45 無視
「手錠をした人が身体検査をするとは、おもしろいことを言いますね」
王子は笑う。
笑っているが、声だけで、楽しげではない。
全裸の男が真顔で立っていたら誰でもそうか。
わたしもそう。
全裸の人も笑っててくれたら愛想笑いくらいできるけれど。
「平和ですね。実に平和だ」
王子は言う。
「自分にやましいところがないから、相手もそれを認めてくれると考える。平和ですね」
ということは殺すか。
エクサミが武装解除しているというのは大きい。
レスラーと彼しかいないのなら、特殊な攻撃方法もなさそうに思える。
センシャがいないのは王の護衛だろうか。
ちょうどいい。いまならやれる。
愛しの彼は倒せないだろうけれど、この場に拘束するか、それができなくても置き去りにすればいい。
あまり積極的に速く動いたり、攻撃を仕掛けてきたり、できないように見える。
もうこの時点から『侵略』に入ったほうがよさそうだ。
彼は動き自体は速くない。全力を出していないことは注意しなければならないけれど、積極性がかなり薄い。
エクサミを殺り、わたしが苦痛でレスラーの動きを落としている間に。
「では、我々も、そちらの流儀に従いましょうか」
「え?」
誰ともなく、王子の言葉をききかえした。
「身体検査、していただいて結構ですよ」
「ボス、いいんですか」
スレインが真剣な顔をする。
「それはそうだ。我々だって、平和を求めているんだよ。ただし、ワガ国とはちがうというだけでね。殺し合いをしたいわけじゃないんだ。利益を求めて、ワガ国と手を組む。それは、みなさんもおわかりですよね? アイ国の利益につながるようにしたい。利益を求めるというのは、平和だ。戦いでは即座に死んでしまう人も、ゆっくり死んでいく。死にながら、死なずに逆転することもできる。実に平和だ。そう思いませんか」
「こちらはもっと、安心して暮らせる平和をのぞんでいる」
エクサミが言う。
「そこはそれだ。多少の考え方のちがいは出てくる。仕方ないことですよ。そちらの平和だってきっと、それが当たり前になれば、どこか、こんなことは平和じゃない、という人が出てくる。かならずね。どこまでいってもそうなんです。ほどほどの平和、そこそこの平和、かなりの平和、完全な平和。殺し合いをしていたときには見えてこなかった、たくさんの平和が見えてくる。もっと平和を、もっと平和をと、求め続ける。あなたがたは、アイ国を、利益を求める愚か者だと思っているでしょう?」
「そんなことはないですよ」
「しかしね。平和を求め続けた先にあると、あなた方が考えているのは、空想の、笑顔の生活ですよ。そんなものはあなたたちの頭の中にしかない」
王子はにやりとした。
「空想の中に暮らす。大変けっこう! しかし空想の中で暮らしているのだと、自覚しているかどうかは重要ですね! ちゃんと知っておくべきだ。平和を求めていく先にあるのは、平等だ。統一だ。同一だ。とか言いながら平和で争うことになると」
「……もうよろしいですか。身体検査をさせていただいても」
「ああすみませんね! ついつい、話が長くなってしまって。では、どうぞ」
「失礼します」
と歩いてこようとしたエクサミだったが。
「そうそう、忘れてました。スレイン、手錠はあるか」
「はい」
スレインはカバンを持ってやってくる。
王子はそちらに向き直り、エクサミに背中をさらした。
そのスキに から手錠と足錠を出す。
「いいですか?」
「こちらから言ったことです」
「では」
王子はエクサミに投げた。
「動きが取れないよう、きちんとやってください」
「わかりました」
エクサミはおとなしく、手足に金属の輪をかけていた。
終わると、手足を拘束されて立っている姿は、囚人のように見えてくる。
「外れませんね?」
「はい」
エクサミは大きく腕を動かした。
たくましい腕で振られても、手錠はびくともしない。
あまり光を反射しない変な金属だった。
「じゃあクロノ。やってくれ」
王子が言った。
一瞬あと、わたしたちは闘技場の入り口にいた。
王子、スレイン、ベルガル、わたし、そしてクロノだ。
エクサミの脱いだ服と特級の剣はクロノが持っていた。
「剣をくれ」
王子は受け取ると の中に入れた。
「よし、コレクションが増えたぞ。もうあの手錠は外れない。一番面倒なエクサミは無力化した。もう遠距離攻撃はない。体力が二人、小物がひとり、あとは面倒な男がひとり」
彼のことだ。
「ボス、他のやつらは殺させなかったんですかい?」
「ああ、そのままあそこにいる。そうだろう?」
王子が言うと、クロノはうなずいた。
「どうして殺さないんです?」
「いままでどうして、オレはワガ国のA級をアイ国に移してきたと思う?」
「この国を弱らせて、うちの国を強くするためでしょうよ」
「弱らせるほうがメインだ。ああいう、平和がどうのこうのいうやつらはな。殺したりすると面倒くさいんだよ。おかしな決意をして、変に力を出す。だから変に追い込まないほうがいい。それにいかにも、殺してくださいと言わんばかりだった。やはりなにかたくらんでいるな」
「なんです?」
「わからんが、時間をやらないほうがよさそうだ。王の場所はわかるか」
クロノはうなずいた。
「よし。王だけ殺す」
「あいつらが追ってくるんじゃあ?」
「そうだな」
王子は から赤い靴を出すと、通路に放り投げた。
すると落ちたところで、赤い靴から人が現れ、立ち上がった。
「なんですかあれ」
わたしは言った。
「やつら、靴の人間が人間性がなくなった姿を知らないだろう。前回より人間性がなくなっていたとしたら、時間稼ぎによさそうだ。時間はかからないがな。行くぞ。クロノ、やってくれ」
クロノはうなずいた。




