44 容疑
「そいつらは、その犯人以外は、ベンチと控室以上、外には行ってないぜ」
リープ、という男は言った。
スレインは王子を見る。
王子はまっすぐリープを見ていた。
「どうして生きてるんだ? って顔だな」
リープはにやりとした。
「どこかでお会いしましたかね」
「ふん、白々しい。おれは見てたんだぜ? お前」
リープはスレインを指した。
「階段で襲われただろう? とてつもなく動きの速いやつに」
「さあ」
「顔を変えるなにかを持ってたみたいだけどな、顔を隠したつもりだったみたいだがな! 一瞬見えたぜ。お前の顔。死ぬかもしれないとおびえた、お前の顔だ!」
なんだ、やっぱりスレインは見られていたんだ。
「言っていることの意味がわかりませんね」
王子は言った。
「あなた。リープさんでしたか? あなたはいったい、どういう人です? ワガ国との関係は?」
「お、おれは、この国に協力するために来た者だ」
「ではA級?」
「そうだ。まだ認定は受けていないがな!」
「今回の『戦争』に参加することもできなかったということですね。あまり重要な立場ではなさそうですが」
「なに!」
「そう主張されるのはわかりました。ですが率直に言わせてもらえば、そちらが我々をよく思っていないということで、いい加減なことをおっしゃっているのではないかと。言いがかりではないかと。そう感じましたね」
「失礼では?」
エクサミは言った。
「かもしれませんが、どうでしょう。やってもいないことをやったと言われることのほうが、失礼だと思いますがね。王の暗殺容疑でしょう? こちらとしても黙っているわけにはいきませんので」
「あんたら、赤い靴を持って帰ったよな」
リープが言う。
「赤い靴は、おれの血を吸って、おれの残響が意思を持っていた。それと戦ってたんだよ。おれであって、おれではない、おれのようなものとな。一回か二回、復活したんじゃないか? その赤い靴、どうした? 他の場所に捨ててきたか? いやちがうな」
リープが王子を見ている。
「お前が持っている。おれの、一部が吸い取られたからわかるぜ。お前から感じる。赤い靴は、まだおれの残響を含んでいる。それでお前が持っているな」
リープは王子を指した。
赤い靴というのがなんだか、わたしにはわからない。比喩なのか、そういう物なのか。
ただ、おそらく王子は の中に入れている。
「失礼なことを言う人だとはわかりましたが、仮にも、王子に対してお前お前と言うのは感心しませんね」
王子は言った。
「失礼しました」
エクサミは頭を下げる。
そして上げた顔。
目は、いまにも剣を抜きそうに見える。
ぴりぴりと、空気が緊張した。
「ですが、こちらも不確実な情報でここまで来ているわけではないのです。身体検査をさせていただけますか?」
エクサミは言った。
「身体検査?」
「それでなにも出なければ、こちらも納得します」
リープという男の主張がどれだけ本当のことかはわからないが、とにかく、なんらかの確信があるようだ。
「そんな不確かな理由で身体検査をされてはたまらない。身体検査にかこつけて、殺害する気ではないでしょうね」
王子が言うと、あちら側の人間の眉間にしわが寄る。
「なんだと」
とリープ。
「当然でしょう。こちらに、王の暗殺容疑をかけているわけでしょう? そんなことを考えるということは、あなたたちは、暗殺ということを頭に入れているわけだ。要するに、あなた方は、なんだかんだと言って、逆に暗殺を決行しようとしているだけではないのか、そう申し上げているわけですよ」
王子は堂々と言う。
当然、王子は身体検査なんて受けるわけはない。
ここで容疑をかけられるよりも、 の存在が知られる方が大事だ
そんなことを受け入れるくらいなら、エクサミ、レスラーを殺し、彼はどうにか助けてもらって、この国を脱出する。
そのほうがいいくらいだ。
「では、確たる信頼を得られれば、身体検査を受けていただけると?」
「確たる信頼などありますかね」
王子が言う。
エクサミは、剣を外して床に置いた。
それだけでは、というようなことを王子が言いそうになったとき。
エクサミは、身につけていた鎧や、服を脱ぎ始めた。
すべてを脱ぎ捨て、裸足で、しっかりと立って王子を見た。
「いかがでしょうか。手錠でも足錠でも、身体検査を行えるようにしていただけるなら、自由に拘束してもらってかまいませんが。満足するまでどうぞ」
エクサミは手を広げた。




