード見たって楽しめないですよまだ弥勒菩薩博物館に行った方がマシですというかそこに行きましょう観覧車もパレードも他の遊園地で見れますけど弥勒菩薩博物館はここしかありませんから」
「ここはじっくりお土産を見るのもいいんじゃない?」
無難に観覧車を提案するロコ、パレードがいいと言う神狩さん、弥勒菩薩博物館とかいう意味不明な展示を見たがる水草さん、アトラクションどころかお土産の話をし始める四重。盛り上がっているところ悪いが、俺は最後に乗りたいと思っていたアトラクションが決まっている。男と女とは対等であるべきだ、彼女達の希望を叶えてやったのだ、俺の希望も叶うべきだ。
「メリーゴーラウンドに乗ろう。久々に乗りたくなったが、一人じゃ流石にな」
「……ちょっとそれは恥ずかしいかな……」
「以前コーヒーカップに行った時ですら恥ずかしくて顔から火が出そうだったのにメリーゴーラウンドとは茹蛸になってしまいます」
「痛々しい集団としてネットに晒されてもおかしくないわね」
「しかもメリーゴーラウ
ンドだと一緒に乗れないから恋人感皆無だよ?」
メリーゴーラウンド。馬に乗ってくるくる回るアレ。カップルで乗ることで恥ずかしさを軽減できるコーヒーカップと違い、実質一人で戦うしか無い暴れ馬。目を輝かせて乗る幼女、その近くで恥ずかしそうに座りながらも微笑ましく子供を眺める親、そんなほんわかした空間に乗り込む勇気は一人では出ないが、皆とならきっと出る。俺達のブレイブとラブはパレードよりもエクスタシーなんだ、愛は無敵なんだと証明してやろうぜと皆を説得し、意気揚々と乗り込むのだった。
「特に引かれたり笑われたりしなかったね。乗ってみたらそんなに恥ずかしくなかったね」
「よくよく考えたら女の子だけで来てる集団とか結構乗るイメージとかありますし男が乗っても誰かの彼氏なんだろうとか思われて別に不思議でもなんでもありませんよね」
「皆が思っているほど、人は他人に興味を持たないのよ」
「大丈夫だよお兄ちゃん、お兄ちゃんの勇気は伝わったよ!」
結果としては別にギャラリーが『何て勇気のある漢なんだ……!』と騒ぐこともなく、乗ってみたら恥ずかしいどころか意外と面白かったな、俺もまだまだ少年の心を忘れていないんだなと悟るような中途半端な結末になった訳だが、大事なことは彼女達と皆で遊んだ、それだけだ。定期的な自分への言い訳を欠かさずに終えると、次は何する? なんて今後の輝かしい未来へと繋げるためのジャブをかますのだった。
ナタリイ……ナタリー。今は大手スーパーに。
クレポ……呉ポートピアランド。今は公園に。
オージー村……ニュージーランド村。行った時はニュージーランドとオーストラリアの違いがわからなかった。
みかん食べてついでに尾道ラーメン食べましょう……シトラスパーク瀬戸田。柑橘類をたくさん集めていた。帰りに食べた尾道ラーメンが美味しかった。
空いてる店で買い物もできるしいいわね……マリーナホップ。致命的に立地が悪い。遊園地もどきもある。
弥勒菩薩……みろくの里。ずっと山口県にあると思っていた。




