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プロローグ

なぜ……なぜなの。

この国の令嬢のなかで一番身分が高く、魔力量も豊富で、水と風の二重属性を持つこのわたくしであるのに。

誰にも負けないくらい精巧な魔術が使えるわたくしの方が、絶対に価値があるはずなのに!


なのに……

ただ光属性を持っているというだけの、あの子を選ぶなんて。

エルヴィン様がわたくしじゃない者を選ぶなんて。


*****

『エリーゼ、陛下も君に期待しているんだよ』

『殿下…そんな、私なんてまだまだで、恐れ多いです』

『……エルヴィン、と呼んでくれないか。君にはそう呼んでほしい』

『いけません。アイリーン様がいらっしゃるのに』

『アイリーンは関係ない。私にはエリーゼ、君に側にいてほしいんだ』


***


間違っている。

すべてが間違っている。


だけど今のままではあの子に負けてしまう。

許せない、許せない。

ああ、悔しい!


もっともっとわたくしの価値を上げなければ。


王家にも世間にもわたくしの価値を知らしめれば、陛下も王太子殿下だって、必ずわたくしを選ぶはずよ!


もっと、もっと精進しなければ。


そうよ、あの子よりももっと高みに昇ればエルヴィン様も戻ってくるわ。

そうよ。それには今よりもさらに精巧な魔術が使えるようにならなければ!


光魔術なんか足元にも及ばないくらいのものを…。



「術式廻魔(じゅつしきかいま) 風魔・疾風巻(しっぷうまき)」


足元に展開された魔法陣が淡く翠に輝く。

幾重にも重なる風紋のルーンが高速で回転し、訓練場の砂塵がふわりと浮き上がる

続けざまに詠唱する


「術式廻魔 水魔・迅雨壁(じんうへき)」


蒼い魔法陣が重なるように展開し、空気中の水分が凝縮され、重たい水圧の気配が場を満たすように

学園の魔法訓練場に現れた二重の魔法陣。


ありったけの魔力を叩き込むと

目の前に巨大な竜巻が発生し、地面を削りながら天へと伸びる。

同時に、その前方へ半月状の巨大な水の壁が形成された。


「魔結合・蒼嵐天壁(そうらんてんぺき)」


同時発動した風と水魔術の結合魔術。

結合魔術の使い手は王国でも数人レベルだ。


それぞれの魔術陣がつながり

竜巻の内部を水流が螺旋状に天を駆け上がり、無数の刃と化す。

防御であり、攻撃であり、制圧の術。

水を纏った竜巻が一直線に突き進み、二属性の魔術が共鳴し轟音が鳴ると

訓練場の防御結界を震わせた。


だけど、こんなものではだめよ

これでは光魔術には勝てないわ

どうすればいい?

光に対抗するには、闇しかない。

そうだわ、闇の力を手に入れればあんな小娘など必要なくなるはず。

そうすればきっと殿下はわたくしだけのもの。


わたくしの心が闇に染まるのを感じた直後

一陣の閃光が暗い空に浮かび上がった瞬間、大きな雷鳴が轟いた


「え?」

ここでわたくしの意識がなくなった



****


雷に打たれた私はどうやら一命をとりとめたらしい、

とっさに、結界を張ったせいもあるのだろう

しかしまさか自分のぶち上げた竜巻と水の壁で積乱雲ができたなんて思わないよねー

おかげで、前世を思い出したから、けがの功名ではあるんだけど。


そう…

まさかの異世界転生してるなんてね



落雷を受けた直後、走馬灯のように流れてきたのは別な世界で生きていた高田愛梨という女性の記憶。


普通の社会人として忙しい毎日を過ごす中、寝る前にスマホで漫画や小説を読むことが唯一の楽しみだった。

魔法はないけど科学というものが発達している世界で、この世界より生活水準が高く、高くそびえる建物の群れ、ひしめき合う人が流れるように歩いている街。

満員列車で毎日会社へ向かい、飛び交う罵声とパソコンに向かってひたすら作業をする日々。

そして、目の前が暗くなりやがて意識を失った。


一気に膨大な量の記憶が流れ込み、頭がパンクしたせいか、

はたまた雷に打たれたショックによるものか、

まぁ両方なんだろうけど、私は昏睡状態に陥って10日も目覚めなかったようだ。


当然といえば、当然だわね。

結界を張ったとはいえ、あんな大きな落雷をうけてピンピンしてる方がどうかしている。

普通の人間なら即死である。


まあ、そこで生き延びられるスペックを持つのがこの私、

アイリーン・フォン・ベルモット公爵令嬢である。


絶対安静のなか、部屋のベットで寝たきり生活送っていたけど…、

ようやく少しだけ体が起きられるようになって、侍女に渡された鏡を見てびっくりしたわー。


艶のある眩しいくらいの金髪、

すっきりとした鼻と厚みのあるふっくらした唇、

ルビーのような赤い瞳はやや吊り上がっているが顔のバランスにマッチしている。

若干やつれてはいるけど寝たきりだった割には、肌艶はみずみずしい。


いや何この美少女…、これが私なの?


だけど、なんだか見覚えあるわー。

誰だっけ?


あ、はまっていたマンガに出てくる娘だ

あれだ、曰くヒロインの邪魔ばかりする…


「まさか、闇落ち悪役令嬢に転生してるなんてね」




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