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44/60

44 容疑

「そいつらは、その犯人以外は、ベンチと控室以上、外には行ってないぜ」

 リープ、という男は言った。


 スレインは王子を見る。

 王子はまっすぐリープを見ていた。


「どうして生きてるんだ? って顔だな」

 リープはにやりとした。


「どこかでお会いしましたかね」

「ふん、白々しい。おれは見てたんだぜ? お前」

 リープはスレインを指した。


「階段で襲われただろう? とてつもなく動きの速いやつに」

「さあ」

「顔を変えるなにかを持ってたみたいだけどな、顔を隠したつもりだったみたいだがな! 一瞬見えたぜ。お前の顔。死ぬかもしれないとおびえた、お前の顔だ!」


 なんだ、やっぱりスレインは見られていたんだ。


「言っていることの意味がわかりませんね」

 王子は言った。


「あなた。リープさんでしたか? あなたはいったい、どういう人です? ワガ国との関係は?」

「お、おれは、この国に協力するために来た者だ」

「ではA級?」

「そうだ。まだ認定は受けていないがな!」

「今回の『戦争』に参加することもできなかったということですね。あまり重要な立場ではなさそうですが」

「なに!」


「そう主張されるのはわかりました。ですが率直に言わせてもらえば、そちらが我々をよく思っていないということで、いい加減なことをおっしゃっているのではないかと。言いがかりではないかと。そう感じましたね」

「失礼では?」

 エクサミは言った。


「かもしれませんが、どうでしょう。やってもいないことをやったと言われることのほうが、失礼だと思いますがね。王の暗殺容疑でしょう? こちらとしても黙っているわけにはいきませんので」

「あんたら、赤い靴を持って帰ったよな」

 リープが言う。


「赤い靴は、おれの血を吸って、おれの残響が意思を持っていた。それと戦ってたんだよ。おれであって、おれではない、おれのようなものとな。一回か二回、復活したんじゃないか? その赤い靴、どうした? 他の場所に捨ててきたか? いやちがうな」

 リープが王子を見ている。


「お前が持っている。おれの、一部が吸い取られたからわかるぜ。お前から感じる。赤い靴は、まだおれの残響を含んでいる。それでお前が持っているな」

 リープは王子を指した。


 赤い靴というのがなんだか、わたしにはわからない。比喩なのか、そういう物なのか。

 ただ、おそらく王子は  の中に入れている。

 

「失礼なことを言う人だとはわかりましたが、仮にも、王子に対してお前お前と言うのは感心しませんね」

 王子は言った。

「失礼しました」

 エクサミは頭を下げる。


 そして上げた顔。

 目は、いまにも剣を抜きそうに見える。


 ぴりぴりと、空気が緊張した。


「ですが、こちらも不確実な情報でここまで来ているわけではないのです。身体検査をさせていただけますか?」

 エクサミは言った。


「身体検査?」

「それでなにも出なければ、こちらも納得します」


 リープという男の主張がどれだけ本当のことかはわからないが、とにかく、なんらかの確信があるようだ。

 

「そんな不確かな理由で身体検査をされてはたまらない。身体検査にかこつけて、殺害する気ではないでしょうね」

 王子が言うと、あちら側の人間の眉間にしわが寄る。


「なんだと」

 とリープ。


「当然でしょう。こちらに、王の暗殺容疑をかけているわけでしょう? そんなことを考えるということは、あなたたちは、暗殺ということを頭に入れているわけだ。要するに、あなた方は、なんだかんだと言って、逆に暗殺を決行しようとしているだけではないのか、そう申し上げているわけですよ」

 王子は堂々と言う。


 当然、王子は身体検査なんて受けるわけはない。

 ここで容疑をかけられるよりも、  の存在が知られる方が大事だ


 そんなことを受け入れるくらいなら、エクサミ、レスラーを殺し、彼はどうにか助けてもらって、この国を脱出する。

 そのほうがいいくらいだ。


「では、確たる信頼を得られれば、身体検査を受けていただけると?」

「確たる信頼などありますかね」

 王子が言う。


 エクサミは、剣を外して床に置いた。


 それだけでは、というようなことを王子が言いそうになったとき。


 エクサミは、身につけていた鎧や、服を脱ぎ始めた。

 すべてを脱ぎ捨て、裸足で、しっかりと立って王子を見た。


「いかがでしょうか。手錠でも足錠でも、身体検査を行えるようにしていただけるなら、自由に拘束してもらってかまいませんが。満足するまでどうぞ」

 エクサミは手を広げた。

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