お高い女のさりげない加わり方
「……で、どうなんだよ。1ヵ月くらい経ってるよな? 最近進捗聞いてねーけど、仲良くヤってんのか?」
「何が?」
「ゴッドイーターさんを無事にハーレムの一員にして4人でセェックスアァ~ンド、ドルゥグ! してんのかって話だヨー」
たまには男同士で遊ぼうぜということで、三人で仲良くカラオケを嗜んでいたのだが、口を開けば出てくるのは女の話。男と女は切っても切り離せない関係なんだなあとしみじみ思いながら、プラトニックの欠片もない連中に呆れ気味に返答する。
「俺はな、ハーレムを作りたい……たくさんの女の子に愛されたい、それがまかり通る程でっかい男になりたい……そんな純粋な気持ちで毎日を生きているんだ。お前らみたいな頭が下半身な連中とは違ってだな……」
「けっ、ヘタレが言い訳しやがって」
「ソーデスネ蛟さんはヘタレですねヘタレ受けだと思いますヨでもそこがいいんですよそんな蛟さんだから私は好きになっちゃったんデスヨ……似てる? 似てる?」
悪態をつくケースケとケラケラ笑いながら水草さんの物真似をしだすロゼッタ。酷い友人を持ったもんだとため息をつきながら、率直な悩みを打ち明ける。
「……神狩さんのことなんだが、なんか関係がふわふわしているんだよな、どう動くべきか」
「なんだそりゃ。いい感じなのか? 望みがないのか?」
「一番ロゼッタ! ふわふわな時を歌います!」
ふわふわという単語に反応して、チープなアニメソングを演奏予約しだすロゼッタ。少し黙ってろとばかりに予約中止のボタンを押すと、俺は現在の状況を二人に相談した。
「あれだよあれ。友達以上恋人未満的な。あれからまた、二人でのデートもやったし、全員で遊びにも行ったんだよ。なんか距離感が中途半端でな」
「デートしてる時点で十分恋人だと思うけどなぁ……つうかそろそろ告白すればいいんじゃねえの? あの女、お前と会話してる時楽しそうだったぜ、ロコちゃんや水草さんとも仲良く話してたし、普通に受け入れられるだろ。孤高ぶってた女が、一歩踏み出したら友達も恋人もできてめでたしめでたしってか、ハッピーエンドですなあ」
「いやー男なら告白されたいんじゃないノ?」
「そう! それなんだ!」
告白しろよと言うケースケと、男なら告白されたいというロゼッタ。まさに俺が悩んでいるのはそこなのだ。
「告白すべきか、されるまで待つべきか、それが問題なんだよ。恋愛モノでよくあるだろ、男が女に告白したら『ずっとしてくれるの待ってたんだよ……』とかほざく女。いやお前がさっさとしろよ無駄に話が伸びたじゃねえかって昔は憤ってたけどな、今ならわかる。告白されたい。自分から告白するのは負けた感がある」
「まあ、普通のカップルじゃなくてハーレムだもんな。向こうから告白してくるくらい惚れさせないと、現実的じゃあないのかもしれないな。でもあの女、絶対プライド高いぞ? 向こうも待ってると思うぞ?」
「そして気づいたら別の男が出来ました……テラメデタス」
ロゼッタのその一言に、頭を抱えてぐおおと悩む俺。有り得ない話ではない、彼女ははっきり言ってモテる。今まで誰とも付き合わなかったのは彼女が恋愛に真剣すぎて慎重だったから。しかしそんな彼女の壁は、俺の努力の甲斐あって壊れかけている。俺が下らないプライドに拘っている中、恋愛に抵抗の無くなった彼女に他の男が告白して、『貴方には感謝しているわ』なんて笑顔と共に去っていく……そんな結末だって、十分に有り得る話だ。
「ぐおおおおお! 俺は、俺はどうすればいいんだ……」
「やっぱこいつ気持ち悪いわ」
「だよネー」
バッドな未来を予想してくねくね悶える俺に、冷ややかな視線を送る親友達。友達なら心配したり協力してくれるもんだろと友情に呼びかけるが、『既に彼女二人いて三人目作ろうなんて男に誰が同情するか』なんて至極真っ当な意見を喰らい、逃げるように選曲リモコンを手に取るのだった。
「告白する……されるのを待つ……する……」
「うわきしょ」
「懐かしいですねそれ私も昔買って使ったんですけどすぐに角が取れてどっか行っちゃうんですよね」
恋愛というものは、小さな大宇宙。周囲からすればどうでもいいような事を、世界の終わりかのように気にしてしまう、それが青春。そう、俺は青春を全力で感じているのだ。自分の机で昔流行った角がたくさんある消しゴムをぷちぷちとちぎりながら、花占いならぬ消しゴム占いに頼っていたのだが、心底どん引きしている表情のロコと目を輝かせながら消しゴムを眺める水草さん。
「ロコにはわからないよな、恋する乙女の気持ちなんて。水草さんはわかるよね?」
「わかりますよわかりますあの時は悶えてましたよどうしてアルベルトは二次元のキャラクターなんだろう一体いつになれば漫画の世界に入れるのだろうなんて馬鹿げたことを布団の中でずっと考えていたくらいです」
繊細な乙男の気持ちを踏みにじってくるロコに、憐れむような慈しむような視線を投げ、つい最近俺に恋し水草さんに味方になって貰おうとするが、何故か彼女は俺とのエピソードではなく漫画のキャラクターに恋した時の話をし始める。そんな微笑ましい? やり取りの中に、彼女の姿はない。
「やっぱり、違うクラスってのはでかいよな……通学路も被ってないし」
「今頃対人関係の壁が薄くなった神狩さんが男と仲良く会話してるかもね」
「やめろぉ……頼む、ちょっと様子見てきてよ」
「何で私が……そんなに必死なら自分で行きなよ」
不安を煽るロコに、様子を見てきてくれと懇願する俺。そんな俺達に浴びせられるクラスメイトからの冷ややかな視線。最初はそういった異常者を見るような視線が辛くて、ロコや水草さんとの教室でのいちゃつきも控えめだったのだが、最近は慣れたのか吹っ切れたのか、さして気にならなくなり、むしろ自慢気な態度をとる程に。神狩さんは段々と壁が薄れてきているというのに、俺は周囲との壁が出来ていくというのは何とも悲しいことで。彼女はこのまま普通にスペックの高い美少女としての人生を歩む方がいいのだろうか、なんて一瞬考えてしまうが、すぐに頭の中で頭をぶんぶんと振る。俺の下らなくも壮大な野望のためには、彼女が必要なのだ。彼女の本当の幸せなんて考えている場合ではない。……いや、まだ弱い。彼女を幸せにするのは俺だ、くらいの意気込みが必要だ。
「……よし、切り替えて行こう。今日は三人でドロマネやろう!」
「えー……あれガチでクソゲーじゃん……苦行だよ……」
「クソゲーですか望むところですよ何なら週末ですし泊まり込みも行けますよこう見えて私ゲーム実況の世界では『ワゴンゲーの姫』と呼ばれているんですああ駄目ですよ教えませんよリアルの知り合いに見られたら恥ずかしくてナイスボートしちゃいますよ」
彼女に執着するあまりストーカーと化してしまっては逆効果だろうしロコ達にも失礼だ。皆でクソゲーでもやって一体感を得ようと提案し、嫌そうな顔をしていてもどう妨害してやろうかと悪い表情をしているロコと、クソゲーと聞いて心を躍らせるワゴンゲーの姫。帰りにコンビニでお菓子を買い込んで、俺の部屋で対戦型ボードゲームを苦行だ苦行だと言いながらプレイしていると、俺の部屋のドアが開く。
「どうした妹よ、うるさかったか? ……って神狩さん、何故ここに」
てっきり妹でも帰ってきたのかと思っていたが、そこにいたのはコンビニ袋を持った神狩さん。自然な流れで輪の中に入って胡坐をかくと、4つ目のコントローラーを手にする。
「……で、どうやるのこれ」
「え? もう3人プレイで始めちゃったから、やり直す必要があるけど。まあ、まだ開始して経ってないしいいか」
「別にいいわ。プレイせずに見てるだけってのも乙なものだろうし」
既に開いていたポテチをつまみながら、俺達がゲームをプレイしているのを眺める彼女。ロコも水草さんも特に気にしていないようだが、正直俺は困惑している。
「……呼んだっけ?」
「まあ酷い。彼女を仲間はずれなんて。大奥じゃあるまいし、現代のハーレムマスターは皆平等に接するべきよ」
「ごめん、今の俺と神狩さんの距離がいまいちわからないんだけど。告白したっけ? してないよね? されてないよね?」
人が告白すべきかされるのを待つべきか、なんて事で悩んでいたというのに、彼女はまるで俺達が既に付き合っているかのような振る舞いをする。彼女は妄想癖でもあったのだろうかと不審がる俺に、彼女はニコリとまともな笑みを寄越した。
「どうせ、『俺から告白するべきなのかな~でも告白されたいな~げへへ』みたいな事を考えてたんでしょ。私も似たようなものだけどね。最終的に私が行きついた結論は、友達付き合いしてて暗黙の了解的な形で自然と恋仲にステップアップするのって青春ぽいわよねという乙女チックなものよ」
「げへへは余計だよ、ていうか乙女チックかなそれ?」
「文句ある? それともデレデレしながら告白されないと気が済まないの?」
少し顔を赤らめながら睨み付けてくる彼女。いや、何のトラブルもなくハーレムの一員に出来たし、文句があるわけではないが、消化不良感がひしひしと。
「えーと……そんな訳で神狩さんが加わったよ、いい?」
「構わないよ、神狩さんは私より性格が悪いらしいからね、私よりね。これでやっと暫定性悪女の称号を捨てられる、けっ」
「いいですねそういう自然な感じなオチも個人的にその手のシナリオで好きなのは付き合ってないのに周りから付き合ってるだろと言われまくって最終的にじゃあ付き合おうか別にいいよって感じでそれからしばらくして付き合う前と対して変わらないなーみたいな」
性格悪い扱いされたのを未だに根に持っていたロコはそう吐き捨てると、ゲーム機をリセットして4人用プレイのセッティングをし始め、水草さんはペラペラと恋愛漫画あるあると語りだす。そんな彼女達を見て、神狩さんがくすくすと笑った。
「……なんか、ハーレムって感じしないわね。ちょっと男女比が偏ってる部活って感じ。……そう、これは恋愛の予行演習のようなものよ。不器用な人間達が、皆で恋愛ごっこして、濃い人生を送って、大人になって行くのよ。私は、そういうスタンスでやってみるわ」
「そっか。まあ、それでも俺は構わないよ。ギブアンドテイクってやつ?」
「恋愛も、心の隙間を埋めあうギブアンドテイクな関係でしかないのかもしれないわね……ま、よろしく」
さあ仕切り直りだ、今度は序盤から攻めてやる……ゲームのセッティングが終わったらしく、クソゲークソゲー言いながらやる気満々なロコが追加のコントローラーを神狩さんに差し出す。彼女がそれを受け取り、友情破壊ゲームによる歓迎会が行われるのだった。




