可愛い妹の登場し方
「おはようヒドラ。さあ朝5時だ、さっさと弁当を作るんだ」
「う……そうか……冷凍食品はあったかな……」
「何考えてるんだい、昨日ヒドラのお母さんが『息子がお弁当を作るようになるなんて!』と感動して、色々食材を買ってくれたよ」
いつも起きるより早い朝。弁当論争は気が付けば「全員で弁当作って見せあおう」なんていう流れになってしまい、俺まで弁当を作る羽目に。欠伸をしながらロコと共に台所へ向かうと、そこには何故か妹の姿が。可愛らしい、という表現がよく似合う、いつもにこにこしている自慢の妹だ。
「おはよう、お兄ちゃん、ロコさん」
「なんだ、お前も弁当を作るのか?」
「お兄ちゃんとロコさんが作るって言うから、お手伝いしようかなって」
「ふうん」
そのまま三人で台所に立ち、料理開始。料理なんてまともにやったことがないが、ここは男として、彼女と妹に格好いいところを魅せたい。真っ先に玉ねぎを取り出すと、包丁を右手に抱え、左手で鼻を摘まむ。
「知ってるか、玉ねぎ切ってて目が染みるのは、鼻が原因なんだぜ。だからゴーグルするんじゃなくて、鼻を摘まめばいいんだ」
「知ってるよ、鼻摘みながらドヤ顔しないでもらえるかな」
「お兄ちゃん……」
俺が思っていたよりも一般常識だったらしく、呆れるロコと憐れむような視線を投げてくる妹。もしもここに水草さんがいたら、『酷いですねこれは酷いあの名作ギャルゲーの幼馴染とのデートの時にドヤ顔で知ったかして好感度下がるタイプのアレですねでも安心してください私は逆に笑わせて貰ったから好感度アップですよ』と言うだろう。神狩さんだったら爆笑していたかもしれない。鼻を摘まんでいても、恥ずかしすぎて泣きそうだとネガティブな気持ちで玉ねぎを切りながら、二人の様子を見る。
「……」
かなり険しい表情で人参を切っているロコ。はっきり言って料理の腕前は俺と同レベルだろう、千切りにしたいのか短冊切りにしたいのか乱切りにしたいのか、本人ですらわかってないらしく、最終的に大根おろしを使って人参を細かく刻む始末。
「……♪」
妹は料理は得意らしく、慣れた手つきでピーマンを切っていく。そのまま三人で野菜を切り続け、しばらくして、それなりの量の切った野菜が出来上がり、それを見ながら俺は悩み始める。
「……そもそも、何を作るんだ?」
「決めてなかったね……」
「ヒドラが知ったかするためだけに玉ねぎ切ったから、私達も野菜を切る流れになったんじゃないか……責任取ってヒドラがメニュー決めてよ」
「よし、野菜炒めにしよう」
「はあ……これだから男は。とりあえず肉とか野菜とか炒めてオリジナル要素を入れようと竹輪とか変なものを入れて一丁前に料理だって言い張るんだから」
メニューを決めてよと言った癖に、速攻で人が考えたメニューを否定するロコ。これだから女は、何でもいいとか言って男に決めさせておいて、後から不平不満を言うんだから。
「じゃあお前が決めてくれよ」
「仕方がないな……肉野菜炒めかな」
「てめえ……」
「いやいや、君とは違うよ。ちゃんと肉も入っているから。君のお母さんがね、半額のステーキ肉を買ってくれたからね、使わない訳にはいかないよね」
「ふふふっ」
事前に打ち合わせでもしていたかのような漫才のようなやり取りを見ながら妹がクスクスと笑い、冷蔵庫からステーキ肉を取り出して野菜炒め用に切り始める。最終的にそれらの具材を『俺が炒める』『私が炒める』と喧嘩しながら炒め、肉と野菜を炒めて塩コショウで味付けした、週末に父親がドヤ顔で作ってそうなおかずが完成した。
「……ボリュームはあるけど、おかずが一品ってのもな、玉子焼きでも作ってみるか……そもそも俺とロコの弁当が一緒だとコンセプト的におかしいだろ……」
「た、確かに……仕方がない、まだ時間に余裕はあるから私は帰って自分で作るよ。冷凍食品もあるし」
「てめぇ……」
自分の家に戻っていくロコを見送りながら、卵を割って玉子焼きにしようとするが、上手くいかずに炒り玉子になってしまう。しょうがないなあお兄ちゃんは、と若干得意げな顔になりながら、妹がお手本を見せてくれた。
「お兄ちゃん、最近、部活の人だっけ? ロコさん以外の女の人とよく遊んでるみたいだけど、やめた方がいいと思うなぁ。ロコさんは強がってるけど、多分かなり傷ついてるはずだよぉ」
「あー……心配ありがとな。大丈夫大丈夫、そこんとこうまくやってるから」
「本当かなぁ……? お兄ちゃん女の子にだらしないから心配だなぁ」
「うっせ。お前こそどうなんだよ、高校うまくいってんのか?」
「大丈夫だよぉ、クラスの子も可愛いねって言ってくれるし、先生も優しいし」
1つ下の妹は、俺やロコが通う高校とは別の女子高に通っている。何となく女子高は陰湿な女が多いイメージなので、妹には合わないのではと心配していたのだが、特に問題なく学園生活を送れているようだ。妹の真似をしながら卵焼きを作り、適当にリンゴを切ってデザートとして入れて、肉野菜炒めと卵焼きとリンゴという、オーソドックスなおかずが完成した。弁当箱にそれを詰めようとして、とある問題にぶち当たる。
「しまった、米を炊くのを忘れていた」
前日の夕飯はスパゲティだったので米が無いことはわかっていたので、料理をする前に炊こうと思っていたのに、ロコのせいで調子を狂わされて忘れてしまった。
「大丈夫だよお兄ちゃん」
「おお……持つべきものは妹だな」
どうやら不甲斐ない兄の代わりに炊いておいてくれたらしい。感謝しつつ炊飯器を開けるが、そこには何も入っていなかった。頭の中に『?』を浮かべていると、妹に何かを差し出される。
「はいこれ」
「……便利だな」
レンチンご飯でした。冷凍食品じゃないからセーフと心の中で言い訳しつつ、それを使って弁当を完成させ、ロコと合流して学校に向かう。そして弁当の見せ合いっこという遠足のようなイベントを行ったのだが、皆して平凡な弁当を作ったので特に盛り上がらないという悲しい結末に終わった。
「そういえば今日家にお邪魔する時に妹さんと会話しましたよ可愛らしい妹さんでしたね何故か妹さん引いてるみたいでした」
「ちなみに何を話したんだ?」
「妹モノについてつらつらと」
「確信犯ってやつだね……」
そして今週も金曜日に皆で集まってわいわいがやがや。TRPGにチャレンジしている中、水草さんがヘラヘラしながら妹の話題を出す。人の妹に何てことをしているんだと呆れていると、神狩さんが心配そうな表情を見せた。
「私も先週に話したわよ。……あの子、女の子からは嫌われるタイプよ。女子高でしょう? 大丈夫なのかしら」
「あ、やっぱりそう思う?」
「ええ。俗に言う、ブリっ子ってやつね。話し方や雰囲気からして、男に媚びて女に嫌われるタイプよ。女子高ってことは、男は教師くらいなものでしょう? 教師に媚びる女なんて、いい的だわ」
「俺もそう思ったんだけど、妹曰く大丈夫らしいよ」
「甘いわね。妹さんは高校一年でしょう? 今は見極め期間なのよ。皆が本性を少しずつ曝け出しながら、自然とグループを形成して行く時期よ。ある程度固まったら……ごめんなさい、忘れて頂戴」
ため息をつきながらサイコロを振る神狩さん。彼女の言葉には説得力があるし、実際兄として妹を見てきた俺も、妹はそのうちいじめのターゲットになるんじゃないかと心配していた。それとなく妹に、その性格どうにかした方がいいと忠告はしていたしその度に『うんうん、そうだよね~、子供っぽいし何とかしないとね~』なんて言葉が返って来たのだが、人間はそんな簡単に変われないわけで。この年になってもハーレムを作りたいだなんて言っている俺が本気で説教できるはずがないしな、と悩みの種に水をやりながら、GMのロコに言われるがままにサイコロを振るのだった。




