ノリノリな妹とのデートの仕方
「……ねえお兄ちゃん」
「うん?」
夏休みもそれなりに過ぎたこの日、暑いからと買ってきたばかりの7本入りのアイスをテレビを見ながらパクパクと食べて、最後の1本をどちらが食べるかで揉めた挙句、『よく考えたらこれダブルソーダじゃん!』と衝撃の事実に気づき仲良く分けて、3.5本のアイスを満喫したところで四重が少し不満そうに俺を見つめてきた。
「何か、言うべきことがあるんじゃない?」
「ああ、ごめん。あの場はアイスを譲るべきだったね」
「そうじゃなくて!」
暑いからついつい俺も食い意地を張ってしまった。喧嘩になったら悪くなくても男が折れる、それがモテる男の必須条件だというのに、相手が妹だからとその精神を忘れていた。親しき仲にも礼儀ありという諺を脳内で反芻させながら謝るが、どうやら怒っていたのはまた別の件らしい。
「何でデートに誘ってくれないの」
「は?」
「もうロコさんとは3回もデートしてるよね」
「ちょい待ち? お前、自分の発言覚えてるか?」
私もハーレムの一員なのに何でデートに誘ってくれないのと憤る妹だが、俺は覚えている、夏休み序盤に彼女がデートに固執するタイプじゃないとかお兄ちゃんと一緒に過ごせるだけで満足だとか言っていたことを。俺の渾身のギャグに真顔で返してテレビのリモコンを取ったあの態度を。買ったばかりの手がびよーんと伸びるアレくらいの粘着質を発揮させながらその事について問い詰めるが、ますます彼女は怒り始めるばかり。
「そんなの照れ隠しじゃないの!?」
「何でお前が疑問形なんだよ、自分の気持ちもわかってないのに怒り狂うなよ」
「とにかく暇なら出かけようよ。明日ね。午前9時ね。市の駅前ね」
「はいはい」
一方的に時間と場所を指定して、アイスを食べすぎたのか頭を抱えながら部屋に戻っていく四重を見送りながら、これが女性特有と言われるヒスか……と理解を深めたのか誤解したのかよくわからない結論に至る。気だるげに返事はしたが、やるからには素晴らしいデートにするつもりだ。プランを立てて、明日着る服を選んで、妹モノの漫画を読んで、ギャルゲーで妹キャラを攻略して、でもこれ妹キャラであって妹じゃないからなぁなんて布団の中で悩んでいるうちに眠たくなって、気づいたら朝になっていた。目覚ましをかけていなかったので結構ギリギリな時間になり、ちょっとだけハネている髪を押さえながら待ち合わせ場所へと向かう。お約束の『ごめ~ん、待ったー?』『今来たとこだよー』というやり取りをしようとした時にロコはキレていたが、四重なら照れながら受け入れてくれるに違いないと10分前くらいに到着して、実の妹相手にそわそわしながら待つこと20分。一向に妹がやってこないのでひょっとして駅の北口と南口を間違えたのかと焦ってSNSを送ると、後ろから妹の声がする。
「……ふざけてるのおに……ヒドラ」
「うおっ!? お前いたのか!?」
「いたよずっと! おに、ヒドラが来る前から! 声かけてくるの待ってたのに」
「いや、その見た目で気づいて欲しいってのは、流石に傲慢だと思うぞ。ふざけてるのかいも……四重」
振り返るとそこにいたのは妹らしき女性。妹らしきと評したのには理由がある。服は普段のイメージとそぐわない、夏らしくもない黒くて薄いコートだし、髪型も唐突にツインテールに束ねだすし、サングラスまでかけているし、面影が全然ない。俺が来た時には既に彼女は駅前に確かにいたが、岩とか撃ってる女の子のコスプレかなと思って無視していたのだ。
「ふざけてないよ。これにはちゃんとした理由があるの」
「夏の暑さで頭がおかしくなったんだな、さぁ、かき氷でも食べにいこうか」
「スルーしないでよ、実の兄妹でデートとか、友達とか知り合いに見られたら、まずいじゃん……初めてデートした時、近所のおばさんに見られただけで私心臓バクバクだったのに」
彼女の言うことも一理ある。何とか解説した妹のいじめ問題ではあるが、実際に兄妹でデートしているところを彼女の学友に見られたら、『やっぱり蛟さんってヤバイ人なんじゃ……』と再び株を下げてしまうかもしれない。しかしそもそも前回の時のように、デートではなくてプレゼント探しに付き合ってるだけとか言い訳をすればいいだけの話なのだが、『自分の気持ちに嘘をついて、デートなんてしてないなんて言うのは辛いから』と乙女チックなのかよくわからない返答をされてしまい、まぁそれならしょうがないかと芸能人みたいな格好の妹とデートをすることに。
「まずは喫茶店で何か飲もうよ。ほら、こないだオープンしたばかりの有名な店」
早速俺の手を取って近くの喫茶店に向かう四重。見た目が若干怪しい女の子が男の手を取ってどこかに向かう様は、屋敷が退屈だからと抜け出したお嬢様とその執事のように見えるのだろうかと、周囲の少し怪訝な視線に口元を緩ませているうちに目的地に到着するが、喫茶店は10時からのオープンな上に開店前から行列が出来ていた。
「ありゃりゃ。仕方がない、少し待つか。行列ができるくらいだ、相当美味いんだろうよ」
「タイムイズマネーだよ、この暑い中並んでまで飲む価値があると思う? 10時にオープンするサービス精神のない喫茶店に!? 自販機のジュースで上等だよ、映画を見にいこう映画を」
混み具合を把握できなかった負け惜しみか、その場で地団駄を踏みながら、盛大にお店をディスりながら我先にと映画館がある方へ早歩きで逃げていく四重。困ったお嬢様だ、と並んで歩き、この夏何度目かの映画館へ。
「この映画は?」
「友達と見た。あ、これ面白そう」
「悪い、これ神狩さんと見たわ。これとかどうよ」
「それも友達と見ちゃった」
「お前結構遊んでるな!?」
お互いデートのし過ぎで、友達との遊びすぎで目ぼしい映画を制覇してしまい、見たこともないアニメ映画を見る羽目に。『微妙だったね、原作見てみる?』『いや、私はいい……』なんていう悲しい感想を言い合い、とりあえず飯でも食うかと希望を聞くと、険しい表情をし始める。
「……やっぱりあの喫茶店行きたい……」
「んじゃ行くか」
「いや、でも混んでるし……多分朝来た時よりも行列増えてるし……貴重なデートの時間を無駄にしたくないし……」
「何言ってるんだ、七夕はとっくに終わったぞ。別に今日しかチャンスがない訳でもないだろ」
俺とのデートの時間をそんな風に大切に考えてくれていることに感動しながらも、朝とは逆に彼女の手を取って喫茶店に向かう。予想通り朝の頃よりも行列が増えており、お店に入るのに2時間も消費してしまう。まだまだ後に並んでいるため長居する訳にも行かず、コーヒーだけ飲んで退散し、結局近くのファミレスに向かって飯を食べる。
「は~、人生うまく行かないね。あのお店も2時間待った割には微妙だったし」
「若いうちから何言ってんだ。そのうちミーハーな連中もいなくなって並ばなくても入れるようになるだろ、その時ゆっくり楽しもうぜ」
「わかってないなぁヒドラは。行列があるからこそ価値があるんだよ。マリポーサ効果? ってやつだよ」
「難しい言葉を使いたがる年頃か……この後どうするよ?」
行列に時間を食われはしたが、時計を見ればまだ15時。まだまだ余裕でデートを楽しめるというものだ。俺の問いかけに、四重はやたらと申し訳なさそうな表情を見せる。
「……ごめん、もう帰ろう。なんか凄い疲れちゃった。うん、今日しか無いわけじゃないもんね。それに……」
「それに?」
この服装恥ずかしいし暑い、とポツリと彼女が漏らすと同時に、俺は机をバンバンと叩いて笑ってしまう。顔を真っ赤にして怒り狂う彼女に次は変装せずにちゃんとしたデートをしようなとニヤつきながら、食べていたパフェをスプーンで掬って彼女の口元に差し出す。戸惑いながらも意を決してそれにパクつく彼女が見れたのだ、今日のデートは大成功と言っていいだろう。




