34 別案
武舞台にもどったベルガルは、やつと向かい合う。
動かない。
さっきまでの激しさから一転して、静まり返る。
ベルガルはいつでも突進できるような、前傾姿勢を保っていた。
一方、やつは棒立ちだ。
なにもするつもりがなさそうに見える。
「返し技が主体だとすると、このまま見てなきゃいけないの?」
ペインゴッドは脚を組み替えた。
「しばらくは」
「帰っていい?」
「冗談だろ」
「冗談だけど、退屈なのは嫌」
「審判に、戦う意志がない相手はなにか言ってもらえるんじゃないか?」
ちょうど、審判に立っていた男がジェスチャーで、手を広げ、クロスするように大きく動かした。
だが両者動かない。
客席がざわつき始める。
お見合いを見に来たんじゃねえぞ! なんていう声も聞こえた。
「お上品な客だ」
「うちの国のバカだろう」
スレインが笑う。
「それで?」
ペインゴッドが気だるそうに言う。
「ベルガルに、寸止めでもやってもらうか」
指示を出すと、ベルガルは、フットワーク軽く近づいていく。
大きな体に似合わない軽い動きで、さっさっ、とやつのまわりをまわりながら、細かく拳を動かし始めた。
レスラーが相手だったら指示に従ってくれなかったかもしれないが、この奇妙な相手に対して、探究心のほうが勝ったか。
見た目には、スピード重視の攻撃を食らわせるやりかたにシフトしたように見える。
こうして見ているとよくわかる。
相手は、本当になにもしていない。
攻撃に合わせて、骨で受け止めたり、筋肉の多い部分に当てさせるように体を動かしたりもしない。
顔なら顔、腹なら腹。
フェイントとわかっていても、多少は反応するだろう。
しかし殴られる気でいる。
そうとしか見えない。
そして離れるベルガル。
わざとらしく手を広げた。
「おい審判、相手はやる気があるのかね!」
スレインが大声を出す。
「ただぼさっと突っ立ってるだけなら、誰でもできるぞ! それとも、頑丈だから、相手が降参するまで動かないってのかあ! うちのベルガルは、夜まで殴り続けることだってできるぜえ! それでいいのかあ!?」
審判がまた、手で、戦うよう示す。
「審判。冗談抜きで、戦う気がないやつは、警告でも与えるべきじゃあないのかねえ。さっきまではなにかしてたみたいだけど、すっかりおとなしくなっちゃってさあ!」
スレインが騒ぐと、審判は、また手で、戦うように示す。
ベルガルは動いているのだから、審判が見ているのは相手側だ。
「お」
やっと、相手の男が歩きはじめた。
ベルガルにゆっくり向かっていく。
と思ったら、ふっ、と消えた。
ドン! とベルガルに体当たりをしていた。
さっきまでのように、武舞台の端まで飛ばされることはなかったが、それでも足がもつれるように数歩さがった。
力では、なかなか難しい。
「なに、自分から動けるんじゃない。返し技じゃないんじゃない?」
ペインゴッドがスレインに言う。
「かもなあ」
スレインがだるそうにベンチに座った。
「だとすると困るな」
オレはしっかり、ベルガルの相手、ナガレを見た。
「特級を持ってるようだが、使ってる様子がない」
「使ってないってどういうことです、ボス」
「わからん」
オレは、ベルガルに、好きになるよう指示を出した。
また、さっきまでの光景にもどった。
ベルガルが突っ込んで、しばらく攻撃をするとふっとばされる。
「自分から攻撃するときは、大したことなかったよなあ。てことは、多少、ベルガルに攻撃させることに意味があるんだと思うんだがなあ」
スレインが首をひねる。
「そう、こっちに思わせたいんじゃないの」
「なんのために」
「さあ。知らなあい」
ペイゴッドは、興味なさそうに、のびをした。
「面倒なことになってきたな」
オレは考える。
「もう、ベルガルは降参させて、おれが行きましょうか、ボス」
「気になることがある」
「なんです?」
「やつらは、勝ち抜き戦を希望したな。やけになったのか、とあまり深く考えなかったが。勝算があるとしたらどうだ」
「勝算?」
「やたらに物理攻撃に強いようだが……。他にも、耐性があったらどうする」
「耐性って、なんです?」
「あらゆる攻撃からの耐性があったらどうする」
「そんなもんあったら、どうしようもないでしょうよ」
スレインは肩をすくめる。
「実戦なら無視すりゃいいでしょうが」
「ここは実戦じゃない」
「無視できないとなると、かなりまずいでしょうなあ」
スレインにも、ペインゴッドやクロノにもだいたい言いたいことは伝わったようだ。
「やつらは、攻撃が効かない男、を見つけ出し、『戦争』に勝つつもりだとしたら。ということも真剣に考えなければならないかもしれないな」
「どうするの?」
「方向はふたつ」
「オレたちが用意してきた攻撃方法や、特級を使ってダメージを入れる方法を考える。さらに、やつ、ナガレは自発的な攻撃の場合は威力が落ちるという点について、深く考察し答えを導く」
「もうひとつは?」
オレは軽く息をはいた。
「ここで『戦争』に負けるようなことがあれば、計画進行が止まるどころか、もどるかもしれない。アイ国と対等にやれるなんて思う人間が増えては、アイ国にもどろうとするA級が出てくるかもしれないな。あの国王は、本気で平和を目指しているし、下に人間が集まると面倒だ」
「つまり?」
「『戦争』と同時進行で、ワガ国の王を暗殺するか」




