非日常な環境への慣れ方
妹がハーレムに加わったからと言って、ハーレムが完成したからと言って、俺達の日常が劇的に変わるわけではない。妹とは学校が違うから学校での面子は変わらないし、ハーレムにいる前から妹は家族なので家では一緒なのだ。
「あ、お兄ちゃんおはよ……」
この日、俺が目覚めてリビングに降りると、あくびをしながら四重がパンをかじっていた。妹だからって、ハーレムの一員だからって、毎朝俺の部屋に来て起こしてくれるなんてことはないし俺のために朝食やお弁当を作ってくれるなんてこともない。幼馴染だって同じだ。きっと今頃は自分の家で、ゲラゲラ笑いながらテレビを見ていることだろう。
「……」
「……」
今日は両親は既に仕事に出かけており、俺達は無言でテレビのニュースを見ながら朝食を採る。仲が良いからって、常に会話をすると思ったら大間違い。食事やテレビといった、自分の世界に引きこもる権利をお互いが尊重している証拠だ。
「あ、そろそろ私学校に行くね。ちゃんと出る時に鍵は閉めてね」
「俺より抜けてるお前に言われるのはなんかモヤっとするな……まあいいか、いってら」
学校が俺より遠い四重は俺より先に学校へ出かける必要がある。妹に合わせて俺やロコが早めに家を出るという手もあるが、そこまでして一緒に登校しなくても一緒に住んでいるのだ、正妻の余裕ならぬ、幼馴染の余裕ならぬ実妹の余裕なのか、特に気にせずに彼女は一人家を出る。朝食を食べ終えて顔を洗って着替え終わる頃、家のチャイムがピンポンピンポンと連打される。勿論こんなウザいことをするのは彼女しかいない。
「こんにちはー! 蛟君いますかー! ハーレム女子部の猫狩です!」
「うるせえよ、宗教の勧誘かよ」
「カルト宗教みたいなもんでしょ、私達」
「そうかそうか」
ウザくて可愛い、いや、客観的にはスタイルも別によくないし見た目もそんなに可愛くはないけど俺にとっては気の合う恋人と共に学校へ。共に教室に入り、俺は既に来ていたケースケとロゼッタに挨拶し、ロコもまだ交友の残っているクラスメイトの元へ。俺は喋れる相手が彼女達以外にはこの二人しかいないのに、どうしてこいつは交友を保てるのだろう、何股もかけている外道ポジションと、かけられている被害者ポジションの違いなのだろうか、単にこいつの要領の良さなのだろうか。
「で、お前、どうなんだ、実の妹とラブラブチュッチュな生活ってのは」
「気持ち悪いなお前は、別に、健全だよ健全」
「こいつ実は妹モノに興味あるんだってヨ、リアルに姉がいて仲が悪いからその反動で。AVも買ったってヨ、ゲラゲラ」
「て、てめえロゼッタ! 内緒にしろっつっただろが! おい、違うからな、俺が買ったのは義理の妹と恋をするラブコメだからな」
恥ずかしい秘密を暴露されて、俺以上に女子からの評価が酷いことになっているかもしれないケースケを眺めていると、酷い顔つきの水草さんが教室に現れる。ふらふらとおぼつかない足取りで自分の机にカバンを置くと、それを枕にして突っ伏して寝始めた。どうせまた徹夜でゲームかアニメでも楽しんでいたのだろう、そっとしておこう。
「ダメです乙女はこんな体勢じゃ眠れません保健室でかみんぐっすり~ん」
と思いきや10秒でガバっと顔を上げ、保健室で寝るために教室を飛び出ていく。朝礼が始まっても午前の授業が始まっても彼女は教室には姿を見せず、お昼休みになると元気な姿でいけしゃあしゃあと教室に入ってきて、お弁当を持って俺のところへ。
「あーよく寝ましたお腹空きましたご飯食べましょう」
「水草さんは不良だね。俺よりも授業サボる頻度が高いよね」
「オタクも不良も本質的には一緒なんですよ社会に不満を持った弱者なんです喧嘩が強いか弱いかくらいしか違いはないんですよきっとこれでも私は両親よりは遥かにマシですよお母さんは高校中退お父さんはアニメーション専門学校卒業ですからねよくもまあちゃんと就職して子供を産めたものですよ」
「どう返せばいいのかわからないよ。とりあえずご飯食べに行こうか」
お弁当を持ってロコと水草さんと空き教室に向かうと、カップラーメンの前でぼーっとしている神狩さん。いるよね、学校でカップラーメン食べる馬鹿が。
「お湯は?」
「学食のポットよ。割といるわよ、学食でカップラーメン食べてる人」
「アホな男子がすることだよ、女の子のお昼がカップラーメンだなんて」
「ちゃんとお弁当もあるわよ。今日は体育で動き回ってお腹が空いてお弁当だけじゃ足りそうに無かったから、休憩時間中にコンビニでカップ麺を買ってきたのよ。腹具合に合わせて臨機応変に行動する、賢さが漂っているでしょう?」
「カップラーメンの匂いしか漂っていないよ」
カップラーメンの匂いに支配されながらお弁当を皆で食べる。お昼休憩中の会話も今までと特に変わらない。強いて言えばハーレムが完成した事で、次に狙うのはどんな子がいいかなんて、下品な話をしなくなったくらいだ。今までは男の娘がいいだの中二病がいいだの世間知らずのお嬢様がいれば便利だの、自分達の痛さを棚に上げて次に入れるべき痛い女の品定めをしていたのだから笑える話だ。
「ラーメンと言えばこないだ皆で行ったラーメン屋、テレビで紹介されてたなぁ……四重ちゃんも入ったし、また大盛チャレンジしちゃう?」
「また、って貴女と私は大盛頼んでないけど」
「恋人らしい事がしたいですよね全員で超大盛りを頼んでシェアするとかどうでしょう」
「パフェがラーメンになっただけで恋人らしさが壊滅だなおい」
友達が減って、母親と不仲になって、その代わりに彼女が、女友達よりもワンランク上の存在が増えた。非日常に見えて、実際はただそれだけで、平凡な日常なのかもしれない。そんな平凡で幸せな日常を謳歌していたのだが、カップラーメンの汁を全て飲み干した神狩さんが、
「……もうすぐ期末テストね」
そんな幸せをぶち壊すような悪魔の呪文を呟く。そう、もうすぐ夏休み前の期末テスト。時系列的に辻褄が合わない気もするが、俺とロコがハーレムを作ろうと作戦を開始した高校二年生の5月から、2ヵ月くらいしか経っていないのだ。
「よし、夏休みのプランを立てよう」
「さんせ~い」
「今年の夏は満喫しますよ去年までも何だかんだ言って満喫してましたけどね」
そんな悪魔の呪文にバリアを張り、思い思いに最高の夏休みにするための計画を立てる俺達。しかしそんな俺達に、悪魔の第二の呪文が襲い掛かる。
「成績悪かったら補習よ」
「……俺の成績は中の下。故にセーフ」
「私も中の中。問題ない」
「私は中の上ですよ下らない理由で学校を休んだりサボったりしているし勉強できなさそうだと思ったら大間違いです理解力や計算能力は高いんですよだからこうやってペラペラと喋ることができるのですさあサマーバケーションのプランニングを再開しましょう」
幸いにも俺達の中には特別成績が悪い人はいないので大丈夫だとタカをくくるが、ハーレムが出来てからというもの舞い上がりながら遊んでばかりだったということもあり、最終的には不安になってテスト前のお約束、皆で勉強会を提案。学校も学年も違うが頭が悪い四重も加えて、テスト前の土日にファミレスでノートを広げる。
「お兄ちゃんは頭悪いなあ、私は学校では成績がいいんだよ」
「四重の学校は県内屈指の馬鹿学校だろ」
「酷いよお兄ちゃん……」
「神狩さん、ノートコピー取らせてー」
「残念ね、私はあまりノート取らない派なの。本当に頭がいい人はノートを取らないの」
「ああこの色ですよドリンクバーのジュースを全部混ぜた時のこの毒々しい色うーんまずい」
結局雑談ばかりしていまいち捗らなかったが、無事に全員補修を回避して楽しい楽しい夏休みを迎えることができたのであった。




