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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
実の妹の依存させ方
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背徳的な妹の狙い方

「聞きましたかこの人実の妹を攻略しようとかふざけた事言ってますよ頭がワーテルロー」

「虐められて傷心状態の女の子を堕とす……その時点でアレだけど、家族相手にそれをやろうなんて、貴女私より余程性格悪いわね」

「漫画の見すぎだぞ」


 思い思いにロコを非難する俺達。予想以上に非難されたらしく、少し目を逸らしながら落ち着いて話を聞くんだと壁に向かって話しかけるロコ。


「まったく、いつもは俺達イカれたファンキーボーイアンドガールだぜー的なノリな癖に、こういう時は常識人ぶっちゃって。いいかい、そもそも人間ってのは簡単には変われないんだよ。こいつを見ろ! 私の無限の愛で包んでも! この男はハーレムを作りたいだの馬鹿な事をほざく始末! こんなどうしようもない人間の妹が、簡単にブラコンを、ぶりっ子を卒業できると思う?」

「血は争えませんからね無理な気がしてきましたうん妹さんはお兄ちゃんと同じく手遅れです」

「実例を出されたら何も言えないわね」

「……」


 そのまま俺を指さして罵倒し始めるロコ。ロコのみと付き合っていた約1年間、確かに楽しかった。理想的な恋人同士の生活だった。けれども俺の心の奥底にあるそのリビドーは消えなかった。俺の核だったのかもしれない。そんな頑固な俺だからこそ、いつも妹を見てきたからこそ、妹が変わるのは難しいことを改めて理解する。


「彼女はね、もう修羅の道を行くしかないんだよ。いじめに耐えながら、いつか飽きられるのを待ちながら、耐えるしかないんだよ。そんな彼女に、兄離れを勧めるなんて、それこそ鬼畜だと思わないかい? 本当に壊れちゃうよ。だったらせめて、お兄ちゃんとして、存分に心の拠り所になるべきだ、依存先になるべきだ」

「うーむ……」


 彼女の言うことも一理あるのかもしれない。子供をニートにしてしまった親は責任を持って養うべきだ、なんて意見もあるくらいだ、妹が少しおかしいのを知っていて放置してしまった責任は、妹を変えることではなく、妹が変わらなくてもいいようにすることなのかもしれない。


「言っておくけどね、四重ちゃんはヒドラが思っているより遥かにブラコンだよ。女同士で色々話をしたこともあったからね。ブラコンすぎてちょっとこのままじゃまずいなと思って、大分前から忠告した程だ。決してライバルを減らそうとかそんなんじゃないからね」

「何だか流行りのラノベで見た展開ですねとりあえず私は賛成ですよハーレムの一員になって世間の目なんて気にしない的なメンタルを持つことができれば成長に繋がるんじゃないでしょうかヨガスるのは駄目だと思いますが」

「逆効果になる気もするけれど……まあ、私も構わないわ」

「と、とりあえず考えさせてくれ……」


 ロコの雄弁により、あっさりと手のひらを返す二人。所詮は他人事な二人と違って、俺にとっては実の妹なのでうんわかったと簡単に決断することはできない。ひとまずこの場は解散し、放課後にすぐ家に帰り妹を待つ。しばらくすると、浮かない表情の四重がリビングにやってきた。


「ただいま、お兄……兄さん」

「おかえり四重、とりあえず座れよ。どうしたんだ、いきなり兄さんだなんて」

「うん……高校生にもなって、お兄ちゃんなんて呼んでるから、こんなことになったのかなって思って。まずは変えてみようかなって」


 リビングのソファ、自分が座っていた場所の隣をぽんぽんと叩くと、ちょこんとそこに座る四重。今までずっとお兄ちゃんと呼ばれてきたのだ、今更兄さんだなんてどこか余所余所しい呼称はむずがゆい。今日の学校での出来事を聞くと、陰鬱な表情でぼそぼそと話し始める。


「……今日は、何も、無かったよ。誰とも、喋ってない。誰にも、話しかけられなくて。それまでよく喋ってた友達も、話しかけて来なくて」

「そうか、とりあえずはよかったよかった。犯人の目星はついたか?」

「確証はないけど……私が、友達だと思ってた人達だよね。ずっと、私の話聞いて、イライラして、それで……ひうっ……いぐっ……うっ、うっ、うえええっ」

「悪くない、四重は悪くないからな。悪いのはそのくらいで酷いことをしたそいつらだからな?」


 話せば話す程、四重の精神は不安定になっていくらしく、今日は何もされていないにも関わらず途中で泣き始める。毎日のように状況報告させて対策を練るなんて、気が遠くなるような、彼女の気が狂うような事をするよりは、ロコの言う通り依存させて、辛い事を忘れられるように、気にならなくなるようにするべきなのかもしれない。


「はー……はー……ごめん、しばらく、部屋に、籠るね」


 ふらふらとした足取りで自分の部屋に戻っていく四重。彼女を変えるにしろ、変わらずに過ごせるようにするにしろ、ロコの言う通り修羅の道になりそうだ。



「おー、そういえば四重。どうなんだ、高校生活は。彼氏は出来たのか?」

「あなたったら、四重は女子高ですよ」

「そういえばそうだったな! はっはっは」

「……」


 娘がそんな修羅の道を歩んでいるなんて夢にも思っていないであろう、呑気な両親の声が夕飯時に響き渡る。子供に変な名前はつける、息子が複数の女を連れ込んでも何も思わない、娘の変化にも気づかない。ダメだ、この両親は。悪人ではない、悪人ではないことくらいわかっているけど、こいつらは親失格だ。お兄ちゃんが、どうにかするしかないのだ。




「……というわけなんだよ」

「……お前、妹とセックスすんの?」

「この配合はインブリード! 狙え、三冠馬!」


 更に翌日。女の意見ばかり聞いていても駄目だと思った俺は、ケースケとロゼッタにもアドバイスを頂こうと、道徳の授業をフケる。当たり障りのないことしか書いていない道徳の教科書じゃあ、俺の悩みは解消されないのだ。早速下品な反応をする友人達にため息をつきながら、ジト目で二人を見やる。


「これだから男は……そういう発想しかできないのか? 俺はな、プラトニックなんだよ」

「いやいや……付き合うってそういう事だろ……言っておくけど、お前今の段階で既に乱交してるって皆に思われてるからな?」

「え、マジで?」

「出島」


 ある程度の覚悟はしていたつもりだが、周囲からそういう目で見られているという現実はかなり堪える。しかも対象は俺だけではない、ロコや水草さんや神狩さんまでそんな目で見られているのだ。そんなイカレ集団に、妹を巻き込んでいいのだろうか。


「はぁ……このままじゃ妹、精神崩壊しちまうよ。でも兄としてな、妹をそんな道に引きずり込むのはどうかって思うわけ。ロコ達はいいのかよって話だけどな」

「そんなの本人に聞いてみろよ、俺はお前の妹がどれくらいブラコンなのか知らねーし、アドバイスなんかできねーよ」

「オニーチャン! オニーチャンダイスキ! アッアッアッアッ……ってオナってるかもしれない、そしたらもう手遅れだ、レッツセックス!」

「死ねよロゼッタ……」


 結局方針は固まらず、彼女達と遊ぶ気にもなれなくてこの日もとぼとぼと家に帰り、リビングのソファーで何度かため息をつく。そしてしばらくして、四重が帰ってきて陰鬱な表情でちょこんと俺の隣に座る。隣と行っても、昨日よりも距離が広がっている。


「ただ……いま……ヒドラ」

「おかえり四重。今度は呼び捨てか」

「うん……私くらいの年齢だと、呼び捨てが多いんだってさ。今日、いつも喋ってた、友達? に話しかけて、見たけど、凄い面倒くさそうに対応、されてさ、あ、あはは、ウザかったんだね、私、今まで、我慢されてたんだね、あ、あはは、あははははっ……」


 天井を眺めながら、最早笑うしかない、とでも言いたげな表情で痛々しく笑う四重。俺ももう我慢できない。これ以上四重のこんな姿を見ていられない。距離を詰めると、笑いながらもぶつぶつと自己嫌悪やこの世への怨嗟を綴っている彼女の頭を撫でる。


「よしよし……大丈夫だ、お兄ちゃんはずっとお前の事を想っているからな。別に、家で余所余所しくする必要なんてないからな? お前の気が晴れるなら、いつでも、今まで以上に甘えていいからな?」

「うっ……うぇ……うぇぇええええ」


 彼女の胸に秘めた想いがそうさせたのか、不安定な精神状態がそうさせたのか、彼女は涙腺を崩壊させると、何のためらいもなく俺に抱き着いてくる。修羅の国へのペアチケットを購入する代わりに、俺は彼女を抱きしめ返すのだった。

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