姦しい連中とのデートの仕方
「き、気持ち悪い……」
「うわあFOEがいますよFOE雷の術式で倒さなきゃスタンガンでも持って来ればよかったです」
「久々ね。最後に来たのはいつだったかしら。外国人ばかりね」
船酔いしているロコ。鹿を見るや否や物騒な事を口走っている水草さん。まともな事を言っている神狩さん。そう、俺達は四人でデートをするべくここ、厳島へとやってきたのだ。
「帰りもあの地獄を味わわないといけないの……? 誰だよここに来ようって言った人」
「お前だよお前。どこに行くか相談したら久々にフライ紅葉が食べたいとか言ってただろうが」
「くっ……そうだった。さあ、そういうわけでフライ紅葉を食べに行こうじゃないか」
「構わないけれど、その状態であんなもの食べたら余計気持ち悪くなるんじゃないかしら?」
気分が悪かろうがスイーツを追い求めなければ女子失格だとよくわからないことを言いながら目当てのお店へとずんずん向かうロコ。そんな彼女について行きながら、残りの二人の様子を見る。水草さんは鹿に出会うや否や写真を撮ったり撫でたりと慌ただしく動き、神狩さんは観光客の外国人を見ては、どこの国の人か推理をしている。気分は彼氏というよりも保護者だ。
「協調性がないわね。特にあのべらべら喋る子」
「え!? 神狩さんがそれを言うの!?」
「私はね。つるまないの。つるめないわけではないの。やろうと思えば協調活動くらい訳ないわ」
「そんな明日から本気出す言ってるニートみたいな事を……」
「あ、鹿せんべいだわ。折角だし餌付けしようかしら」
ロコと水草さんを見て呆れるような表情になる彼女にお前が言うなと突っ込みを入れると、少し俺から目を逸らしてそんな言い訳をかまし、逃げるように鹿せんべいを買って『鹿に餌をあげないでください』と書いてある看板の目の前で餌をやりだす。協調性どころか、彼女はルールを守る意識も薄い。頻繁に授業をサボっている俺が言えた義理じゃないかと自省しているうちに、ロコのお目当てのお店に辿り着いた。
「うっ……脂っこい……吐きそう……」
「揚げたては美味しいですねこれなら何本でも食べられそうですそういえばフライ紅葉って餅鉄にも出てましたよねあれ餅太郎ランドって実在するんだと思ってて岡山に旅行した時に必死に探したんですよ無かったんですけどね」
案の定、油にまみれたお饅頭だなんてヘビーなものを食べてグロッキー状態のロコ。一方の水草さんは強靭な胃袋をお持ちなようで、こしあんにチーズにチョコにと既に3つも平らげている。そんな対照的な二人を眺めながら、神狩さんはのんびりとお茶を飲みながらフライ紅葉の葉っぱを一枚ずつ齧っていた。
「愉快な彼女さん達ね」
「自慢の彼女だよ」
「私は、駄目ね。周りの目を気にしない子に見えるでしょうけど、実際には心の中でセーブがかかっているのよ。常識とか、そういう忌むべきものに囚われているの。鹿に餌をあげたのだって、今更野生に戻そうなんて無理だって思っているからあげたのよ。私と同じ考えの人はたくさんいるわ」
「法律なんて無視してやるぜヒャハーな子なのかと」
「理由もなくルールを無視する程ひねくれた女じゃないわ、多分」
自虐的に微笑むと、最後の葉っぱを千切って店の外をうろついていた鹿にめがけて投げる。お腹が空いていたのか、野良猫の如くそれをガツガツと食べ始めた。神狩さん曰く、鹿への餌やりを禁じた結果、鹿が野生に帰るどころか飢えてその辺のゴミを食べるようになっているそうな。
「だったら理由をちゃんと主張しないと。誤解されるよ? ただでさえイカれた女だと思われてるのに」
「……フィルターをかけていたのよ。自分が特に説明してくれなくても、察してくれるような人こそ、友達として、恋人として大切にするべきでしょう? それを探すためには、フィルターをかけるのが手っ取り早いわ。いちいち説明しないといけないくらいレベルも価値観も違う人と無理に付き合ったって、疲れるだけどよ。……そう思っていたのだけどね」
餌を食べ終えてお礼もせずに去っていく鹿を見送った後、自分がイカれた女と思われているのには理由があると説明し始める彼女。しかしひとしきり話した後、ため息をついてフレディの消えたお饅頭を口に頬張り、お茶でそれを流し込む。そして再びため息をついた。
「この前あなたとデートした時、言ったわよね。知識をひけらかすのが好きなら、多少自分より馬鹿な方がうまくいくんじゃないかって。確かに、私にはそういう面もあったのよ。他人を論破するのも、他人に自慢するのも好きなのよ。……わからなくなったわ。自分より対等な存在と気兼ねのない付き合いをしたいのか、自分より優れた存在に依存したいのか、自分より劣った存在に依存させたいのか。幼馴染か、姉キャラか、妹キャラか」
世のギャルゲーマーがそんな悩みを抱えながらヒロインを選んでいるのかはともかく、彼女は自分のアイデンティティがわからなくなっているようだ。
「探せばいいんじゃない? 世の成人女性も、唐突にアイデンティティを探すために北海道やインドに行くって言うじゃない」
「あれは自分探ししてる自分に酔ってるだけよ、あんなのにはなりたくないわね……」
「ふう、楽になった……さあ、山の頂に向かおうじゃないか!」
彼女が食べ終えた串を近くのゴミ箱にシュートする頃、残りの二人もおやつ休憩を終えたようでロコが急かしてくる。膨れたお腹を程よく消化した頃に山の入り口へ到着。何のためらいも無くロープウェイに乗ろうとするロコの背中を捕まえた。
「……離してよ、優雅な空の旅が私を待っているんだ」
「どうしてお前はそう楽しようとするんだ……ロープウェイで見る景色が美しいと思ってるのか?」
「思ってるよ! ロープウェイで行こうがワープで行こうが同じに決まってるじゃないか! だよね水草さん神狩さん!?」
同意を求めようとするロコだが、行動派の水草さんは準備体操をして登る気まんまん、神狩さんもリュックから折り畳み式のトレッキングポールを取り出している。ここは民主主義の国だとそれっぽいことを言いながら軽く準備運動をすると、リーダー面して俺は山を登り始めた。坂道なんて存在しないかのようにあっという間に俺を抜かして早く早くとこちらを急かす水草さん、淡々と歩く神狩さん。わざとらしく口を膨らませながら、ロコも諦めて男坂を登るのだが、一番最初にガタが来てしまう。
「……待って、もう無理、休憩、休憩しよう」
「おいおい、まだ30分しか経ってないぞ。他の二人を見習えよ、協調性を持てよ」
「協調性なんてクソッタレな言葉で若者の体力を疲弊させるんじゃない! その考えがブラック企業を生むと何故わからないんだ!? あの二人が体力ありすぎるだけなの、私は普通にか弱い女の子なの、アンダスタン?」
息を切らしながらロコが睨み付ける向こう、疲れない歩き方を実践しているらしく平然としている神狩さんと、小動物のように動き回って写真をカシャカシャと撮りながら目を輝かせている水草さん。オタクの癖にアウトドアだ。確かに他の二人を基準にしてしまって、ロコの事を蔑ろにしてしまっていた感はある。新規の彼女にばかり優しくして既存の彼女に優しくしない、携帯会社のような男になるところだった。反省しつつ、ロコを労わりながら着実に山の頂へと向かうこと2時間。ついに俺たちは弥山を踏破したのだ。
「たーまやー!」
「いい眺めね。……本当に私はそう思っているのかしら。山の頂上から見る景色は美しいという固定観念に囚われているのかもしれないわ。真に人間としてステップアップするためには殻を破らなければいけない……た、たま……たまや……」
何故か頂上から花火大会の時に使う掛け声を叫んでいる水草さんと、難しそうな事を呟きながら便乗しようとするが恥があるらしく小声でしか言えない、年相応の女の子らしさ? を持っていた神狩さん。彼女を攻略するだとかそんなやましいこと関係なく、今日はこうして皆でここに来てよかったと心から思う。
「……帰ろう……ロープウェイを使って……帰ろう……」
バテバテになったロコだけが、来たことを後悔していた。




