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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
完成したハーレムの満喫し方
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34/44

アバンチュールの始まり方

「夏いな」

「夏いね」


 勉強会の甲斐あって、無事に皆赤点を回避し、万全の状態で夏休みに突入。夢のようなハーレム生活が俺を待っていると、その時は信じていた。しかし俺は重大な問題を見落としていた。


「学校って大事だったんだな」

「私はそんなに大事でもないけどね」


 学校という共通点があるからこそ、俺達は自然に集まって、自然に遊べたのだ。夏休みとなった今、俺の溢れるパッションにいつでも付き合ってくれるのは妹と幼馴染くらいなもの。その妹も暑さのせいでだらけきっており、毎日だらだらとアイスを食べながらテレビを見るだけの日常を謳歌して満足してしまっている。


「水草さんは来たるべき戦いの日に備えて活動資金が必要なんですとか言いながらバイトし始めたし、神狩さんは家族旅行に出かけちゃったし」

「ロコさんでもデートに誘えばいいじゃん」

「おいおい、そこはアタシとデートしようよって言ってくれよ」

「キモッ。私別にデートに固執するタイプじゃないし。お互い素直になって、お兄ちゃんとこうして仲良く毎日を過ごせるだけである程度満足してるし。こんな暑い日に外出たくないし」

「これからどんどん暑くなるぞ。いつ行くか? 今でしょ」

「……」


 既に廃れた感のあるフレーズを決めた俺に真顔を向けると、テレビのリモコンを取ってチャンネルを変える四重。居た堪れなくなった俺はスマホを取り出すと、隣の家で俺からのデートのお誘いを今か今かと待っているであろう幼馴染に電話をかける。今の時代はSNSが発達しているのでそれでデートのお誘いをする人間も多いかもしれない。しかしハーレムを作ろうとするような、恋愛の形に色んな理想を抱く人間にとっては、声と声のぶつかりあいはまだまだ大事にしたい。SNSで気軽にデートに誘える関係こそが恋愛の理想なのだと言われたらそれもそうだなと納得しそうな気もするし、電話は肉声では無くて音をデータ変換して復元しているに過ぎないと言われたらそれまでなのだが。


「もしもし。何?」

「いや、何ってわけでもないけど。遊びに行こうぜ」

「やだ。というかヒドラも一緒に夏休みの宿題を先に終わらせようよ。去年の夏を忘れたの? お互い、浮かれてたよね。付き合うようになってさ、夏だぜ、俺は高一で彼女持ちの勝ち組だぜ、私も高一で彼氏持ちの勝ち組だぜ、しかも幼馴染だぜ、夏だぜ、イェーイみたいにさ、意味不明なテンションだったよ。毎日のようにデートに行ってさ、まぁすぐにお金も無くなったし暑いしで家に引きこもってゲームとかで遊んでさ、そして最後らへんに気づくんだ。やべえ、宿題やってねえって」


 ロコに言われて去年の夏を振り返る。確かに去年のテンションはおかしかった。学生におけるカップルというのは、ステータス的な意味合いも持っている。ハーレムを作りたがる理由の1つが自慢したいからだということは否定できなしい、ましてや当時は付き合いたて。高校一年生にして幼馴染と付き合っている俺達は勝ち組だぜと言わんばかりに浮かれきっていた。そして最終的に地獄を見た。


「苦い思い出だったな……友達に宿題写させてくれと頼んでも、『なんで夏休み中浮かれてデートばっかしてた奴に宿題を写させないといけないんだ』で正論返されたし。だがなロコ。重要なことを忘れてるぞ。こちらには神狩さんというリーサルウェポンがいる」

「やはり天才か……オーケーオーケー、遊びに行こう」


 実際には神狩さんに『は? 何で写させないといけないの。親しき仲にも礼儀ありよ』と拒否られそうな気はするが、迫りくる宿題から現実逃避がしたいのか、誘いを受け入れて数分後に家のチャイムが鳴る。


「いってらっしゃ~い。お土産は高級アイスでいいよ」

「高級アイス店でアイスを堪能した後にドライアイス持って帰ってやるよ」

「くたばれ」


 妹に快く送り出され家を出た俺達だが、具体的にどこで何をしようかなんて決まってはいない。まぁ適当に映画館でも行くかという俺の提案に対し、呆れたような反応を見せるロコ。


「それじゃあ去年と一緒じゃないか。去年の私達と決別するために、一つ上のデートをするべきだ。そう、大人のデートを!」

「大人のデートか。じゃあ社会派映画でも見るか」

「は~、わかってないなぁ、わかってねぇよ。そういうことじゃないんだよ」

「女ってやつは何で直接言わねえんだ、察してちゃんかよ」

「あぁ?」


 こんな険悪な会話ができるのも、俺達の仲が良い証拠。じゃあ何が大人っぽいデートなんだよと問答を繰り返した挙句、落語とか大人っぽいんじゃない? なんて理論で、興味もないのに落語劇場に入ってしまう。老人と退屈そうな子供を連れた親に囲まれながら、途中退室できる雰囲気でもなかっためにあくびをかましながら無駄な時間を過ごしてしまう。


「無駄って大事だよね。うん、大人っぽい。それに、夏はこれからだ」

「そういうのを自己暗示って言うと思うんだが……飯食うか。でも夏休み始まったばっかでどこも混んでるだろうなあ」

「個人でやってる店なんていいんじゃない? 有名店とかチェーン店とかだと混みそうだけど。知名度や安パイに頼らないのも大人だよね」


 単純に並ぶのが嫌だったからか、チャレンジ精神を養いたかったからか、大勢の人が並んでいる有名店に隠れるようにひっそりと佇んでいる、オンボロなラーメン屋に意気揚々と突入する。


「(うわ、店の中汚っ)」

「(並ラーメンで750かよ)」


 こういうお店の方が雰囲気あるし、多少高くても絶品のはずだ! とロコのように自己暗示をかけてラーメンを食べてみるが、スープの味が濃すぎて堪能できたものではない。ラーメンだけではあれだしと頼んだサイドメニューの餃子もワンタンかと思うくらい具が少ない。目の前で無言でラーメンを啜っているロコと会話を試みようとしたが、店主の期待するような視線のせいで一体どんなことを喋れば無難なのかと悩んでしまい、結局味すらもわからなくなってしまった。恐らくはロコも同じようなことを考えていたのだろう、終始無言でランチを終えて、店を出た時には疲れからか大きくため息をつく羽目に。


「次だ次」


 その後もボートレース観戦だの喫茶店でブラックコーヒーを頼むだの大人っぽいことをやってみようとするがうまくいかない。大人らしさは、大人にならないと結局わからないんだろうな、なんて月並みな感想を抱きながら疲れた身体で夜の街を歩いていると、ロコがふと立ち止まる。


「どうしたロコ。……おい」

「いやぁ、やっぱり大人のデートっていったらこれでしょ」


 どこの街でも見かける、子供の頃に行ってみたいと憧れて親が言葉を濁す、そんな素敵な夢の国。とどのつまりラブホテル。俺の服を引っ張って中に入ろうとするロコにため息をつく。


「何考えてんだお前は」

「えーいいじゃん。私興味あるし。他の皆はともかく、一年以上付き合ってる私ならハーレムの一員だろうと何らおかしくないでしょ」

「……」


 ロコの言っていることは正論なのだろう。四重は論外として他の二人とも身体の関係を持つほどの仲にはなってないが、ロコとは一年以上の付き合いだ。付き合って一年経ってもヤってないカップルは少数派だろうし、女が妥協する形で行為に至るパターンも多い中、この幼馴染は貞操観念があまりなく男の性に寛容なのだから素晴らしい話だ。ハーレムを作るようなガツガツした人間は、性にもガツガツ行くべきなのかもしれない。しかし、しかし!


「俺の中のイメージは、プラトニックなんだよ」

「ふーん。私からすれば、いずれこんな関係が終わるとわかってるから深い関係を持ちすぎることから逃げてるだけに思えるけどね」

「……そうなのかもな。晩飯食おうぜ。大人っぽく、百貨店にあるレストランでどうよ」

「ファミレス乙」


 プラトニックな恋愛に崇高さを見出しているのか、ロコの言う通り逃げているだけなのか。申し訳なさからファミレスでなくちゃんとしたレストランでロコに素敵なディナーをご馳走して、夏休み最初のデートはどうにも微妙な結果に終わるのであった。

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