50 見つからないなら
いない。
誰もいない。
広い、一部壊れた闘技場に俺ひとり。
耳を澄ますと、逃げていく観客の声が聞こえる。
そうか。
俺をどかすのが無理なら、他の全員がどこかに行けばいいじゃない、の発想か。
なるほど。
「いやいや」
どうしたら、どうしたら、どうしたら?
たぶん、レスラーさんたちは殺されたりしないと思うけど。
アイ国にはA級がたくさんいるんだろうから、殺すほど脅威ではないはず。単純に、ワガ国との交渉をするのに、なにか便利に使うための人間として……、情報を得たり、人質とか? にするんだろう。
じゃあ、これからどうなる。
ワガ国で残った人たちを集めて、王の代わりを立てて、それでうまくやっていくにはどうするか、みたいな感じにするのか。
企業買収みたいな感じだと、アイ国から何人か、この国を管理するための人たちが派遣されてきて、実質、その人達の言いなりとなってしまうんだろう。
エクサミさんとか、センシャさんは、ワガ国の人たちに対する広告塔みたいになるんだろうか。
「うーん」
センシャさんに助けを求めるか?
でも、会いに行ったら協力してもらえるだろうけど、協力してもらってもアイ国側に気づかれたら、今度はセンシャさんが連れていかれるだけ、という気がする。
だったらお客さんを誘導してもらったほうがいいだろう。
どうしよう。
いますぐなにか終わりを迎えるというわけではない、気がするけれど。
でもこのままだと事態が進行してしまう。
この国が終わってしまう。
平和を目指した国が終わってしまう。
それはだめだ。
俺がアイ国ではなく、この国にやってきたのは、この国を守るためだ。
なんて言ったらかっこよすぎるけど、でも、なんの理由もないわけじゃないはずだ。
ワガ国の考え方を知るレスラーさんに気に入られたからここにいる、ともいえるわけだし。
弱肉強食の世界になってしまったら、俺は生き残れそうな気はするけれども、きっと見たくないようなものを見せられることになるだろう。
生きてて楽しくないような気になったり、こんなんじゃだめだって思わされたり。
結局、平和じゃなきゃ! って。
そう考えるんだったら、いまだろ。
あとから、もっと強力な敵を相手にするんじゃなくて、なんとかなりそうな、いま!
でも、みんながどこに行ったのかがわからなければどうしようもない。
みんなはどこに行く?
どこでもいいのだろう。それが困る。
今後のことを考えるのに城に行くなんてわかりやすいことはしないだろう。
人はあまりいないところだろうが。
でも探しようがない。
レスラーさんたちだって、俺に知らせたいだろうけれど、変な動きもできないだろうし。
じゃあどうする。
……。
そうか。
探さなければいいんだ。
俺はロープから伝わる力を利用して走り出す。
例のやつだ。路地でアイ国の女性に捕まりかけたときのやつ。相手を勝手に捕まえるやっかいなやつ。
俺は、勝手に捕まえるロープを自分に巻きつけておくことで、常にそこからダメージを受けるというやり方を採用した。俺にとっては、力に変換される。力が供給されるマシーンだ。
おかげで、誰かから力を与えられなくても、A級としてはそれなりの力が出る。
走る。
ギュンギュンと、自力とは思えない一歩一歩の力だ。
こんな速度で驚いてたら他のA級に笑われるかもしれないが、原付きとか、そういうものの感覚だ。
人力では考えられない。
慣れたら、さらに速度が出そうだし。
近くの扉を開け、走って闘技場を出る。
外にはたくさんの人がいた。
走って、誰彼構わず声をかけた。
「馬車、知りませんか! 馬車! すごく速い馬車! 馬車が出るところ知りませんか! すごく急いでるんです! 知りませんか!」
しばらく大声を出していたら。
「馬車乗り場はあっちだよ」
俺は頭を下げ、おじさんが指した先に向かって走った。
そこにいた人に向かって行くと、びっくりして逃げ腰になっていた。
「あの、あやしいものではないんです! アイ国に、至急行きたいんですけどいいですか! 一番速い方法で! 支払いはこれで!」
VISAで、ではなくA級の証を見せる。
いけるか……?
「もちろんかまわんが、いつだ」
「いますぐ! 人の命がかかってるんです!」
「よしきた」
まだちょっと引き気味だったが、馬車のおじさんはテキパキ用意すると、なんかちょっと変わった形の馬車に乗るよう言った。
二頭立てで、乗るところが箱型じゃない。
バイクのサイドカーみたいなやつがならんでいた。
そこに、俺と、御者のおじさんがならんで乗る。
「変わってますね」
「速さはまかせろ」
おじさんが言うと、馬車は通りを、他の人に迷惑な速度で走る。
「危ないですよ! 危ないですよ!」
俺は叫びながら近くの人をどかして突っ走る。
大壁の門番には証を見せて、外に出た。
「いつごろ着きますか!」
「んなことはどうでもいい! つくかつかないか! それがおれの流儀だ!」
「おお!」
かっこいいようでいて、まったく客の質問に答えていない。
迷惑だ!
とにかく、街道を馬車が突っ走る……!
……!!
馬車が急停車した。
「おい、なんだあんた!」
街道には、アイ国の王子が現れていた。
横の方、草原には、大男、殺し屋、浪人生、問題ありそうな美女と。
レスラーさん、エクサミさん、リープさんたちがいた。
「あ、どうも」
俺は馬車から降りた。
「お客さん?」
「会いたかった人たちが来てくれたんで、もうだいじょうぶです! 本当に助かりました! 死人が出なくなりそうです! あ、支払いはあそこの、A級のエクサミさんがしてくれますんで」
「はあ? はあ」
「ありがとうございました!」
馬車のおじさんは、なんだかわからないという顔で門にもどっていった。
「また会いましたね」
「ああ騒がれてはね」
アイ国に行くとさわいで国を出れば、きっと彼らの耳に届くと思ったのだ。
こんなに早いとは思わなかったけれども。
俺がアイ国に行くと聞いたらきっと、冷静ではいられないだろう。
だって、俺がアイ国をめちゃくちゃにするかもしれないんだから。
これがワガ国の分! とか言いながら、大量破壊をしてしまうかもしれない。
レスラーさんたちなら、俺がそんなことをするとは思わないかもしれないけど、きっと彼らはちがう。
俺がやるかもしれないと考える。
この国を手に入れても、アイ国がめちゃくちゃになったら差し引き、マイナスだろう。
「アイ国に手を出さないから、ワガ国には手を出さないでください、っていうのは、どうですか?」
俺は言ってみた。




