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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
実の妹の依存させ方
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25/44

可愛い妹の案じ方

「着替え、置いておくからな」


 ひとまず四重にシャワーを浴びさせ、所々濡れている床を拭きながら自分の行動の遅さを呪う。神狩さんの言う通りだった。クラスメイトのお試し期間は終わってしまい、四重は兄の話ばかりしているイタい女だと認識されて、スクールカーストの下の方になってしまい、日頃から彼女のどうでもいい兄の話を聞かされてうんざりしていた連中に、トイレ中に復讐されてしまって泣きながら帰って来たというわけだ。


「何だか、現実味がないって顔だね」

「全くだ。いじめはそこら中にあるって言われても、俺の周りには無かったからな。心のどこかで、まあ杞憂に終わるだろう、なんて考えてたよ。だからどうすればいいのかわからん」

「私の周りにはあったけどね。気づいてないだけだよ、大なり小なりそこら辺にあるよこんな問題。大半の人は傍観者気取って、気づいてないフリして無視するんだけどね、誰もそれを責められないよ」


 俺の能天気な発言に呆れたような表情を寄越すロコ。俺が周囲の闇に本当に気づいていなかったのか、気づいていたけど気づいていなかったことにしていたのか最早わからないけれど、それ以上に別の闇が俺を蝕んでいた。


「……何だろうな、家族が酷い目にあったってのに、あまり怒りが湧いて来ないんだ。四重にも原因があるって思ってるからなのかな」

「所詮私達は、いじめの被害者になったことがないからね。冷静になってしまうのも仕方ないのかもしれない」


 自分の負の面が発現してしまったみたいで陰鬱な気分になっていると、シャワーを浴び終えた四重がふらふらと浴室から出てくる。早めのパジャマ姿で、ロクに髪も乾かさずにリビングのソファーに座って、ぼーっと天井を眺めていた。まだ現実を信じられないといった表情だ。


「四重。とりあえず、詳しい話を聞かせてくれないか?」

「……うん」

「私がいるのも不自然だろうし、私は帰るよ。はい四重ちゃん、コーヒー」


 床の掃除をし、コーヒーを淹れて去っていくロコを見送りながら、四重の隣に座る。思い出させてしまったのか、ガタガタと手を痙攣させ、早速床をカップの破片とコーヒーまみれにしてしまい、床に出来た水たまりで再びトラウマが発症してしまったのか震えが更に強くなる始末。重症にも程がある、たった一度いじめの被害者になっただけで、人はこんなに変わってしまうものなのか。


「わか、わから、らかない。友達と喋ってて、トイレに行ったら、水が上から降ってきて、誰かの笑い声、聞こえて。すぐに、私、泣きながら、走って学校出て、気づいたら家にいて」

「道理でカバンも無いわけか……」


 現実からも学校からも逃げ出して、本能的に安寧を求めて家に向かったのだろう。それこそ周りの目なんて気にせずに、無我夢中で。それだけ話すと、しゃっくりのようにひぐっ、ひぐっ、と泣き始める。


「ごめん、ひうっ、お兄ちゃん、えぐっ、これしか、わからなひぐっ、誰の声だったか、とか、覚えてっ……!」

「大丈夫、大丈夫だから。な? とりあえず、これからどうするかを考えようぜ」

「お願い、お母さんとお父さんには、言わないで。先生から電話かかってきても、誤魔化しといて。明日、何とか、学校、行ってみる」

「……わかった」


 立ち上がり、ふらふらとした足取りで自分の部屋に戻っていく四重。ロコの淹れたコーヒーの残骸を片付けているうちに電話がかかる。相手は四重のクラスの担任であった。休憩時間中に突然姿を消した四重の事で電話をしてきたらしい。


「ご心配をおかけして申し訳ありません。明日はちゃんと学校に行けると本人は言っていますので。……ええ、それでは」


『お前がしっかりとクラスを管理しないからこんなことになったんだろうが、大体なんでこの時間帯に電話してくるんだよ生徒が消えたらすぐに親の携帯なりに連絡するのが普通じゃねえのかこのクソ教師!』と吠えたい気持ちを抑えつつ、四重は突然腹痛に見舞われ、我慢できずに病院に向かい、放課後になってしまったので家に帰った、なんていう少し無理のある嘘をつく。あっさりとそれを信じて電話を切った担任にため息をつきながら、環境に恵まれない妹に同情するのであった。




「……というわけで緊急会議だ。お兄ちゃんは妹を救わないといけないんだ」


 翌日。平静を装って学校に向かった四重を案じながら、昼休憩にお弁当を広げながら事情を説明する。話を聞き終わると、水草さんは怒りに震え、神狩さんは面倒くさそうにため息をつく。


「汚いな流石女子高生汚いこいつはメチャ許さんよなあお前の罪を数えろ判決死刑ですね」

「予想が現実になったわね……私のせいじゃないわよ?」

「わかってるよ……で、神狩さんはどう解決したの?」


 とりあえずこういう話題で一番頼りになりそうな神狩さんの方を向いて聞いてみるが、聞き方がまずかったのか彼女はギロリと俺を睨み付ける。


「ちょっと待ちなさい。どうして私がいじめを受けた前提の話をしているのかしら」

「えっ……い、いや、神狩さん優秀だし、その辺の凡人に妬まれて下らない嫌がらせとかされてそうだなーって、はは、ははは……」

「……まあ、当たってるけど。徹底抗戦よ。目には目を、歯には歯を。そのうち向こうの方から謝罪してきたわ。いじめがなかなか解決しない原因はね、本人が隠したがるの。親にバレたくない、教師にバレたくない、何だかわかる? いじめを受けるような人間だって思われるのはね、人によってはいじめられることと同じくらい辛いのよ。自分の中で抱え込むの。そういう人間の心理がある限り、いじめは減らないわ。モンスターペアレントだのが問題になっている今の時代、親にいじめられたって泣きつけばまともな親なら学校に連絡して、教師が調べて犯人を停学処分にするなんて現実的な話なのにね。その後? クラスの空気が壊れる? 学校の裏サイトで色々書かれる? 和解ができなくなる? はん、いじめを受け続けてまでクラスの空気を保つよりは、ぶち壊して孤高になった方が遥かにマシよ。というわけで私からのアドバイスはただ1つ、戦いなさい。利用できるものは全て利用しなさい」


 嫌がらせをされた事を思い出したのか少し苛立ち、徹底抗戦した時の事を思い出したのか邪悪な笑みを浮かべる彼女。彼女の言う通り、四重には親にも教師にも水をかけられたことを隠そうとしている。大事にせず、自分だけでどうにかしよう、あるいは耐え続けようだなんて、協調を、和を大事にする日本人の悪い癖だ。他の意見も聞いてみようと水草さんの方を向くと、困ったような表情をする。


「私ですかごめんなさい確かに私はコミュ障のヒキオタで一般的にはいじめの恰好の餌食だと思うんですけど何故だか中学時代はそういうことをされたことがないですね危ない人間だと思われてたんでしょうかいじめは受けないけど友達もできないそんな中学校生活でしたけど学校が終わればゲームセンターもあるし古本屋もあるし家に帰ればネットもゲームもあるしそれなりに満喫してましたね」


 確かに水草さんのインパクトは凄まじいし狂気すら感じる。あんな強烈なインパクトを入学してぶちかませば、すぐに『あの子を喋らせちゃ駄目だ』と暗黙の了解ができて、誰とも関わらなければ大人しくて人畜無害な子の出来上がり。友達がいなくてもそれなりにオタクライフをエンジョイできる性格だったのが幸いしたのだろう。


「二人とも孤高の道を歩んでるね……まあ、当然か。けど、兄としては出来ればいじめっ子と和解して解決して欲しいんだよなぁ……無理なのかなぁ……」

「1つ提案なんだけど」


 自分の中で抱え込んで耐えようとするよりは、ぼっちでもいいから降りかかる火の粉を無くす方がマシだとは思っている。けれどもそれ以上に、いじめの根本的原因を解決して、和解するのが一番マシだ。そんなことは、漫画やアニメの中の話で現実は厳しいということもわかってる。悩んでいると、それまで黙っていたロコが口を開き、皆が彼女の方を向く。


「四重ちゃんをハーレムの一員にするってのはどうかな」

「「「は?」」」


 そして彼女の口から発せられたのは、ぼっちになったことだし実の妹をハーレムの一員にしようだなんていう、客観的かつ不謹慎な提案であった。


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