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46/60

46 交渉

「どうも」


 王子が言うと、中にいた人間がぎょっとしたようにこっちを見た。


 部屋の人間は六人いた。


 奥にベッドがあり、そこに座っているワガ国の王と、横に白い服の男二人。


 手前にはソファとテーブルがあり、その近くに立っているのは軽装ながら武装している男が三人。

 腰に剣をさげている。


 

 見るかぎり、ここは王専用の控室かなにかだろうか。

 窓の外にはワガ国の町並みと、城壁が見えた。

 まだ闘技場の中だろう。王の観覧席に近い高さの部屋だ。

 

「誰だ!」

 兵士たちが剣を抜く。


 やみくもに向かってくるわけでもなく、二人が左右に展開しつつ、中央の男が剣を持っていない左手でなにか懐を探っていた。飛び道具だろうか。

 A級くらいの力はありそうだ。


「さがっていい」

 王は言った。


「ですが」

「彼はアイ国の王子だ。『戦争』にもエントリーしているだろう?」

「ですが」

「おそろいで。そちらに、エクサミたちが行きませんでしたか?」

「さあ。行き違いになってしまったのかもしれませんね」

 王子は言った。


「『戦争』が急に中断されてしまってどうしたのかと思いまして、王の様子をうかがいに」

「わざわざ全員で、様子を見に来たと?」

「王になにかあった、と大きな声で言っている人もいましてね。大事な王になにかあっては、と」

 王子が言うと、ワガの王はうなずく。


「実は、殺されかけました」

 王は首元に貼ってある白い布を見せる。


「殺されかけた?」

「薄皮を切られただけですが、ここを切られ」

 王は布をはがしてみせた。


 首に、うっすらと赤い筋が見える。

 ここ目がけて剣を振れば、上手に首をはねられますよ、と導いているみたいに見えた。


「それは一大事ですなあ。大事な同盟国の王の命を狙うとは、大変なことです」

「ええ」

 王はかんたんにうなずいた。


「我々にも、なにかできることがありますか」

「あります」

「なんなりと」

「では、そこの」

 王はスレインに人さし指の先を向けた。


「彼の首をはねよ」

「……なにをおっしゃいますか」

「そして自刃せよ」

 王は続けた。


「もう、調べはついている。素直に認めればともかく、そうでないなら指示役の王子の命ももらわねばならない」

「なにをおっしゃっているのか、まるでわかりませんが」

「エクサミ、レスラー、ナガレ、リープ。すべて殺したのだろう? ついさっき会ったはずなのに言わぬとはそういうことだろう。そこまでされては、ただで帰すわけにはいかない。悲しいことだが」

「ま、待ってください」

 王子は大げさに言う。


「どうやら誤解があるようだ。彼らの命は奪っていませんよ。彼らも誤解がひどいようでしたので、逃げただけです。待っていれば、じきに、ここに来るでしょう」

「信じられん」

「信じたくなくても、彼らはやってきますよ。それにスレインが王様を殺そうとしたというのも、ひどい誤解だ。エクサミさんたちから聞きましたよ。彼が暗殺者に似ていたと。しかし似ていただけで断言するのはおかしいでしょう。それとも、そうですね……。たとえば、暗殺者がケガをしていたとか、そういうことはないんですか? 無事に逃げた?」


 王子が言うと、近くの兵士がすこし表情を変えた。


「もし、ケガをしていたとか、そういうことがあるなら、このスレインの元気な姿が、なにより、無実の証拠になるのではと思ったのですが。いかがでしょう。スレイン」

「はい」

 スレインは、身軽に逆立ちをして見せた。


 王子はすでに、方針を変えている。


「それになにより、我々には、王を殺す必要がない。しっかりと協力関係を築いた。それを崩すようなことをしますかね?」


 同盟関係を強調している。


 そうだ。

 こちらとしては、愛しの彼、のせいで『戦争』で大敗するかもしれないと感じて暗殺に切り替えたが、暗殺が必須、ということでもない。


 今回の『戦争』をうやむやにできるなら、逆に、いままでの同盟関係にもどしたほうがかんたんだ。

 もはや国力の差は明らかなのだから。

 『戦争』をうやむやにすれば、元の、アイ国に吸収されるワガ国、という図式にもどるだけだ。


 いますべきは、暗殺の強行ではなく、同盟の強調だ。


「あくまでそう主張するか」

「では、エクサミさんたちがここに来たら、信じていただけますか?」

 王子は言った。


「こう言ってはなんですが、彼らを始末することなど、造作もない。国力の差だけではなく、個々の差も大きい。しかし我々は、彼らを殺したりはしていない。なぜなら、信頼関係が築かれているからです。いかがです、王よ」

 王子は笑顔を浮かべた。


 ワガ国の人間に被害がなければ、同盟、が存在感を増してくるだろう。

 アイ国はなにより、平和、がほしいのだから。


 暗殺の件を強調して両国の間が悪くなるより、なにもなかったのだ、とすべてを飲み込んでしまえ。

 王子はそう言っている。

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