46 交渉
「どうも」
王子が言うと、中にいた人間がぎょっとしたようにこっちを見た。
部屋の人間は六人いた。
奥にベッドがあり、そこに座っているワガ国の王と、横に白い服の男二人。
手前にはソファとテーブルがあり、その近くに立っているのは軽装ながら武装している男が三人。
腰に剣をさげている。
見るかぎり、ここは王専用の控室かなにかだろうか。
窓の外にはワガ国の町並みと、城壁が見えた。
まだ闘技場の中だろう。王の観覧席に近い高さの部屋だ。
「誰だ!」
兵士たちが剣を抜く。
やみくもに向かってくるわけでもなく、二人が左右に展開しつつ、中央の男が剣を持っていない左手でなにか懐を探っていた。飛び道具だろうか。
A級くらいの力はありそうだ。
「さがっていい」
王は言った。
「ですが」
「彼はアイ国の王子だ。『戦争』にもエントリーしているだろう?」
「ですが」
「おそろいで。そちらに、エクサミたちが行きませんでしたか?」
「さあ。行き違いになってしまったのかもしれませんね」
王子は言った。
「『戦争』が急に中断されてしまってどうしたのかと思いまして、王の様子をうかがいに」
「わざわざ全員で、様子を見に来たと?」
「王になにかあった、と大きな声で言っている人もいましてね。大事な王になにかあっては、と」
王子が言うと、ワガの王はうなずく。
「実は、殺されかけました」
王は首元に貼ってある白い布を見せる。
「殺されかけた?」
「薄皮を切られただけですが、ここを切られ」
王は布をはがしてみせた。
首に、うっすらと赤い筋が見える。
ここ目がけて剣を振れば、上手に首をはねられますよ、と導いているみたいに見えた。
「それは一大事ですなあ。大事な同盟国の王の命を狙うとは、大変なことです」
「ええ」
王はかんたんにうなずいた。
「我々にも、なにかできることがありますか」
「あります」
「なんなりと」
「では、そこの」
王はスレインに人さし指の先を向けた。
「彼の首をはねよ」
「……なにをおっしゃいますか」
「そして自刃せよ」
王は続けた。
「もう、調べはついている。素直に認めればともかく、そうでないなら指示役の王子の命ももらわねばならない」
「なにをおっしゃっているのか、まるでわかりませんが」
「エクサミ、レスラー、ナガレ、リープ。すべて殺したのだろう? ついさっき会ったはずなのに言わぬとはそういうことだろう。そこまでされては、ただで帰すわけにはいかない。悲しいことだが」
「ま、待ってください」
王子は大げさに言う。
「どうやら誤解があるようだ。彼らの命は奪っていませんよ。彼らも誤解がひどいようでしたので、逃げただけです。待っていれば、じきに、ここに来るでしょう」
「信じられん」
「信じたくなくても、彼らはやってきますよ。それにスレインが王様を殺そうとしたというのも、ひどい誤解だ。エクサミさんたちから聞きましたよ。彼が暗殺者に似ていたと。しかし似ていただけで断言するのはおかしいでしょう。それとも、そうですね……。たとえば、暗殺者がケガをしていたとか、そういうことはないんですか? 無事に逃げた?」
王子が言うと、近くの兵士がすこし表情を変えた。
「もし、ケガをしていたとか、そういうことがあるなら、このスレインの元気な姿が、なにより、無実の証拠になるのではと思ったのですが。いかがでしょう。スレイン」
「はい」
スレインは、身軽に逆立ちをして見せた。
王子はすでに、方針を変えている。
「それになにより、我々には、王を殺す必要がない。しっかりと協力関係を築いた。それを崩すようなことをしますかね?」
同盟関係を強調している。
そうだ。
こちらとしては、愛しの彼、のせいで『戦争』で大敗するかもしれないと感じて暗殺に切り替えたが、暗殺が必須、ということでもない。
今回の『戦争』をうやむやにできるなら、逆に、いままでの同盟関係にもどしたほうがかんたんだ。
もはや国力の差は明らかなのだから。
『戦争』をうやむやにすれば、元の、アイ国に吸収されるワガ国、という図式にもどるだけだ。
いますべきは、暗殺の強行ではなく、同盟の強調だ。
「あくまでそう主張するか」
「では、エクサミさんたちがここに来たら、信じていただけますか?」
王子は言った。
「こう言ってはなんですが、彼らを始末することなど、造作もない。国力の差だけではなく、個々の差も大きい。しかし我々は、彼らを殺したりはしていない。なぜなら、信頼関係が築かれているからです。いかがです、王よ」
王子は笑顔を浮かべた。
ワガ国の人間に被害がなければ、同盟、が存在感を増してくるだろう。
アイ国はなにより、平和、がほしいのだから。
暗殺の件を強調して両国の間が悪くなるより、なにもなかったのだ、とすべてを飲み込んでしまえ。
王子はそう言っている。




