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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
実の妹の依存させ方
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非常識な妹との愛し合い方

 恋をして少しだけ大人になった、少しだけ強くなった四重はそれが良い方向へ働いたらしい。彼女がクラスメイトとうまくいっていないという根本的な問題は解決できていないが、家にいる時の彼女の表情は前までの陰鬱としているか、強がっている表情に比べると堂々としている。


「最近帰っても四重がリビングにいなくてさ、お兄ちゃんちょっと悲しいぜ」

「ところでさー、こないだのファミレスの俺の迫真の演技? あれが何故か広まっててさぁ、俺の評判が悪くなってる気がするんだけど」

「お前の犠牲は無駄にはしないぜ」

「てめー……ていうか何で俺だけ……ロゼッタもいたのに」

「日頃の行いってやつだネ!」


 そんなこの日、学校でケースケの恨み言をひらりと躱して家に帰る。今日もリビングには妹の姿は無かったが、俺の部屋に入ると勝手にギャルゲーをプレイしているところであった。


「あ、お帰りお兄ちゃん……あ、セーブ上書きしちゃった」

「ただいま四重。なんてことを……」


 カバンをベッドに投げ捨てて、妹の隣に座り、しばらく無言で彼女がたどたどしくギャルゲーをプレイするのを眺める。ヒロインのボイスを最後まで聞いてから文字送りをしたり、選択肢が出る度にセーブをかけたりと、意外と几帳面なプレイングだ。


「馬鹿だと思ってたけど、真面目なんだな」

「!? ひ、酷いよお兄ちゃん、私は勉強ができないだけで真面目だよ、真面目だから色んな事に悩むんだよ」

「さいですか」

「むーっ……ていうかあまりじろじろ見ないでよ、恥ずかしい」

「俺の部屋なのに……そもそも何でいきなり人の部屋に入ってギャルゲーやってんだ」


 俺の至極全うな質問を、鼻歌で誤魔化しながらゲームを続ける四重。一回デートをしたからといって、彼女が自分の恋心に素直になったからといって、その時点で恋人契約が成立するわけでもないし、期限までに彼女をハーレムに加えないと死んでしまうなんてエッチなライトノベルにでもありそうな呪いもない。画面の中にいる主人公とヒロインも、何回も何回もデートしているのに、誰がどう見ても恋人同士なのに、シナリオ上ではそんなに進展していない。そういうものなのだろう、恋愛とは。


「……ねえ、今更だけど、お兄ちゃんって呼んだ方がいいのかな」

「? 別に構わないけど、今までずっとそうやって呼んで来たんだし。お前が呼びたいなら呼べばいい」


 唐突に兄の呼び名について疑問を抱き始める四重。この年になってお兄ちゃんは、確かに現実問題として痛々しい。しかし、俺達はその若さ故の痛々しさから目を背けることなく生きていくべきなのだ。気にするなと自信をつけさせようとしたが、そうじゃなくて、と顔を赤らめながら首を振る。どうやら彼女が考えていたのは別の事らしい。


「その、お兄ちゃんが、私の事を一人の女として意識してるなら、私もお兄ちゃんじゃなくて、一人の男として認識すべきなのかなって……ロコさんみたいに、ヒドラって呼び捨てにした方がそれっぽいかなって」

「……」

「ごめん、普段のお兄ちゃんくらい気持ち悪い事言ったね」


 第三者が聞いたら気持ち悪くて吐き気がするレベルの話だろう。しかし、これはスルーしてはいけない問題かもしれないな、とさりげなくディスられていることに突っ込みを入れる事無く、しばし無言で考える。


「四重、よく聞いて欲しい。男は我儘な生き物なんだ。兄としてお兄ちゃんって呼ばれたいし男として評価して欲しい生き物なんだ」

「悩んだ割にどうしようもない答えだね……」

「そうだよ! 男はなぁ、どうしようもない生き物なんだよ!」

「代表者ぶってるし開き直ってるし……まあいいか、これまで通りお兄ちゃんって呼ぼっと」


 呆れたような、けれどもどこかニヤついているような表情でこちらを見た後、いよいよ告白してエンディング、という一歩手前のところでゲームを辞めて立ち上がり、部屋を出ていく四重。遠回しな『もうちょっと結論は待って』という意思表示なのだろうか、と引き継いだ俺は3分後にスタッフロールを見るのであった。



「四重、なんだか最近機嫌がいいわね。何かあったの?」

「えー、そう? そんなに変わった?」

「お、彼氏が出来たのか?」

「さーてね。あ、これ苦手だからお兄ちゃんにあげる。あ、これ頂戴」


 その日の夕食時、前までは必死に強がりながら学校でうまくいっている風に演じていた四重だったが、今はかなり自然に良い表情が出来ている。鈍い両親も流石にそれくらいには気づいたようだ。ピーマンを皿に盛られ、エビフライを強奪されながら、だったらもっと妹の力になってやればよかったのに、と複雑な気分に。食事の後、ピーマンだらけで苦々しい口の中を麦茶で濯いでいると、母親に声をかけられる。


「ヒドラ、ちょっといいかしら」

「あん?」

「最近、四重と距離が近すぎるんじゃない?」


 そのまま母親のお小言を聞く俺。もう四重もいい年なんだからいい加減兄離れしないといけない、それをわかっているなら彼女もいるんだから干渉しすぎるな、こないだ二人で仲良く出かけているのを近所の人に見られている……話をまとめるとこんな感じだった。俺はわざとらしく、俺達の年代にありがちな反抗期の息子らしく、『けっ』なんて呟きながら反論をする。


「娘がいじめにあってるから俺が力になって慰めてやっただけだよ。そんなことにも気づかない、力になってやれない癖に、ご近所さんの評判気にして、兄妹に離れろだなんて、呆れた母親だな。俺は四重の事が好きだし、四重も俺の事が好きだよ。親なら見守ってくれよ」

「アンタねぇ……!」

「なんならロコにも聞いてみろよ、ロコは自分も愛してくれるなら別に構わないって答えるからさ。とにかく、俺達は納得してるんだ。親だからって常識持ち出してグチグチ言うんじゃねえよ、非常識な名前つけてる癖に」


 ロコ以外にも彼女がいることは伝えなかったが、この際だと堂々と四重とも恋愛をするつもりだと伝えてやることに。自分の育て方がおかしかったのか、とでも言いたげなショッキングな顔をする母親を少しだけ見て、すぐにもう用はないと立ち去った。いつかは、複数の女性と付き合うなんておかしいと言うであろう両親とも決別しなければいけない、そう思っていた。勇気が出なくてずっと黙っていたけれど、苦しんでいた四重を救ったことで、自分のやっていることは間違ってなんてないと思えるようになったし、すんなりと親にもカミングアウトが出来た。


「あ」


 部屋に戻ろうとした際、顔を赤らめている四重と鉢合わせる。どうやら先程の会話を聞かれていたらしい。


「……聞いてたのか」

「うん」

「……あれは俺の考えだからな。お前にも別の考えがあるだろう、俺を擁護する必要はないし、親の言うことを素直に聞くのが、きっと一番まともな人生を送るための道だ」


 俺はバツが悪そうに頭をポリポリとかくと、俺に合わせる必要はないと諭して部屋に戻る。四重が俺のハーレムに加わらず、普通の女子高生になれたとしても、俺はハーレムを作っているろくでなしであることは変わらないし、どこかで身近にいる、常識を盾にする存在である親と対峙する必要はあったのだ。結構大変な事をしてしまったけれど、割とあっさりだったな、なんてベッドに転がりながら、今週は何をしようかななんて考える。



「部屋に引きこもるのもいいけど、外でパーっと遊びたいよね」

「そうですねそれじゃあ今週は皆でネカフェに泊まりましょう」

「嫌よそんなの……そういえば、某ボウリング場は週末は24時間営業だったわね。カラオケとかもあったかしら」


 そして週末、いつもは皆が俺の部屋に集まってゲームだの何だのする日だが、今日は外で遊ぶべきだという風潮になる。どこで遊ぼうか、なんて4人で会話しながら学校を出ようとすると、校門にロコ達とは違う制服姿の女性が。


「あ、お兄ちゃん。彼女さん達も」

「どうしたんだ、四重」


 それは四重だった。何しに来たんだ? と月並な質問をすると彼女は少し照れ始める。


「今日ってお兄ちゃん達が皆で遊ぶ日でしょ? 私も混ざりたいなって。でも外で遊ぼうってことになったら混ざれないから、学校まで来ちゃった」

「おいおいエスパーかよ……ていうかいいのか? クラスメイトとも、少しずつだけど上手くいき始めてるんだろう? そんな大事な時に、実の兄と遊ぶだなんて。放課後にクラスメイトと遊んだり、ちゃんとした彼氏を作ったりして、まともな女子高生になれるチャンスなんだぞ?」


 少しずつ、少しずつではあるが彼女のいじめ問題については良くなっているらしい。愛すべき馬鹿、もとい親友達の活躍のおかげでいじめの主犯達は四重を怖がるようになり、そのうち一人が彼女に謝り、『別にそんなんじゃないよ~』と四重が大人の対応をしたついでに自分にも非があったことを詫び、そこから関係が修復し始めているのだそうだ。もともと手遅れな四重を救うためにハーレムに入れようだなんて考えがあった、けれども今の四重ならきっと一人でもやっていける。兄と思い出にデートして、少し大人になって、ありがとうお兄ちゃんなんて言いながら巣立っていく、そっちの方が遥かに美しい兄妹愛の形なのだろうと思って、あるいは、彼女の決意がどれくらいなのか確かめたくて、放課後に兄のハーレムに加わろうとする彼女に忠告してやる。すると四重は、覚悟を決めるぞと言わんばかりにすぅっと深呼吸をすると、


「……えいっ」


 俺の腕にしがみ付くように抱き着いてきた。


「なっ!?」

「なんてことを……」

「うわー写真撮らなきゃですねスマホスマホ」

「ふふ、危ない兄妹ね」


 気が動転する俺、嫉妬心を露にするロコ、野次馬根性を見せる水草さん、面白そうにほほ笑む神狩さん。近くにいた学校の生徒は、俺を知っている連中は、『あいつ別の学校の女とも付き合いだしたよ、頭おかしいんじゃねーの』とひそひそと話し込んでいるようだ。


「やめろよ四重、人が見てるだろ」

「えー、彼女なんだから抱き着くのは普通でしょ? 彼女なんだから」

「……! 四重、お前……それでいいのか?」


 ちょっとだけ柔らかな感触に顔を赤らめながら引き剥がす俺に、さらりと彼女宣言をしてくる四重。本当にその選択でいいのかと確認をする俺に、四重はとてもいい笑顔を見せながら、


「うん。私も、お兄ちゃんと同じくらい、自分の気持ちに素直すぎるダメな人間だから。長い人生、時間はたっぷりあるんだし、若いうちはもっと素直になってみようかなって、そう決めたんだ。だから、不束者ですが、新参者ですがよろしくお願いします」


 自分で答えを見つけ出したことを、決意を固めたことを伝えると、ロコ達にペコリと挨拶をし、ロコ達は快くそれを受け入れる。客観的に見れば、ハーレムを作ることも、親と決別することも、兄妹で愛し合うことも間違っているのだろう。母親に食って掛かったことや、往来で兄に抱き着くことを、間違った勇気だ、なんてどこかの誰かは言うのかもしれない。けれども、今の俺達は最高に幸せで、美しいんだ、平等に愛し合い、愛される素晴らしい集団なのだと、そいつらに言ってやりたかったし、自分にもそう言い聞かせて、自分の選んだ道は間違ってないと納得させる。


「よし、それじゃあ遊びに行くか!」


 そしてその選んだ道を突き進もうと、俺は意気揚々と、彼女達を先導するために歩みだした。

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