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現実的なハーレムの作り方  作者: 中高下零郎
お高い女の落とし方
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幼馴染のお弁当の味わい方

「ふふふ……感じる、感じるぞ。今俺は、嫉妬されている」

「頭のおかしい奴の間違いジャネーノ?」


 女に囲まれる素晴らしい生活を送っていると、ムサい男同士でつるむのも悪くはないと思えるようになってきた。決して飽きたわけでも、ファゴットなわけでもない。余裕が生まれ、友情だとかそういったものへの価値を見出すことができるようになったのだ。


「いやー、思った以上に神狩さんの効果は抜群だね。『なんであんな奴が……』的な視線がバリバリ突き刺さって、今はそれすら心地よい!」

「いるよな、恋人を作る理由が自慢したいからっていう虚しい奴が」


 友人達に呆れられてしまうしそんな理由で彼女を引き込んだわけではないが、それくらい調子に乗ってしまうくらい順調であった。今までは俺の事を『人付き合いの苦手な水草さんを洗脳した屑』だとか失礼な目で見てくる人がそれなりにいたが、性格はややアレながらも基本スペックの高い神狩さんを引き入れたことで、嫉妬や羨望の視線を受け始めるようになり、それはすなわち俺の器のでかさとかが認められつつあるということだ。


「実はさ、俺が告白するかされるのを待つか悩んでる間にさ、抜け駆けしようとした奴がいるんだよね。『何か人付き合いするようになってきたし、ハーレム作ろうとか考えてる頭のイカれた奴よりは勝機あるだろ』的な。で、告白されて神狩さん言ってやったそうだぜ、『貴方みたいな漁夫の利を得ようとする男、大嫌いなのよね』ってよ! はーっはっはっは! ざまあみやがれ!」

「お前まで性格悪いのがうつったか」

「元々こいつそんなよくネーッショ?」


 酷い言われ様だが今の俺にはノーダメージ。他人と壁を作っていた少女に根気よくアプローチをかけ続け、彼女の心の凍土を溶かし、そして結ばれる……誰がどう見たって完璧な展開だ。


「やっぱりな、男は行動あるのみなんだよ。行動できる奴はな、二人だろうが三人だろうが彼女を作れる。行動しない奴はな、一人だって作れやしない。アンダスタン?」

「あーはいはい。お前ら見てたら女は面倒だって思い始めたんでね、たまに遊ぶくらいで俺はいーや」

「ミーツー。でも飽きたら彼女チョーダイね、くれるなら貰うヨ」


 ケースケはチンピラだからその気になれば似たような女の子を捕まえられるだろうし、ロゼッタはハーフだからハーフというだけで条件反射的に股を開くバカ女を見つけられるだろうに、二人ともどうにも消極的。こんなナリでも、意外と恋愛に対して真面目で神狩さんのように理想があるのだろうと友人に対する理解を深め、愛する彼女達の待つ我が家へ。


「あ、お兄ちゃん。ロコさんと、よく来てた話好きな人と、綺麗な女の人が、勝手にお兄ちゃんの部屋に入っていったんだけど」

「ああ、部活の集会だから気にしないでくれ」


 家にやってくる女の子が更に増えて困惑している妹に苦しい言い訳をかまして自分の部屋へ。そこに広がっているのは、女の子がしてはいけないような悔しそうな表情をするロコと、対照的に澄ました表情でコントローラーを握る神狩さんと、勝手に人のベッドですやすやと寝ている水草さん。


「悪いな、ハンバーガー食って帰るはずが成長期で足りなくてな、ファミレスで駄弁りながら食ってたら遅くなった」

「くっ……汚いぞ、これハメ技でしょ」

「はぁ? 人のコントローラーこっそり抜こうとした人が何を言っているのかしら?」


 我が物顔で人の部屋を占領する彼女達にただいまの挨拶をするが、悲しいかな無視されてしまう。劣勢になるにつれどんどん酷くなっていくロコの言葉遣いに辟易した俺は、ゲーム機の電源ごと無慈悲にプチッ。


「あぁぁっ!? ……ナイス、ナイスだよヒドラ。うん、というわけでこの勝負は引き分けだ、引き分け」

「まあ、そういうことにしておいてあげるわ……お邪魔してるわ。水草さんなら実は昨日徹ゲーしてたらしくて仮眠をとるそうよ、不真面目な学生ね」


 非難しているのか感謝しているのかよくわからない表情のロコ。神狩さんは寝相が悪くて掛け布団を滅茶苦茶にしている水草さんの掛け布団を直しながら、退屈そうに欠伸をかます。男の前で欠伸だなんて、いい加減なのか、心を開いているのか微妙なところだ。


「水草さんでも疲れることがあるのか……しかし四人になってから家でゲームしてるだけだな……明日か明後日あたり、皆で遊びに行く?」

「そうね、やっぱり恋人同士がするものといえばデートよね。私一人じゃ恥ずかしくて行けない場所なんかも、皆でなら行けるし」

「へえ、神狩さんでも一人じゃ行けない場所があったんだ。どこ?」

「焼肉屋」

「どこの世界にデートで焼肉屋行く連中がいるのさ、馬鹿?」

「貴方よりは賢いつもりよ。普通じゃないカップルなんだから、普通じゃないことをするべきよ」


 それっぽい理論に言いくるめられるべきか迷い、ロコにも意見を聞こうと彼女の方を向くが、何故か不機嫌そうな顔。結局週末、焼肉は食べずに大盛りで有名なラーメン屋に皆で行って、かなり並んで、やっと食べられると思ったら本当に大盛で、しかも速く食べないとロット乱し扱いされて怒られると水草さんに嘘なのか本当なのかよくわからない忠告を受け、大盛りで有名なラーメン屋に来た癖に大盛りを頼んでないロコと神狩さん、意外でも何でもなく大盛りを苦も無く完食している水草さんに応援されながら男を見せて限界を超えて完食し、解散するまで吐き気を堪え、家の前でロコとも別れた途端、自分の家の洗面台をゲロまみれにするのであった。



「起きて、ヒドラ。遅刻するよ」

「ようロコ。……げ、もうこんな時間かよ……おかしいな、目覚ましかけてたのに」

「だって私が切ったし。んじゃリビングで待ってるね」

「……」


 そして月曜日、目が覚めると部屋の中には制服姿のロコ。人の目覚ましを勝手に切って時間ギリギリで起こすという鬼畜の所業に呆れながら髭を剃って制服に着替えてリビングに向かい、ロコが作った朝食を食べる。いつもと違って変な味付けをしていない、至って普通の味だ。その後母親から弁当を受け取ろうとするが、俺の手にはロコが持っていた弁当箱が押し付けられる。


「……お前が作ったの?」

「当たり前じゃないか、彼女なんだし」

「まあ、いいけど」


 こいつが弁当を作ってくれた事なんて今まで無かったのに、と不思議に思いながら二人で学校に向かい、お昼の時間に。クラスの離れた神狩さんがいるので、適当な空き教室に四人で向かって弁当を広げる。俺の弁当とロコの弁当のおかずが一緒な事に気付いた水草さんがニヤニヤとした表情を浮かべた。


「いただきますあれ蛟さんと猫狩さんのお弁当の中身が一緒じゃないですかははーんわかりましたよ蛟さんが作ってくれたんですねそれで私の分はないんですか?」

「私が作ったんだよ私が! どうしてその発想になるのさ?」

「へえ、愛妻弁当ね。わかったわ、明日は私も作るわ。新参者だし、それくらいはアクティブにならないとね」

「いや、明日も私が作るよ。最近料理の練習をしているからね、こいつは実験台なんだ」

「そうなんですかじゃあ私の分も作ってください恋人が出来て友達が出来て活動的になった分最近お腹がよく空くようになってでも私も乙女ですからお母さんに体育会系の男子じゃあるまいしお弁当2つ分作ってくださいなんて言えませんから」


 明日も弁当を作るというロコ。一体全体何が原因で彼女の態度が変わったのだろうかと弁当をもしゃもしゃと食べながら、皆で作ればいいじゃないだのむしろ学校で鍋をやろうだのと口論をしている女の子達を眺めながら考えることしばらく、本格的にロコが焦っているんだという単純明快な答えに辿り着いた。

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