40 ペインゴッドという女
わたしは男の人が好き。
だってみんなわたしのことを、かわいいかわいいって言ってくれる。
きれいだきれいだって言ってくれる。
女の子たちは言ってくれない。
ここがだめ、あそこがだめって言う。
それもわたしのいないところで言う。
きたないきたないって言う。
すっかり汚れているって言う。
男の人に汚されて喜んでるって言う。
おかしいな。
わたし、男の人に汚されてなんていないのに。
汚されているのはみんなのほうなのに。
聞いていたら、みんなはそう。
体の表面をさわられて。
体の内臓までさわられて。
ひとつになったと喜んでる。
永遠なんだと喜んでる。
とっかえひっかえ喜んでる。
おかしいな。
おかしいな。
ほんとはわたしもうらやましい。
男の人にさわられたい。
みんなみたいに汚れたい。
男の人はみんな言う。
わたしを好きだとみんな言う。
一緒にいたいとみんな言う。
でも男の人は言う。
気持ち悪いとみんな言う。
頭が痛いとみんな言う。
吐き気がするとみんな言う。
痛くて痛くてたまらない。
みんなみんな、みんな言う。
だからわたしは肌を出す。
脚を出して、胸元を出して。
するとみんな大喜び。
離れたところで大喜び。
もっと見せて、もっと見せて。
さわりたくないけどよく見せて。
近づかないで、よく見せて!
「ペインゴッド。待たせたな」
扉が開いて、王子たちがアイ国側ベンチにやってきた。
でもわたしとクロノが待っているベンチへ歩いてくるのは、王子とベルガルだけだ。
スレインは扉の陰で、ワガ国側に見られないよう立っている。
「なにかあった?」
わたしが言うと、スレインが肩をすくめる。
「潜入して、交戦した。倒したが、それが誰かに見られていた可能性がある」
「へたくそ」
「お前の言うとおりさ。だがまあ、王の棺は使ってなさそうだし、ちょっと殺ってくる」
「別行動?」
「できるだけアリバイを確保しながら、殺せるようにしてくるぜ」
「わたしがやることは変わらないんでしょ。見世物になってくるだけで」
「そうだな」
王子は言った。
「……倒してもいいの?」
「もちろん」
王子は言う。
「だが、やつの耐久度からすれば、苦しむだけで倒すところまではいかないだろう」
「そう思う」
「いや、お前の力を信じていないわけじゃないが、相性の問題で」
「わかってる」
わたしは言った。
気を遣っているような言葉をならべられたところで、王子が本当にわたしを気遣っているわけでもない。
でも気を遣われるのが好きだと知っている。
こうすれば転がせると知っている。
スレインの暗殺のほうが気になっているくせに。
「じゃあ行ってくる」
とスレイン。
「ああ、クロノ。もしおれがミスって、こっちからやれそうだったら、合図を出す。お前がやってくれるか」
「わかった」
クロノはまっすぐ武舞台の方を見ながら言った。
気づけば、スレインは姿を消していた。
「ナガレ、スレイン、両名武舞台へ」
一瞬、なんのことかわからなかったが、すぐわたしの名前がスレインになったという設定を思い出した。
審判の呼び出しに従い、武舞台に上がった。
わたしは、胸や、腰回りなど要点を隠しているものの、肌が大きく露出した服を着ている。
歩くたびに、瞬間的な肌面積が増えるような、そういう動きのあるデザインの服を着ている。
すでに指笛が吹かれたり、視線がわたしに集まっているのを感じていた。
男の人たちが熱くなっている。
それを感じるほどに、わたしは冷めていった。
動物の前で裸になったところで、なにか感じるだろうか。
そういうことだ。
わたしと彼らには、接点はない。
鳥が鳴いている。
やかましい鳥だ。
「はじめ!」
審判の声と同時に、わたしは歩きだした。
相手はとまどったようにわたしを見ている。
わたしがただ歩いていくと、ゆっくりさがる。
「どうしたの」
「いや……」
わたしの顔を見ている。
体を見ないようにしているようだ。
「女が嫌いなの?」
「いや」
「じゃあ、見ないように気を遣ってくれてるの? 優しいのね」
「えっ」
彼はさらにとまどったようにした。
異物というよりは、ちゃんとわたしを女として見ているようだ。
わたしはすこし歩調を上げて、彼のふところに飛び込んだ。
手を彼の胸にそえて、体の前側を密着させる。
力を入れていなかったせいか、彼も振り払わずにいた。
「これでもまだ、わたしに優しくできる?」
わたしが言うと、彼はきょとんとしていた。
「な、なにがでしょうか」
「え? ……痛いでしょう? 体中が」
「痛くはないですけど」
「え? え? え?」
痛くない?
やせがまん?
でも、彼も体に力が入っていないみたいだ。
腕をさわっても、お腹をさわっても、ぷに、ぷにと。
力が入っていない。
「どうして?」
「どうしてって……」
「わたしといても、痛くないの? 苦しくないの?」
「いや、はあ。その、やわらかいとかは、感じますけども、あ、これはセクハラではないと思うんですけども、はい」
彼は早口でなにか言っていた。
「わたしを、平気な、男の人……」
とくん。
わたしの胸が高鳴った。




